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旅先で必見! ヨーロッパからアジア、中東、南米まで、世界各地で開催される今秋の注目展覧会25選

2023年は、ドクメンタもなければヴェネチア・ビエンナーレもなく、ベルリンやシドニーのビエンナーレもない。しかしその分、世界中の主要美術館で大規模な回顧展や注目の展覧会が目白押しだ。この秋に開催される中から、25のおすすめ展覧会をピックアップ!

ライオネル・ファイニンガー《Leviathan (Dampfer Odin I)》(1917) Photo: ©2023 VG Bild-Kunst, Bonn/Private Collection

ピカソ没後50周年にあたる今年はいたるところでピカソ展が開催されているが、今秋パリのポンピドゥー・センターでも、ドローイングや版画など紙を支持体とした1000点近い作品の展覧会が予定されている。

また、マリーナ・アブラモヴィッチKAWS、マリソルなど多彩なアーティストの個展が開催されるほか、キム・グリムやギャヴィン・ヤンチェスなど、これまで国際的な知名度があまり高くなかったアーティストの大規模個展もある。これを契機に、彼らは自国の外でも美術史における重要作家として評価を確立していくことだろう。

ドクメンタ以下、アメリカ国外の美術館での価値ある25の展覧会を紹介しよう。(展覧会名/施設名で掲載)

1. エドガルド・ヒメネス展「Edgardo Giménez: No habrá ninguno igual」/ブエノスアイレス・ラテンアメリカ美術館

ブエノスアイレス・ラテンアメリカ美術館で開催中の「Edgardo Giménez: No habrá ninguno igual」の展示風景(2023)。Photo: Photo Santiago Orti/Courtesy MALBA

1960年代から70年代にかけての時代、エドガルド・ヒメネスは幻覚的なイメージをふんだんに盛り込んだポップなポスターでアルゼンチンの人々の注目を集めた。鮮やかな色彩でシュルレアリスム風の動物を描いたポスターは、当時盛り上がっていたカウンターカルチャーの精神を表現していた。絵画や彫刻など80点近い作品を集めたブエノスアイレス・ラテンアメリカ美術館(MALBA)での展覧会は、従来の回顧展とは異なり、「映画のような構成で、シーンごとにヒメネスのさまざまなテーマやスタイル、こだわりが反映される」形式だという。

エドガルド・ヒメネス展「Edgardo Giménez: No habrá ninguno igual」  
会期:8月25日〜11月13日

2. キム・グリム(金丘林)展/国立現代美術館 ソウル館(ソウル)

キム・グリムの作品は、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれている韓国実験美術の展覧会 でも見ることができるが、母国では約230点の作品、60点のアーカイブ資料、そしてパフォーマンスを含む充実した回顧展が開催されている。絵の具を燃やした跡が残る強烈な抽象画や、都市風景の映像をつなぎ合わせた1960年代の伝説的な実験映画など、彼の幅広い仕事を一言で定義するのは難しい。韓国で最初の前衛芸術家の1人と言われるキムの大規模回顧展は、現在80歳代後半になった今でも高く評価される作家であることを裏付けている。

キム・グリム(金丘林)展  
会期:2023年8月25日〜2024年2月12日

3. サンパウロ・ビエンナーレ/シッシロ・マタラッツォ・パビリオン(サンパウロ)

過去のサンパウロ・ビエンナーレで展示された、アルトゥール・ビスポ・ド・ロザリオの作品。Photo: ©Leo Eloy/Fundação Bienal de São Paulo

ラテンアメリカを代表する芸術祭、サンパウロ・ビエンナーレは、今回「グローバル・サウス」と「世界の人々の移動」をテーマに掲げている。前者は昨年のドクメンタが焦点を当てたもので、来年のヴェネチア・ビエンナーレは後者をテーマとしているため、今年のサンパウロ・ビエンナーレはその中間点と捉えることができる。キュレーターのダイアン・リマ、グラダ・キロンバ、エリオ・メネーゼス、マヌエル・ボルハ=ヴィレルによって、「choreographies of the impossible(不可能の振付)」と題されたこの展覧会の参加者リストには、エドガー・カレル、ジュリアン・クルーゼ、ロザンナ・パウリーノ、イト・バラダなど、ビエンナーレの常連アーティストが名を連ねている。

サンパウロ・ビエンナーレ 
会期:9月6日〜12月10日

4. ココ・フスコ展「Coco Fusco: Tomorrow I Will Become an Island」/KWインスティテュート・フォー・コンテンポラリー・アート(ベルリン)

