保守派に「小児性愛の表現」と訴えられた絵画の展示続行が決定。「訴えはアートに対する侮蔑」
スイス出身のアーティスト、ミリアム・カーンの個展で展示中の新作絵画が小児性愛を助長しているとして、作品撤去を求める裁判がパリのパレ・ド・トーキョーに対して起こされた。しかし、即日で展示継続の判決が下された。
対象となった作品は、現在パレ・ド・トーキョーで開催中のミリアム・カーンの個展「MA PENSÉE SÉRIELLE」(~5月14日)で発表された新作《fuck abstraction!》だ。筋肉質な人物が、両手を縛られた小柄な人物を暴行する様子が描かれている。
カーンはこの作品について、ロシア人がウクライナで行っている人権侵害を描いたものであると明かしている。彼女は創作の理由について、「ウクライナでの女性や子どもへのレイプの報道や、ブチャの集団墓地の画像を見て衝撃を受け、手を縛られレイプされた後に殺されて路上に投げ出された人物を描こうと思いました。戦争で繰り返される暴力を描くことは、ショックを与えるためではなく、糾弾するためです」と話す。
しかし、フランス保守派の政治家たちは、小さい方の人物は未成年であり、この絵を展示することで、カーンとパレ・ド・トーキョーは子どもの搾取を助長していると主張。超保守派のマリーヌ・ルペンを支持する政治家、カロリーヌ・パルマンティエが「児童保護の名において、子どもの権利代表団のメンバーとして、文化大臣に撤去を求める」とツイートするなど、作品を非難するソーシャルメディア上の投稿は拡散され、何千もの「いいね!」がついた。
こうして《fuck abstraction!》をめぐる騒動はさらに急拡大し、フランス文化相のリマ・アブドゥル・マラクまでもが、SNSで表現の自由を擁護する発言をするに至った。
その後3月27日に、子どもの権利を保護する6つの団体がフランスの裁判所に、展覧会から《fuck abstraction!》を撤去するよう訴えを起こしたが、その24時間後には、裁判所はパレ・ド・トーキョーとカーン側を擁護する判決を下した。
フランスのメディアLibérationによると、裁判官のシルヴィー・ヴィダルは判決の理由について、「この作品は、カーンのステートメントにあるように、戦争の恐怖を告発すること以外の目的で制作されたとは考えられない」と話している。
またヴィダルは、この絵が子どもを性的に描写しているという主張に対してこう反論する。
「この絵は児童ポルノではありません。焦点となっている基本的な自由とは、表現と創作の自由のことです」
裁判所はまた、パレ・ド・トーキョーはカーンの作品に警告文を設置するなど、十分な対策を行っていたとした。
カーンの作品は、世界各地の紛争、反ユダヤ主義、人種差別、その他の偏見を糾弾するために、しばしば過激な表現を行ってきた。彼女の作品には、しばしば男性から女性に加えられる性的暴力の場面が描かれる。同様の作品は近年、ヨーロッパ各地の回顧展や2022年のヴェネチア・ビエンナーレとドクメンタ15で展示されている。
同館によると、これまでに4万5000人が同展を訪れたという。
この判決を受けて、パレ・ド・トーキョーは会期終了まで《fuck abstraction!》を展示すると発表し、次のような声明を発表した。「美術館や作家側への確認もせずに、この絵画についての誤った認識が数千人のインターネットユーザーに拡散されました。芸術作品という表現、そして人権尊重における世界中の美術館の基本的な役割に対する侮蔑を遺憾に思います」(翻訳:編集部)
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