ドクメンタ16が暗礁に。イスラエル・ハマス紛争に関連して選考委員が全員辞任
ドクメンタが、異例の事態に直面している。イスラエル・ハマス紛争に関連して、先週退任したイスラエルの芸術家・哲学者のブラッハ・L・エッティンガー及びインドの詩人・評論家のランジット・ホスコテに続き、残りの4人の選考委員たちも辞任を発表したのだ。
ドクメンタは11月16日、「非常に困難な意思決定プロセス」を経て、2027年版ドクメンタの選考委員だった残りの4人、シモン・ンジャミ、ゴン・ヤン、キャスリン・ロンバーグ、マリア・イネス・ロドリゲスの辞任の申し出を受け入れたと発表した。
4人は、16日の夜にe-fluxと通じて発表した書簡の中で、「現在のドイツには、ドクメンタのアーティストやキュレーターが望むようなオープンな意見交換や複雑な芸術的アプローチを考えるためのスペースはありません」と語り、「短期間のうちに、私たちが望む条件が整うとは思えません。ただ現状に満足するだけでは、ドクメンタのヘリテージにかえって傷をつけることになりかねません」と続けた。
11月12日に退任を発表したイスラエルの芸術家・哲学者のブラッハ・L・エッティンガーは、10月7日のハマスによる攻撃後、母国が直面している「暗い時代」の中、対面での会合に出席できなくなったことを理由に辞任を決めたと語っている。
その翌日に辞任したインドの詩人・評論家のランジット・ホスコテは、ドクメンタが「反ユダヤ主義的」と呼ぶ2019年の書簡に署名していたことが明らかとなり、ドクメンタが名指しで非難していた。ホスコテは辞表の中で、「この険悪な雰囲気の中では、懸案の問題について微妙な議論をする余地がないのは明らか」と述べている。
昨年、開催されたドクメンタ15は幾度となく反ユダヤ主義が問題となり、ドイツのクラウディア・ロート文化大臣を含む多くのドイツの政治家が、ドクメンタの支援を打ち切る可能性を示唆していた。
こうした流れの中で、ドクメンタの終焉を語り始める者も出てきた。ニューヨーク・タイムズの批評家ジェイソン・ファラゴはこう書いている。
「今後、ドクメンタがこれまでのように尊敬を集め、卓越した存在であり続けるとは思えない。1つのショーで全世界を想像するという目的は、もう取り戻せないだろう」
また、ホスコテは自身の辞表の中で、「残念ながらこのような状況は、ドクメンタが歴史的に多様性に開放的な立場であり続けてきたこと、そして、そうした協力的な環境の中で想像力を保ち続けてきた能力を否定するものであると言わざるを得ません」と述べている。
今回、残りの4人も辞任届の中でこうした緊張関係について言及している。
「ドクメンタ15以降、特に世界が直面している現在の危機を背景に、感情と理性の両方において、複雑な現実を過度に単純化し、その結果、抑圧的な制限を設けざるを得ないと考える風潮が蔓延しています。そんな中で我々は、もはや強力かつ示唆的な展覧会を企画することも、ドクメンタ16のキュレーション・コンセプトを決定するための選考プロセスを責任を持って全うすることも不可能であると判断しました」
選考委員を全て失ってしまったドクメンタが、かつてない問題に直面しているのは確かだ。ドクメンタは、同じ声明の中で、「イスラエル・ハマス紛争勃発後の現在の世界情勢の中で、芸術監督の選出プロセスを完全に保留することを検討している」と明かしている。さらに、ホスコテとエッティンガーに代わる2人の新選考委員を迎え入れることで議論を継続しようと計画していたが、残りの4人も辞任したことで、それは叶わなくなってしまったとも書いている。
ドクメンタは声明の中で、選考委員が全員辞任したことについて「彼らの決定を尊重し、関係者全員の尽力に感謝します」と述べ、選考委員会をゼロから再結成することを約束したが、予定通りドクメンタ16を2027年に開催するかどうかについての言及はなかった。
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