ココ・フスコ&ギレルモ・ゴメス=ペーニャ《Two Undiscovered Amerindians Visit the West》(1992) Photo: Photo Nancy Lytle

クリストファー・コロンブスが、後にバハマ諸島と呼ばれることになる島に到着してから500周年を迎えた1992年、ココ・フスコとギレルモ・ゴメス=ペーニャは、その土地で発見され檻に入れられた「アメリカ先住民」に扮するパフォーマンスを行った。植民地主義とアメリカの歴史に対するこの作品の痛烈な批判精神は、30年以上経った今も色褪せていない。それ以来数十年間、キューバ系アメリカ人のフスコは、パフォーマンスや映像・、写真作品などで、こうしたテーマを繰り返し扱ってきた。フスコ初の大規模な回顧展となる本展は、時代を先取りする思想家としての彼女の評価を確固たるものにするだろう。

ココ・フスコ展「Coco Fusco: Tomorrow I Will Become an Island」 
会期:2023年9月14日~2024年1月7日

5. アントニ・タピエス展「Antoni Tàpies: The Practice of Art」/ボザール・センター・フォー・ファイン・アーツ(ブリュッセル)

アントニ・タピエス《Blue with Four Red Stripes》(1966) Photo: ©Museo Reina Sofía

カタルーニャ出身の画家、アントニ・タピエスの無骨な作品は、戦後絵画の中でも最も型にはまらないものの1つと言っていいだろう。油絵の具を使わないことも多く、時代ごとの流行に迎合することもないからだ。絵の具の代わりに使うのは、砂やタール、髪の毛、ラテックスなどで、これらの素材を混ぜ合わせて作った塊は、ときに指差す仕草をする手のようなシンボルと組み合わせられる。また、ゴツゴツとした質感のある彼の絵は、アンフォルメル運動と関連づけられることもある。

母国スペインでは、生誕100年にあたる今年を「タピエス・イヤー」とし、国立ソフィア王妃芸術センター元館長のマヌエル・ボルハ=ヴィレルが大規模な回顧展を企画した。120点の作品で構成される同展は、ブリュッセルのボザール・センター・フォー・ファイン・アーツを皮切りに、マドリードのソフィア王妃芸術センター、バルセロナのアントニ・タピエス財団美術館へ巡回する。

アントニ・タピエス展「Antoni Tàpies: The Practice of Art」 
会期:2023年9月15日~2024年1月7日

6. 「Michelangelo and Beyond」 (ミケランジェロと後世の画家による人体描写)/アルベルティーナ美術館(ウィーン)

ミケランジェロ・ブオナローティ《リビアのシビュラ習作》(1510-11年頃) Photo: ©bpk/Metropolitan Museum of Art

《最後の審判》に描かれた男性の生皮からも分かるように、人体の表現方法を熟知していたミケランジェロは、それを完璧に描くことができた。その表現が後世の芸術家たちに多大な影響を及ぼしたのも当然だろう。アルベルティーナ美術館の展覧会では、ミケランジェロの素描をレンブラントグスタフ・クリムトエゴン・シーレなどの作品と並置しながら、時代を超えた影響力を解明している。

「Michelangelo and Beyond」 (ミケランジェロと後世の画家による人体描写)
会期:2023年9月15日~2024年1月14日

7. フスン・オヌール展/ルートヴィヒ美術館(ケルン)

フスン・オヌール《Opus II – Fantasia》(2001) Photo: ©Füsun Onur/Photo flufoto/Arter Collection, Istanbul

ヴェネチア・ビエンナーレでは大きな作品を発表するアーティストが多いが、昨年トルコ代表として参加したフスン・オヌールは逆のアプローチを取った。トルコ館にワイヤーでできた極小のオブジェを並べ、抽象的なおとぎ話を示してみせたのだ。現在80代のオヌールは、ミニマルでありふれた素材から最大限の意味を引き出しながら、平面性と奥行きの違いや時間の流れを探求する作家として、トルコではよく知られた存在だ。部屋を埋め尽くすインスタレーションなど、94点の作品が展示されるこの回顧展は、彼女にとって母国以外で初めての本格的な展覧会となる。

フスン・オヌール展 
会期:2023年9月16日~2024年1月28日

8. マリーナ・アブラモヴィッチ展 /ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(ロンドン)

マリーナ・アブラモヴィッチ《Nude with Skeleton》(2005) Photo: ©Marina Abramović/Courtesy Marina Abramović Archives

