「批評は、人々に批判的であることを教えるもの」──著名美術批評家ロバータ・スミスが引退を発表
アメリカの美術評論家、ロバータ・スミスが、ニューヨーク・タイムズ紙の共同主任美術評論家の職を退くことが発表された。
ロバータ・スミスは1948年生まれ。1960年代にドナルド・ジャッドと出会って親交を深め、ミニマル・アートへの関心を高めていった。1970年代には『Artforum』、『Art in America』、『ARTnews』、『Village Voice』などの美術専門誌に寄稿し、1986年からはニューヨーク・タイムズ紙での執筆の機会を得て、1991年に同紙に入社。2011年からはピューリッツァー賞を受賞した批評家ホランド・コッターとともに、女性として初めて美術評論の共同主任に就任した。同紙の発表によると、スミスは1991年以来、4500本以上のエッセイや評論を手掛けてきた。
スミスは、芸術評論にありがちな専門用語を排した、スタイリッシュで鋭い批評で高い評価を得てきた。独学でテキスタイル、セラミック、ビデオアートを学んで読者に紹介する一方で、アリス・トランブル・メイスン、アリス・ニール、アグネス・ペルトン、マルグリット・ゾラックなど女性画家たちの素晴らしい仕事を称賛し、過小評価されている作家たちに光を当てた。1989年には、ほとんど無名だったヒルマ・アフ・クリントを紹介している。
彼女はかつて、「批評は、人々に批判的であることを教えるものだと思います」と言っている。
「(批判は)ある意味、民主主義には不可欠なものです。 私がしていることを誇張したくはないですが、批評は、あなたがこの特定の分野で批判的であるためのひとつの方法を示しているようなものであり、私は願わくば、人々が批判的なものの見方を得ることを願っているのです」
スミスはアートジャーナリズムへの貢献が認められ、2019年に第1回ドロシア&レオ・ラブキン財団生涯功労賞を受賞。5万ドル(現在の為替で約734万)が授与された。
スミスは引退について、自身のインスタグラムでこう述べている。
「私はまだ2、3カ月に一度、ニューヨーク・タイムズ紙に短い批評を寄稿していますし、さらにアイデアが浮かべば、それについて書くことも出来ます。無駄な努力が多い私の人生の中で、(引退後は)一番の関心事であるギャラリーや美術館に行き、作品を見ることを追求する時間を増やすでしょう。しかし、定期的な執筆の約束がないのは、1972年以来初めてのことです」
そして彼女は「アートの存在が私を若く保ってくれている」と言い、こう続けた。
「今後は、生の音楽やダンス、演劇が同じ働きをしてくれるかどうか、私は楽しみにしています。どんな形であれ、生活の中にアートがあることは信じられないほど幸運です。しかし、本当の幸運は、アートを愛し、アートを追い求める人々が、私たちの生活の中に完全に存在していることなのかもしれません」
美術評論家、ジェリー・サルツは自身のインスタグラムで、自身の妻の功績をこう称えた。
「私は偏見を持った批評家だが、ロバータ・スミスは存命の美術評論家の中でも最高に純粋だと信じている。その率直さ、誠実さ、簡潔さ、観察力、差異や状況を解析する能力、芸術への愛、アーティストへの敬意、作品がどのように作られるのかへの強い探求心は、彼女を唯一無二の不可欠な存在にしています。彼女は1986年から38年間タイムズ紙に在籍しており、週刊誌や、定期的な死亡記事、評論家ノートなど、記憶に残る仕事をこなしてきました」
ニューヨーク・タイムズ紙のアート・エディター、バーバラ・グラウスタークは声明の中で、「ロバータは50年以上のキャリアの中で、特にアウトサイダー・アートや工芸など、社会から疎外された分野のアート制作に新たな文脈を付加することに成功し、新しいものを励まし、見過ごされてきた作家を称えてきました」と彼女の功績を賞賛した。
スミス退任後、後任が採用されるかどうかは明らかにされていないが、彼女の退社はニューヨークの美術評論家コミュニティにおいて、ここ数年で2人目の大きな人事ニュースだ。長年ニューヨーカー誌の美術評論家として活躍したピーター・シェルダールが在任中の2022年に死去し、昨年、ジャクソン・アーンが後任に就いた。(翻訳:編集部)
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