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反ユダヤ主義疑惑でドクメンタから作品が撤去されたタリンパディ、別作品の「ある部分」を黒テープで隠す

  • 2022年8月25日
  • INTERNATIONAL

Text: Alex Greenberger

ドイツのカッセルで5年に1度開催される国際美術展、ドクメンタ。反ユダヤ主義をめぐる論争に揺れ続ける今年のドクメンタ15で、新たな問題が持ち上がった。6月の開幕直後に作品が撤去されたタリンパディが、別の作品の一部を隠したことを批判される事態になっている。

ドクメンタ15に展示されているタリンパディの作品 Photo Uwe Zucchi/dpa/picture alliance via Getty Images

6月にドクメンタ15が始まるや否や、インドネシアのアーティストコレクティブ(集団)、タリンパディの壁画に反ユダヤ主義的な図像が含まれているとの非難が相次いだ。この壁画は黒い布で覆い隠された後に完全に撤去されたが、騒動を受けて手が加えられたタリンパディの作品は、これだけではなかったようだ。

8月15日、ドイツのユダヤ系青年団体ユンゲス・フォーラムDIGが、タリンパディの作品の中に反ユダヤ的な図像を発見したとソーシャルメディアで発信。同団体がキッパ(*1)をかぶった男性だと主張する絵の、加工の前後を示すと思われる2枚の画像が投稿された。この絵の男性がかぶっている帽子は現在、黒いテープで隠されている。


*1 キッパあるいはキッパ―とは、ユダヤ教徒の男性がかぶる円い小さな帽子(イディッシュ語ではヤムルカ)。

ユングス・フォーラムDIGはツイッターに「ナチスの出版物に描かれていたような、カギ鼻で強欲そうなユダヤ人の風刺画だ」と投稿し、タリンパディをドクメンタから排除するよう呼びかけた。

問題とされたのは、2010年に制作された木版画《All Mining Is Dangerous(あらゆる採掘は生活をおびやかす)》だ。そこには、大手企業ラピンドがジャワ島東部で行った天然ガス試掘の現場で2006年に引き起こされた環境破壊が描かれている。掘削が原因で天然ガス田から有毒な泥土が噴出する泥火山という現象が起き、周辺地域を飲み込んで10人以上が亡くなった。


ユンゲス・フォーラムDIGのツイッター投稿。画像右は修正前、左は修正後のタリンパディ作品
画像引用元:https://twitter.com/JuFoDIG/status/1559266934289571842

タリンパディは、誤解を招く恐れがあるため6月に作品に手を加えたという声明を出し、「あれはユダヤ教の人々がかぶっているものではないし、そう見せようと意図したこともない」と説明している。版画に描かれているのはインドネシア人で、かぶっているのはキッパよりも一回り大きいコピアと呼ばれるインドネシアの伝統的な帽子だという。

タリンパディは、作品の修正を決めたことを認める一方で、こう付け加えている。「これは隠蔽のためではなく、作品が展示されている現在の文脈に対する美術的観点からの選択だ」

インドネシアのアーティストコレクティブ、ルアルンパが芸術監督を務めるドクメンタ15に対しては、開幕前からドイツ国内のユダヤ人団体が「反ユダヤ主義的だ」という批判を繰り返してきた。

反ユダヤ主義疑惑の中で最も注目されたのは、今回の展示で最大級の作品だったタリンパディの巨大壁画撤去の一件だった。これを受けて、ドクメンタの総監督が辞任。複数のドイツの政治家からは、今後ドクメンタに対する国からの助成金を減らすかもしれないと脅すような発言もあった。

パレスチナのコレクティブ、クエスチョン・オブ・ファンディングの参加をめぐっても、似たような論争が起きている。ドイツに拠点を置く複数のユダヤ人団体が、このコレクティブが親パレスチナ運動のBDS(ボイコット、投資の引き揚げ、制裁)を支持していると主張。ルアンルパとドクメンタは、クエスチョン・オブ・ファンディングを参加させたことは、反ユダヤ主義にはあたらないと反論したが、同コレクティブの展示スペースが落書きされるという事件も起きている。落書きの内容についてドクメンタ側は、殺害予告とも取れる脅迫だとしている。

この数週間というもの、ほかの展示作品にも反ユダヤ主義的な図像がないかどうか、鵜の目鷹の目で探す動きが続いている。その中で、アルジェリアのアートコレクティブ「Archives des Luttes des Femmes en Algérie(アルジェリア女性の闘いのアーカイブ)」の小冊子がドイツのユダヤ人団体による非難の対象になった。そこには、イスラエル兵によるパレスチナ人への暴力が描かれている。これを受けてドクメンタは、作品に関する説明文を新たに設置したが、作品を撤去することはしないとしている。

タリンパディの作品にも、その背景を解説する次のような文章が追加された

「冷戦中、反共産主義が世界を覆う中で、スハルト政権の全体主義的な国家政策は(それは学校や大学の運営にも及んでいた)、米国やイスラエル、ドイツ、英国などの西側諸国から強い支持を得ていた。この時期、特に大学において、学生たちは独裁国家に抗うためにコレクティブを結成した。タリンパディ、ルアンルパなどの集団は、この社会政治的な文脈の中で生まれている」(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年8月17日に掲載されました。元記事はこちら

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