新型コロナウイルスのパンデミックで、1度ならず2度までも延期されたマリーナ・アブラモヴィッチの待望の回顧展が、この秋ついにロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開催される。同美術館のメインギャラリーで個展を開く初の女性アーティストとなる彼女の、身体的な痛みと忍耐力の限界に挑戦する1970年代の先端的なパフォーマンス・アートの記録が展示されるほか、過激さが少し抑えられたそれ以降の作品も紹介され、中には実際にパフォーマーによって再現されるものもある。2010年 にニューヨーク近代美術館(MoMA)で行われた回顧展で大勢の観客を集めたパフォーマンス《The Artist Is Present》も再演される。

マリーナ・アブラモヴィッチ展 
会期:2023年9月23日~2024年1月1日

9. KAWS「KAWS: FAMILY」/オンタリオ美術館(トロント)

KAWS《SEPARATED》(2021) Photo: ©KAWS

好き嫌いはともかくとして、目をXで表したKAWSの漫画風キャラクターは、あらゆるところに進出している。世界中のスニーカーマニアやコレクターの間で人気を博しているだけでなく、今や美術館でも彼の作品が展示されるようになったのだ。中でも2021年にブルックリン美術館で開かれた回顧展は、アート界におけるKAWSの評判を確かなものにした。この秋にはカナダの美術館で初めての個展が開かれ、両親と2人の子どもを遊び心たっぷりに表現した高さ約3メートルの彫刻《Family》(2021)を含む70点の作品が展示される。

KAWS「KAWS: FAMILY」 
会期:2023年9月27日に先行公開開始、一般公開は10月11日から

10. サラ・ルーカス展「Sarah Lucas: Happy Gas 」/テート・ブリテン(ロンドン)

サラ・ルーカス《Bunny》(1997) Photo: ©Sarah Lucas/Courtesy the artist and Sadie Coles HQ, London/Private Collection

サラ・ルーカスは、1990年代に台頭したイギリスの一群の若手作家、ヤング・ブリティッシュ・アーティスツ(YBAs)の1人として注目されるようになった。当時の彼女は、性器や性的な主題を表現した彫刻を作っていたため、挑発的な人物だと思われていた。それからおよそ30年が経った今もなお、ルーカスのフェミニズム的な試みが際立ったものであることに変わりはない。ただし、それが現代の観客にとってもショッキングと感じられるかどうかは未知数だ。テート・ブリテンの個展では、タイツに詰め物をした作品など、90年代に彼女を有名にしたスタイルへの回帰を示す未発表の新作彫刻10点も出展される。

サラ・ルーカス展「Sarah Lucas: Happy Gas 」
会期:2023年9月28日~2024年1月14日

11. フランス・ハルス展/ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

フランス・ハルス《微笑む騎士》(1624) Photo: ©Trustees of the Wallace Collection, London

今は、オランダの黄金時代に活躍した巨匠の回顧展の黄金時代なのかもしれない。今年の2月から6月にかけてはアムステルダム国立美術館で、史上最大規模のフェルメール展が開催された。そして9月には、フランス・ハルスの大規模な展覧会が開催される。見事な人物描写で陽気な酔っぱらいや裕福なパトロンの肖像を描いたハルスは、17世紀に高い評価を得た画家だ。今回の回顧展は、ロンドンのナショナル・ギャラリーの後、アムステルダムとベルリンを巡回する。50点の展示作品の中には、1865年にロンドンのウォレス・コレクションに収蔵されて以来、初めて外部に貸し出される傑作《微笑む騎士》(1624)も含まれている。

フランス・ハルス展 
会期:2023年9月30日~2024年1月21日

12. ハリエット・バッカー展「Harriet Backer: Every Atom is Colour」/オスロ国立博物館(オスロ)

ハリエット・バッカー《Christening in Tanum Church》(1894) Photo: National Museum, Oslo

ノルウェーのアーティスト、ハリエット・バッカーの名前を聞いたことのない人も少なくないだろうが、パリ・サロンで佳作を受賞するなど、19世紀には高い評価を得ていた。彼女はオランダ黄金時代の風俗画と印象派を融合させたような表現で新境地を開き、日常生活を営みながら物思いにふける女性たちを描いている。今回の回顧展でバッカーの名声が現代によみがえる可能性は大いにあるだろう。同展はオスロで開催された後、ドイツ、フランス、スウェーデンに巡回する。

