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「反パレスチナ的な検閲」でデザインコレクティブが展示を中止。ロンドンのバービカン・センターは陳謝

ロンドンのバービカン・センターで展覧会を開催していたデザイン集団、リゾルブ・コレクティブが、バービカン側から「反パレスチナ的な検閲」など不当な扱いを受けたことを理由に、会期半ばで展覧会を中止すると発表した。

リゾルブ・コレクティブのメンバー。Photo: ©Adiam Yemane

パレスチナからゲストを招いたイベントに「注文」

ヨーロッパ最大級の文化複合施設バービカン・センターで、約90メートルにおよぶ展示を行っていたリゾルブ・コレクティブ。「Them's the Breaks」(*1)というタイトルが付けられた同展は、図書の閲覧コーナーやワークショップ、ステージなど多面的な要素で構成されたものだ。イギリスのメディアは、この展覧会がアートとデザインの垣根を取り払い、地域社会との関わりを強く押し出したとして高く評価していた。


*1 「Them's the Breaks」は「仕方がない」「受け入れざるを得ない」を意味する表現。イギリスのジョンソン元首相の辞任スピーチで使われて話題になった。

建築家で著述家でもあるナナ・ビアマ=オフォスは、英ガーディアン紙への寄稿でこう書いている。「この展覧会には、制作に参加した多様な人々の声、作業、アイデアが生かされている。参加者の多様性は、このコレクティブの重要な側面だ。リゾルブの行動、ネットワーク、コミュニティ、コラボレーションの実践の中で、多様な人々が新たに組織化されていく」

しかしリゾルブは、展覧会を中止すると発表し、6月21日にインスタグラムでその原因を明かした。6月15日に行われたトークイベントにパレスチナのラジオ・アルハラの共同創立者が出演した際、バービカン・センターの関係者から、「パレスチナ解放についてあまり長く話さないように」との要請があったというのだ。バービカンはラジオ・アルハラに謝罪したが、リゾルブによれば、以下の説明にあるような複数の理由から展覧会の中止を決めたという。

「展覧会のオープニングで家族や親しい友人に敵意が向けられたこと。他の黒人や褐色人種のアーティストのグループと一緒に展覧会に入場したとき、高圧的な態度で不審者扱いを受けたこと。6月3日に行われたガット・レベルとのDJイベント『Cute and Sexy North』の終了後に即座に追い出され、見下した対応を取られたこと(展覧会のキュレーターとプロデューサーは会場に残っていた)」

レゾルブは、「Them's the Breaks」展に関連するすべてのプログラムを中止し、展示を撤去。7月3日からは「閉店セール」を行うと発表した。

差別的な「受け入れ難い経験」には疲弊するばかり

バービカン・センターのクレア・スペンサーCEOと、アーティスティック・ディレクターのウィリアム・ゴンペルツは声明で、リゾルブが「受け入れがたい経験を数多く」したことを認め、その決定を「全面的に支持する」としてこう述べている。

「バービカンでは、全従業員やここで共に働く人々が評価され、サポートされ、自分の居場所だと感じられるような新しい文化を築くために、すでに多くの取り組みをしてきました。しかし、まだ課題が多く残されていることは明らかです。バービカンがあらゆる人々を受け入れ、歓迎し、安心できる場所になれるよう力を尽くします」

リゾルブの展覧会は、過去数年にわたりバービカン・センターに寄せられてきた批判に応える企画でもあった。音楽イベントや演劇なども行われる同センターは、2020年に複数の有色人種の元スタッフから、雇用時に人種差別を経験したという抗議を受けた。リゾルブのメンバーであるアキル・スケーフ=スミスはガーディアン紙に対し、今回の展覧会ではアートセンターなどの施設を超えたところに存在する「場」を想起させることを意図していたと語り、さらに「社会のひび割れの中で活動することのメタファー」として展覧会を作り上げたと語っている。

一方、パレスチナ人アーティストの作品が反感を買い、ヨーロッパ各地のアートイベントで物議を醸したこともある。今回と似たような論争が起きたのは、たとえば2022年にドイツのカッセルで開催されたドクメンタだ。そこでは、パレスチナ人アーティストの参加とイスラエル人アーティストの不在が問題となり、ドクメンタ運営委員会は保守派政治家の主張に呼応し、展覧会の内容に「イスラエルに関連した反ユダヤ主義」があったと発言している

リゾルブはこう述懐している。「ここで経験したことを許したり、見なかったことにしたり、理論的に説明しようとするたびに自分自身をすり減らすばかりで、慰めの1つも与えられませんでした。ゾラ・ニール・ハーストン(*2)の『もしもあなたが自分の痛みについて黙っているなら、彼らはあなたを殺し、あなたがそれを楽しんでいたと言うでしょう』という言葉は、一顧だにされなかったのです」(翻訳:清水玲奈)


*2 アフリカ系アメリカ人の女性作家、民俗学者。1920年代に広まった、民族的覚醒と黒人芸術・文化の興隆「ハーレム・ルネサンス」の主要人物でもある。

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