「新進アーティストへの信頼と支援が、若いコレクターの使命」──ノ・ジェミョン(Noh JaeMyung)、パク・ソヒョン(Park SoHyun)【アート界が注目するアジアの若手コレクター Vol.4】
今年34回目を迎えたUS版ARTnewsの名物企画、「TOP 200 COLLECTORS」リスト。中でも今年の注目は、アジアで台頭著しい若手コレクターの存在だ。その面々を紹介する企画の第4弾は、評価の確立していない若手アーティストを積極的に支援しているノ・ジェミョンとパク・ソヒョン夫妻。
拠点:ソウル
職業:起業家(教育)
収集分野:現代アート
感情に揺さぶりをかけてくる作品を追い求める
ソウル在住で、妻のパク・ソヒョンとともにアートをコレクションしているノ・ジェミョンは、「コレクションの際にまず考えるのは、作品やアーティストが楽しさをもたらしてくれるかどうかです」と語る。
「作品の楽しさは、きれいだから、醜いから、グロテスクだから、ユニークだから、あるいはぎこちなさを感じさせるから、といったさまざまな理由で生まれてくるものです。ポジティブであるかネガティブであるかを問わず、感情を大きく揺さぶるような作品が、私にとっての優れたアートなのです」
ノと妻のパクの所有作品は200点を超える。その中で、コレクションの象徴的存在であり、アートにおける「楽しさの真の意味」を端的に示すと2人が考えているのが、デイヴィッド・アルトメジョとレベッカ・アクロイドの彫刻だ。アルトメジョの《The Portal Architect》(2020)は男性の胸像で、小さな円盤の連なりが2本、頭から上に延びている。一方、アクロイドの《Direct Lines》(2019)では、人体からはがされた皮のように見える物体が長椅子に置かれており、どちらも見る者に気味の悪さを感じさせる。
この2作品についてノはこう語る。「デイヴィッドは、腐敗、再生、変容のプロセスを示す彫刻を制作しています。その作品をじっくり見れるようになるには時間がかかりましたが、慣れてくるにしたがって彼に興味を持つようになりました。その後レベッカの作品に出会い、2人の制作物を組み合わせたらきっと素晴らしいものになると考えました」
若手アーティストの支援は若いコレクターの役割
ノとパクにとって、結果としての作品と同じくらい重要なのは、制作のプロセスやアーティストの意図だ。こう考えるようになったのは、アートを買い始めて以来、世界観が変化したからだという。「作品を見ていると、作者が何を考えていたのか、その人がどんな環境で暮らしていたのかが気になります。そのように他人の世界に足を踏み入れていくと、自分以外の人々をよりよく理解できるようになります」
夫妻の収集の中心は新進アーティストで、「活動が発展していく可能性のある」若手を常に探している。最近コレクションに加わった中には、パム・エブリン、リチャード・ケネディ、レイチェル・ジョーンズ、そしてジゼラ・マクダニエルがいる。マクダニエルの作品は、今年6月のアート・バーゼルで、ロンドンのギャラリー、ピラー・コリアスから購入したが、ノは長い間その日を待ち望んでいたという。
「このアーティストには以前から関心があり、自分のコレクションに加えたいとずっと思っていました」
夫妻が新進アーティストに集中することに、疑問を投げかける人もいるという。しかしノがその姿勢を変えることはない。
「まだ評価が確立されていない若いアーティストを信頼して支援することこそ、若いコレクターが果たすべき役割です。それに、アーティストたちが変化していく過程を見るのは、大きな喜びです。アーティスト、特に若いアーティストは、発展し、成長し、ときには道に迷うこともありますが、変化をじっくりと見守っていくことが、私にとって何よりの幸せなのです」(翻訳:清水玲奈)
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