ハリエット・バッカー展「Harriet Backer: Every Atom is Colour」 
会期:2023年9月30日~2024年1月14日

13. ジャスパー・ジョーンズ展「Jasper Johns—The artist as collector」/バーゼル美術館(バーゼル)

エルズワース・ケリー《Jasper and Leo》(1988) Photo: ©Estate of Ellsworthy Kelly/Collection of Jasper Johns

ジャスパー・ジョーンズといえば、星条旗や標的、アメリカの地図を題材とした作品が有名だが、近年では比喩を盛り込んだ具象的な場面を描く画家として評価されている。一方で本格的なアートコレクターでもあり、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で2021年に開催されたセザンヌのドローイング展では、ジョーンズが所蔵するコレクションから、海水浴をする人たちを描いた複数の習作などが展示された。この秋バーゼル美術館では、コレクターであったジョーンズへのオマージュとして、パブロ・ピカソ、ウィレム・デ・クーニング、ケーテ・コルヴィッツなどのドローイング100点を集めた展覧会が行われる。

ジャスパー・ジョーンズ展「Jasper Johns—The artist as collector」 
会期:2023年9月30日~2024年2月4日

14. ベン・シャーン展「Ben Shahn: On Nonconformity」/ソフィア王妃芸術センター(マドリード)

ベン・シャーン《1943 AD》(1943年頃) Photo: ©2023 Ben Shahn/VEGAP, Madrid/Syracuse University Art Museum

ベン・シャーンが他のモダニストと同列に語られてこなかった理由の1つは、彼の時代にもてはやされていた抽象画に背を向け、具象画を選んだことかもしれない。さらに、20世紀初頭に生まれ、リトアニア人の両親を持つユダヤ系アメリカ人だったシャーンは、積極的に社会に溶け込もうとしなかったようで、1957年には「On Nonconformity(不適合について)」と題した講演を行っている。これと同じ題名でソフィア王妃芸術センターが開催する回顧展では、大恐慌時代のニューヨークを記録した写真や、戦争の暴力、組織労働者の連帯、マッカーシズムの影響をテーマとしたもの、そして自身のユダヤ人としてのアイデンティティを見つめたものまで、幅広い作品が展示される。

ベン・シャーン展「Ben Shahn: On Nonconformity」 
会期:2023年10月4日~2024年2月26日

15. マリソル展「Marisol: A Retrospective」/モントリオール美術館(モントリオール)

マリソル《The Party》(1965-66) Photo: ©Estate of Marisol/Artists Rights Society (ARS), New York/Toledo Museum of Art, Ohio

マリソルは、1960年代のニューヨークを席巻したポップ・アーティストの仲間とされることが少なくないが、実際にはその枠に収まるアーティストとは言えない。確かに、ポップ・アートの典型である消費主義への皮肉を取り入れた作品もある。特に有名なのが、人間の鼻から顎の部分だけの彫刻で、口に垂直に突き刺さったコーラのびんから中身を吸っているという示唆的なものだ。しかし、彼女の本領が発揮されたのは、直線的な胴体を持つ木彫りの人物像だろう。バッファローAKG美術館が約200点のマリソル作品を取得したことで実現した今回の回顧展は、美術史の中で彼女をより正確に位置づけることにつながるだろう。

マリソル展「Marisol: A Retrospective」 
会期:2023年10月7日~2024年1月21日

16. ジェームズ・リー・バイヤーズ展 /ピレリ・ハンガービコッカ(ミラノ)

ジェームズ・リー・バイヤーズ《The Capital of the Golden Tower》(1991) Photo: Roman März/©The Estate of James Lee Byars/Courtesy Michael Werner Gallery, New York and London

近年、ヒルマ・アフ・クリントや後述するジョージアナ・ホートンなど、スピリチュアリスト・アートが熱い注目を集めている。しかし、このブームが始まるずっと前から、ジェームズ・リー・バイヤーズの奇妙かつミニマルなオブジェやパフォーマンスは、評論家たちから称賛されていた。イタリアで開催される初の回顧展では、1974年から97年にかけて制作された大規模な彫刻やインスタレーションが展示される。1990年に制作された高さ約21メートルの作品《The Golden Tower》は、当初の計画ではさらに背の高い作品として構想されていた。

ジェームズ・リー・バイヤーズ展 
会期:2023年10月12日~2024年2月18日

17. 「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」/森美術館(東京)

