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「中国に健全なアートのエコシステムを」──デローラ・スアンチャオ・チェ(Delora Xuanqiao Che)【アート界が注目するアジアの若手コレクター Vol.6】

今年34回目を迎えたUS版ARTnewsの名物企画、「TOP 200 COLLECTORS」リスト。中でも今年の注目は、アジアで台頭著しい若手コレクターの存在だ。その面々を紹介する企画の第6弾は、中国における現代アートのエコシステム構築を目指すデローラ・スアンチャオ・チェ。

約130点のコレクションを所有するデローラ・スアンチャオ・チェ。Photo: Courtesy the collector

拠点:上海 
職業:家具・インテリア用品メーカー
収集分野:現代アート(主に中国の新進・中堅作家、ジェンダーや環境問題をテーマにした作品)

中国現代アートのエコシステム構築を目指す

中国の大手家具メーカーの後継者であるデローラ・シュアンチャオ・チェが、北京のユーレンス現代美術センター(UCCA)と、自分が副社長を務めるレッド・スター・マカリン(紅星美凱龍)の共同企画による展覧会のオープニングに出席したのは、2014年のことだった。ちなみに、彼女はインテリアブランド「THE SHOUTER」の創設者でもある。

「M Home: Living in Space」と題されたこの企画展には、ス・ドホ、張恩利、奈良美智、ローリー・シモンズら現代アーティスト12人が参加し、住まいの美学に関わる作品が展示された。これをきっかけにアート界とのコネクションを得た彼女は、少しずつアート作品をコレクションするようになった。

「すぐにアートの世界に飛び込むのではなく、まずは他の人たちから学ぶことを主眼に、コツコツと前進しようと考えました」とチェは振り返る。

「次第にアートプロジェクトやパフォーマンス・アートなど、柔軟な解釈が可能な作品に関心を持つようになり、数年後には現代アート振興のため、チームを編成して計画的な活動に取り組むようになったのです」

その言葉通り、彼女は2019年にマカリン・アート・センターを設立。2022年には北京の798芸術区で約930平方メートルの2階建て展示スペースを開館した。「中国の比較的単調なアートのエコシステムが豊かになるよう、このアート・センターが新しい可能性を切り拓く一助になることを願っています」と彼女は抱負を語る。

開館以来、同センターは5つの展覧会を開催し、ビデオ・アーティストへの委託制作プログラムも開始した。だが、コレクターとしてのチェの収集対象は、ビデオ・アートに留まらない。「収集や委託制作を通じて中国のビデオ・アーティストを支援するのは、この地にアートのエコシステムを育成し、そのエコシステムに基づいたコレクションのやり方を構築する1つの方法なのです」とチェは説明する。

ダヴィッド・ドゥアール《Here 2》(2023)Photo: Jiayun Deng

ジェンダーや環境など、喫緊の問題に取り組む作家に注目

コレクターとしてチェが最初に購入した作品は、京都を拠点に活動するアーティスト、名和晃平の「Direction」シリーズの1点で、白いカンバスに黒いインクを斜めに流しかけたダイナミックな抽象画だった。

「この作品は、時間と流れ落ちる運動によって、絵の具が平らなカンバス上に固まっていくのを感じさせます。時間を固形化させるというアイデアに心を動かされました」

約130点のコレクションを所有する彼女が最近購入した作品には、ダヴィッド・ドゥアールによるミクストメディアの絵画、ミモザ・エシャールの彫刻、ベルリンを拠点とするアーティスト、カシア・フダコフスキーの彫刻などがある。フダコフスキーは、今年6月のアート・バーゼルで初めて知ったアーティストだという。

チェが取り組んでいるのは、「中国の現代アートシーンやその歴史に長い間つきまとってきた『国内』と『国際的』という概念を覆し、それに代わる中国独自の価値観を探求しつつ、中国の文脈に沿った認識を生み出すこと」。とりわけ支援したいと考えているのは、「今日性があり、現代という時代に密接な関わりを持つ」アーティストだ。中でも、ジェンダーや環境など、差し迫った問題に取り組んでいるアーティストたちに注目している。

5年後、10年後、チェのコレクションはどのように発展しているだろうか? 彼女は、具体的な計画はまだ考えていないものの、時代の変化に対応したものにしていきたいと答えた。

「流動性があり、世界と共鳴するようなコレクションになることを願っています。大規模な美術館の多くは、将来の美術史に資するという観点で作品を収集しています。それはとても重要なことだと思いますが、私はコレクターとして、現在のアートのエコシステムに貢献し、力量のあるアーティストの創作をサポートしていきたいのです。優れた現代アート作品は、健全なアートのエコシステムの中でしか生まれません」

さらに、「コレクターとしての活動は、私にとって義務のようなものです」とチェは続けた。「私はコレクターという役割を担い、アーティストをサポートし、チャンスを提供することができる。アートを収集できる立場にありながら、そうしないことを選んだとしたら、自分を利己的な人間だと思うでしょう」(翻訳:清水玲奈)

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