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2027年「ドクメンタ16」の芸術監督に69年の歴史で初の黒人女性。女性としては5人目

ドイツのカッセルで5年に1度開催される芸術祭ドクメンタ」の2027年版の芸術監督に、グッゲンハイム美術館の副館長兼チーフキュレーターであるナオミ・ベックウィズが就任することが発表された。黒人女性の選出は、69年の歴史の中で初めてだ。

ドクメンタ16の芸術監督に選ばれたナオミ・ベックウィズ。Photo: Craig Barritt/Getty Images for Guggenheim Museum

12月18日、ドイツのカッセルで5年に1度行われる芸術祭ドクメンタ」の2027年版「ドクメンタ16」(2027年6月12日から9月19日まで)の芸術監督に、グッゲンハイム美術館の副館長兼チーフキュレーターを務めるナオミ・ベックウィズが選ばれた。ドクメンタの69年の歴史の中で初の黒人女性となり、女性の芸術監督としては、キャサリン・デヴィッド(1997年)、ルース・ノアック(2007年)、キャロリン・クリストフ=バカルギエフ(2012年)、ルアンルパ・メンバーのナターシャ・イリッチ(2022年)に次いで5人目。アメリカ出身者としては2人目(1人目はクリストフ=バカルギエフ)となる。

1976年生まれのベックウィズは、ハーレムのスタジオ美術館、フィラデルフィア現代美術館、シカゴ現代美術館でキュレーターとしての経験を積み、2021年にグッゲンハイム美術館に移籍した。過去、2011年にスタジオ美術館で開催されたリネット・ヤイドム=ボアキの回顧展や、2018年にシカゴ現代美術館で行われたハワード・ピンデルの回顧展など注目すべき展覧会を手掛けているが、最も記憶に新しいのは、2021年にキュレーターとして参加した、ニューミュージアムの展覧会「Grief and Grievance: Art and Mourning in America(悲しみと苦悩:アメリカにおけるアートと追悼)」だろう。これは、ドクメンタ11の芸術監督だった故オクウィ・エンヴェゾーが企画したもので、黒人アーティストが喪失感や悲しみをどのように表現してきたかに焦点を当てた。ベックウィズは現在、2025年にグッゲンハイム美術館で開かれるラシッド・ジョンソンの回顧展の準備に取り組んでいる。

ベックウィズに決定するまでの道のりは、2022年に開催された「ドクメンタ15」以来、長く波乱に満ちたものだった。2023年11月に、主催側が、選考委員の1人がイスラエルのガザ地区侵攻に関して「反ユダヤ主義的」な姿勢であると非難したことを受けて選考委員会の全員が辞任し、計画は白紙に。2024年初めに全く新しい選考委員会が組織された。

ドクメンタ16の選考委員会。写真左からグリティヤ・ガウィーウォン、イルマズ・ジヴィオル、ヤスミル・レイモンド、片岡真実、ンゴネ・フォール、セルジオ・エデルシュタイン。 Photo: Kassel 2024, Nicolas Wefers

そんな中で選ばれたベックウィズだが、大抜擢の人事と言える。これまでドクメンタの芸術監督を務めた人物は、事前に少なくとも1つの大きなビエンナーレを経験しているが、彼女は展覧会の企画では知られているものの、アメリカ・ニューメキシコ州にあるSITE Santa Feで隔年開催の「SITElines」展のキュレーター委員会に1度参加し、2015年のヴェネチア・ビエンナーレで審査員を務めた程度だ。

この選出について、ドクメンタ16の選考委員会会長でカッセル市長のスヴェン・ショエラーは、「ドクメンタの新たな未来の始まり」と称した。また、選考委員のルートヴィヒ美術館館長イルマズ・ジヴィオルは、「私たちの議論は、現在のドクメンタの状況の複雑さと絡み合いを反映したものであり、決定を下すのは容易ではありませんでした。私たちは、ナオミ・ベックウィスの専門知識と国際的なキュレーション経験に確信を持っています。彼女のドクメンタ16に対する提案は、ともに考えられる未来のツールとなる芸術的実践を扱っています」と話した

またベックウィズは、「ドクメンタ16の芸術監督に選ばれたことは、生涯の名誉です」と述べ、次のように語った。

「ドクメンタは、カッセルのみならず全世界に属する芸術祭です。また、現在のアートや文化のバロメーターであり、歴史と絶え間なく対話する場でもあります。私はこの責任の重さに身が引き締まる思いです。同時に、この由緒ある寛大な機関と私の研究やアイデアを共有できることに興奮しています。ドクメンタは、アーティスト、キュレーター、観客がともに深く研究・探求・実験し、新たな視点を得るための空間と時間を与えてくれるのです」

ドクメンタは、2年に1度ヴェネチアで開催される芸術祭、ヴェネチア・ビエンナーレに比べてアカデミー色が強いと一般的に認識されているが、前回の「ドクメンタ15」で「論争」というレッテルが貼られてしまった。会期中は幾度となく展示作品の反ユダヤ主義が問題となり、総監督が辞任する事態に陥った。これらの議論は現在も続いており、ドイツの政治家たちは、次回の「ドクメンタ16」を厳しく監視している。

この論争について、ベックウィズの任命発表ではほとんど言及されなかったが、ヘッセン州の科学・研究担当大臣ティモン・グレメルスは声明を発表し、「ドクメンタはついに芸術と議論の自由と反ユダヤ主義と差別からの保護の間の良いバランスを見つけた」と賛辞を述べた。

今回の発表で、世界2大芸術祭とも言われるドクメンタとヴェネチア・ビエンナーレはいずれも、トップに初となる黒人女性を迎えることとなった。ヴェネチア・ビエンナーレは先日、ディレクターにケープタウンのZeitz Museum of Contemporary Art Africaを率いるカメルーン生まれのキュレーター、コヨー・クオを任命している。(翻訳:編集部)

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