保良雄《fruiting body》(2022) Photo: Saito Taichi

ハワイやギリシャの山火事やイタリアの洪水、インド、タイ、そして世界各地での猛暑など、最近のニュースは気候変動が引き起こした大規模な自然災害で埋め尽くされている。地球の環境破壊が進む中、かつてないほど求められているのが創意工夫を凝らしたアートによる問題提起だ。森美術館の展覧会では、アリ・シェリ、シェロワナウィ・ハキヒウィ、アピチャッポン・ウィーラセタクン ら世界各地のアーティストが参加し、環境への問題意識に基づく作品を発表する。同展ではまた、過去の展覧会で使用された壁面や資材を再利用するなど、設営を含む運営面においても環境への配慮がなされている。

「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」 
会期:2023年10月18日~2024年3月31日

18. パブロ・ピカソ展「Picasso: Endlessly Drawing」/ポンピドゥー・センター(パリ)

パブロ・ピカソ《Tête qui pleure (V). Postscriptum de Guernica》(1937年6月8日) Photo: ©2023 Succession Picasso/Photo ©Photographic Archives Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofía/Museo Reina Sofía

ピカソ没後50周年の2023年は多数の展覧会が開催されているが、その大半は油彩や彫刻を扱ったものだ。しかし、ポンピドゥー・センターの秋のピカソ展は、彼の異なる側面を紹介するものとして、ノートやドローイング、版画など1000点近くを集めている。こうした作品は、「油彩で制作するための習作や実験の場にすぎない」という固定観念を覆し、それ自体が価値ある芸術であることを示している。

パブロ・ピカソ展「Picasso: Endlessly Drawing」 
会期:2023年10月18日~2024年1月15日

19. マーク・ロスコ展/フォンダシオン・ルイ・ヴィトン(パリ)

マーク・ロスコ《Light Cloud, Dark Cloud》(1957) Photo: ©1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko/©2023 ADAGP, Paris/Modern Art Museum Fort Worth, Texas

これまでも数々の大型展覧会で注目を集めてきたパリのフォンダシオン・ルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン財団美術館)だが、この秋の目玉であるマーク・ロスコの回顧展では、テート・モダン(ロンドン)所蔵でほぼ門外不出と言ってもいい《シーグラム壁画》(1958)全9点をパリで展示する。ロスコの抽象表現主義絵画の頂点を示す《シーグラム壁画》は、黒みがかった赤で塗られた大型のカンバスが崇高な印象を与える作品だ。このほか115点の珠玉作品を集めた意欲的な展覧会は、ロスコの息子であるクリストファー・ロスコとフォンダシオン・ルイ・ヴィトンのスザンヌ・パジェによって実現した。

マーク・ロスコ展 
会期:2023年10月18日〜2024年4月2日

20. 「Indigenous Histories」/サンパウロ美術館(MASP)

Acelino Tuin Huni Kuin, Artist Movement of the Huni Kuin Collective《Kapenawe pukenibu》(2022) Photo: Daniel Cabrel/Museu de Arte de São Paulo

高い評価を得ているサンパウロ美術館(MASP)の展覧会シリーズ「Histórias」(物語)。その最新企画は、北米、南米、スカンジナビア、オセアニアの各地域に伝わるさまざまな先住民文化を取り上げた壮大な展覧会だ。アブラハム・クルズヴィエイガスやサンドラ・ガマーラといったアーティストを含むキュレーターたちが目指しているのは、包括的な全体図というよりも、いくつもの断片が歴史的なつながりによって結びついているさまを見せることだ。過去の「Histórias」シリーズと同様、今回の展覧会も私たちの目を開かせてくれるものになるだろう。

「Indigenous Histories」 
会期:2023年10月20日~2025年2月25日

21. ライオネル・ファイニンガー展/シルン美術館 (フランクフルト)

ライオネル・ファイニンガー《Gelmeroda VIII》(1921) Photo : ©2023 VG Bild-Kunst, Bonn/Whitney Museum

ライオネル・ファイニンガーは、アメリカ生まれではあるがドイツ系で、ドイツのモダニストを代表する人物の1人。その回顧展がドイツの美術館で最後に開催されたのは、驚くべきことに25年以上前のことだ。今日ではバウハウスの教師としての活動が最もよく知られているが、アーティストとしても非常に優れた抽象作品をいくつも発表した。また、前回の回顧展から今回までの長い空白の間に、幾何学的な建物を捉えた彼の洗練された写真作品について新たな研究が行われており、本展でも展示が予定されている。

ライオネル・ファイニンガー展 シルン美術館 
会期:2023年10月27日~2024年2月19日

22. ジョージアナ・ホートン展「Georgiana Houghton: Invisible Friends」/ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(シドニー)

