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「反ユダヤ主義的な書簡に署名」──イスラエル・ハマス紛争下、ドクメンタが選考委員の一人を糾弾

イスラエル・ハマス紛争から約1カ月。世界有数の芸術祭であるドクメンタが11月10日、次期芸術監督の選考委員を務めるランジット・ホスコテを名指しで非難した。

ドクメンタ16の選考委員の一人で、インドの詩人で批評家でもあるランジット・ホスコテ(Ranjit Hoskote)。Photo: Getty Images

5年に一度開催される芸術の祭典、ドクメンタは11月10日、2027年の芸術監督を決める選考委員に名を連ねるインドの詩人で批評家でもあるランジット・ホスコテ(Ranjit Hoskote)を糾弾した。

ホスコテをめぐっては、2019年にシオニズムとヒンドゥー・ナショナリズム(ヒンドゥ至上主義とも訳される、インドにおける宗教的多数派である「ヒンドゥー教徒」の国家運営上の優位を認める政治思想)に抗議する書簡に署名していたことが、Suddeutsche Zeitung(南ドイツ新聞)による11月9日の報道でわかった。

この報道の中でドイツのクラウディア・ロス文化相は、ホスコテが署名した書簡は「明らかに反ユダヤ的で、反イスラエルの陰謀論に満ちている」と述べ、ドクメンタへの資金援助を撤回する可能性を示唆した。

問題となっている書簡は、パレスチナの権利を擁護する団体「Boycott, Divestment, Sanctions(以後、BDS )」のインド部門が2019年に出したもの。ドイツにおいてBDSは特に厳しい反発に直面しており、一部の政治家はBDSの違法化を求めている。この書簡は、インドのナレンドラ・モディ首相とイスラエルとの「強い結びつき」をシオニズムとヒンドゥトヴァの「結託」と断じている。後者のイデオロギーはシオニズムの「鏡像」であり、シオニズムが求めるのは「非ユダヤ人が不平等な権利を持つ入植者植民地的なアパルトヘイト国家」であるとしている。

今回の南ドイツ新聞の記事を執筆した作家でジャーナリストのネーレ・ポラチェック(Nele Pollatschek)は、書簡に署名したホスコテは「BDS支持者」であると主張。ホスコートはBDS支持は表明していないが、2021年、News9liveに対し、「私はパレスチナの大義には共感し支持するが、イスラエルの文化的ボイコットは支持できないし、支持するつもりもない」と述べている。

一方、ドクメンタについては、2022年に開催されたドクメンタ15が反ユダヤ主義的であるとして何度も炎上している。同展のキュレーターを務めたインドネシアのアートコレクティブ、ルアンルパは、これらの疑惑を繰り返し否定したが、ドクメンタが任命した科学諮問委員会が今年2月に発表した133ページにもおよぶ最終報告書では、「同展が反イスラエル感情のエコーチェンバーとなった」と批判した。

また、ドクメンタは今年10月、ルアンルパのメンバー2人がソーシャルメディア上のパレスチナを支持する投稿に「いいね!」したり、その後に「いいね!」を取り消したことを非難ドクメンタのマネージング・ディレクターであるアンドレアス・ホフマンは、ホスコテがBDSインド部門の書簡に署名したことについて、声明を通じて以下のように糾弾した。

「ドクメンタ16の選考委員会のメンバーが明白な反ユダヤ主義的な書簡に署名したことは、ドクメンタ・フリデリチアヌム美術館(documenta und Museum Fridericianum gGmbHとして到底受け入れられるものではありません。我々は昨日まで、2019年の書簡にランジット・ホスコテが署名していたこと、そしてこの書簡の存在すら知りませんでした」

またドクメンタは、今後ホスコートと「さらなる疑惑について話し合う」予定だという。一方のホスコートは現時点までに、コメントの要請に応じていない。

ドイツでは現在、パレスチナ及びパレスチナのアーティストを支援するアート業界の一部の人々が厳しい批判にさらされている。

例えば今年10月には、パレスチナ人アーティストのエミリー・ジャシールのベルリンでの講演がキャンセルされたほか、アーティストのキャンディス・ブライツとドイツ政府が運営する機関が共催予定だった反ユダヤ主義と人種差別に関する会議も、「この議論を建設的にリードすることはもはや不可能」として、中止された

ドイツのこうした状況の中、パレスチナのアーティストを支援し続けている団体もある。Monopolによると、ミュンヘンのクンストフェライン・ミュンヘンは、パレスチナ人アーティスト、ヌール・アブアラフェの展覧会中止を求める声に対し、「中止はこの紛争に対する適切な対応ではない」と展覧会の継続を決定した。

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