ドクメンタが新行動規範を発表。分裂を促す「反ユダヤ主義」定義に基づく「検閲」とする非難の声も

ドクメンタ15で物議を醸した反ユダヤ主義を巡る論争に終止符を打つべく、同芸術祭は新たな行動規範を公開した。国際ホロコースト記憶連盟(IHRA)が定義した反ユダヤ主義に基づいて作成されたこの規範について、ドイツ国内では賛否が分かれている。

ドクメンタ15の風景。Photo: Swen Pförtner/dpa/picture alliance via Getty Images
ドクメンタ15の風景。Photo: Swen Pförtner/dpa/picture alliance via Getty Images

5年に1度ドイツ・カッセルで開催される芸術祭ドクメンタは、2022年に実施されたドクメンタ15で物議を醸した反ユダヤ主義を巡る論争の混乱を収拾するべく、新たな行動規範を2月上旬に発表した。

ナオミ・ベックウィズがキュレーションを担当するドクメンタ16の開催に先立って同芸術祭が発表した行動規範には、「人間の尊厳に対する寛容と尊重を体現すると同時に、あらゆる形態の反ユダヤ主義、人種差別、その他の集団に関連する嫌悪的な思想に断固として反対する」と記されている。

この行動規範は、対象が芸術作品であろうとなかろうと、国際ホロコースト記憶連盟(IHRA)が定めた対立を助長する反ユダヤ主義の定義に基づいているとして、親パレスチナの態度を表明するアーティストに対する検閲であるとの批判が一部で既に生じている。

国際ホロコースト記憶連盟(IHRA)が定めた反ユダヤ主義の定義では、ユダヤ人に対するさまざまな差別が列挙されている。そこには、「イスラエルという国家の存在が人種差別的な企てであるという主張は、ユダヤ民族の自決権を否定を意味する」といった内容も含まれる。

IHRAの反ユダヤ主義を導入した文化組織は過去にも存在する。ベルリンの文化大臣ジョー・チャロは、IHRAの反ユダヤ主義に反対することを助成金受給の条件とする条項を過去に導入しようとしたが、方々から大きな反発を受け実現には至らなかった

こうした動きに対し、アーティスト主導の運動である「ストライク・ジャーマニー(Strike Germany)」は、シオニズムへの批判はユダヤ人に対する差別ではないと定める「反ユダヤ主義に関するエルサレム宣言」で提示された定義を採用するよう、ドイツの文化機関に促している。

ドクメンタが曖昧な表現を用いたこともあり、行動規範に対する反応はドイツ国内で大きく分かれている。例えば、美術史家でライターのサスキア・トレビングはドイツのアート誌『Monopol』に寄稿した記事の中で、行動規範の「ドクメンタが芸術的表現をこの行動規範に示された行動原則と対立すると判断する場合、それに対する立場を表明する権利を留保し、必要に応じて展示作品の直接的な知覚範囲内において文脈化することを通じてそれを表現する」という部分を引用し、表現の曖昧さを指摘した。

そして、この曖昧さゆえに、「芸術面の管理者と組織運営の管理者との間で意見の不一致が生じた場合、必ずしも相互に合意した解決策を見つける必要はなく、異なる評価が並存することを認める可能性を開くものである」と続けた。トレビングはさらに、この対応は2022年にドクメンタ15がタリンパディの作品を撤去した際にもとられていたことを指摘している。

一方で、より批判的な見解を示す人々もいる。例えば、アーティストのアダム・ブルームバーグは、「アヴァンギャルドの限界は、今やシオニズムによって定められている」とInstagramに投稿した

ドクメンタは行動規範が一般公開される数日前に、「特定の文脈における現在の社会的・学術的言説」を促進することを目的とした科学諮問委員会の発足を発表したが、この委員会とドクメンタ16がイスラエルやシオニズムとどう向き合うかは明確化されていない。(翻訳:編集部)

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