ジョージアナ・ホートン《Glory be to God》(1864年7月5日) Photo: Courtesy Victorian Spiritualists' Union, Inc., Melbourne

この秋オーストラリアでは、シドニーのニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で開催されるカンディンスキーの大規模展が大きな注目を集めるだろう。しかし、真の主役になるかもしれないのがジョージアナ・ホートン展だ。19世紀にカナリア諸島でイギリス人の両親のもとに生まれたホートンは、知名度としては劣るものの、カンディンスキーと同時代に活躍したスピリチュアリストで、色とりどりの渦巻きや、重なり合い交差する線で構成される魅力的な水彩画を描いた画家だ。自らの作品について彼女は、この世界を超えた存在からのメッセージだと語っている。これまでホートンの展覧会がイギリス国外で開かれるのは極めてまれだったが、2022年のヴェネチア・ビエンナーレで脚光を浴びた彼女のアートは、今回の回顧展によってさらに国際的な知名度を上げるだろう。

ジョージアナ・ホートン展「Georgiana Houghton: Invisible Friends」 
会期:2023年11月4日~2024年3月10日

23. 上海ビエンナーレ/上海当代芸術博物館(上海)

アントン・ヴィドクル Photo: Photo Margarita Ogoļceva

7月下旬、未確認飛行物体(UFO)に関して開かれたアメリカ議会下院の公聴会で、元国防総省職員や元海軍幹部などが、米政府がUFOに関する情報を隠していると主張する一幕があった。しかし、そのかなり前から宇宙空間の無限の可能性に魅了されていたのが、ロシア出身のアーティストで、キュレーター、美術評論家のアントン・ヴィドクルだ。オンラインジャーナルe-fluxの創始者でもあるヴィドクルは、2019年にアーティストのアルセニー・ジリヤエフとThe Institute of the Cosmos (宇宙研究所)を設立している。今年の第14回上海ビエンナーレのチーフキュレーターに任命されたヴィドクルは、この研究所が進めつつある探究を発想源とし、「地球上の生命と、それを育み、条件づける宇宙との関係を理解するためのアート」を見せる展覧会を企画すると述べている。

上海ビエンナーレ 
会期:2023年11月9日~2024年3月31日

24. ジュメックス・コレクション展「Everything Gets Lighter」/ジュメックス美術館(メキシコシティ)

ガブリエル・オロスコ《Parachute in Iceland (West)》(1996) Photo : Museo Jumex

メキシコの大手飲料メーカー、ジュメックスの後継者 であるエウヘニオ・ロペス・アロンソは、メキシコシティに私設美術館を所有している。このジュメックス美術館が設立10周年を迎えるのを記念して、常設コレクションから流動性と死をテーマにした65点の作品を集めた展覧会が開催される。展覧会のキュレーターであるニューミュージアム(ニューヨーク)のリサ・フィリップス館長は、フェリックス・ゴンザレス=トレス、アナ・メンディエタ、バス・ヤン・アデルなどの大型作品を中心に選んでいるが、中には視覚的に楽しめ、インスタ映えしそうな作品も登場する。その1つが、高い位置から滝のように水が流れ落ちるオラファー・エリアソンの《Waterfall》(1998)で、美術館前の広場に展示が予定されている。

ジュメックス・コレクション展「Everything Gets Lighter」 
会期:2023年11月18日~2024年2月11日

25. ギャヴィン・ヤンチェス展「Gavin Jantjes: To Be Free! A Retrospective」/シャルジャ芸術財団(アラブ首長国連邦)

ギャヴィン・ヤンチェス《Quietly at Tea》(1978) Photo: Jorge M. Pérez Collection, Miami

画家のギャヴィン・ヤンチェスは、「貧しさ、飢え、そして死が蔓延する環境では、形や色彩を語ることはできない」と、1976年に書いている。それは、南アフリカの黒人としてアパルトヘイト(人種隔離政策)を経験した時代について語るものでもあり、版画や絵画などを通じて、アフリカが抱えるさまざまな問題や紛争に取り組んできた彼のキャリア全体を象徴する言葉でもある。現在はイギリスのオックスフォードシャーを拠点に活動するヤンチェスの回顧展は、2022年にレジデンスを行ったシャルジャ芸術財団で開催される。

ギャヴィン・ヤンチェス展「Gavin Jantjes: To Be Free! A Retrospective」 
会期:2023年11月18日~2024年3月10日

(翻訳:野澤朋代、清水玲奈)

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