ドクメンタ16は「予定通り開催」。片岡真実を含む新選考委員6名を発表
2023年に、芸術監督を指名する選考委員が総辞職したことで物議を醸したドクメンタが、森美術館館長の片岡真実をはじめとする6人の新委員を発表した。一方、その開催方法に対しては懸念の声も上がっている。
ドクメンタ16の芸術監督を選考する委員会メンバーが2023年11月に全員辞任し、2027年の開催を危ぶむ声が上がっていた同芸術祭が、ついに新メンバーを発表した。
選考委員に選ばれたのは、イルマズ・ズイエヴォル、セルジオ・エデルシュタイン、ンゴネ・フォール、グリディティヤ・ガウェウォン、片岡真実、そしてヤスミル・レイモンドの6名。いずれも、過去に大規模なビエンナーレのキュレーション経験のある人物だ。
過去の選考委員会にはドイツに拠点を置くメンバーはいなかったが、今回は、ズイエヴォル、エデルシュタイン、そしてレイモンドの3名が含まれている。
これ以外にも、イスラエル人のエデルシュタインが委員会のメンバーに名を連ねており、彼の起用は、反ユダヤ主義の疑惑が広まった2022年のドクメンタ15をめぐる騒動に対する目配せとも受け取れる。総辞職した前委員会にも、イスラエル人アーティストのブラッハ・L・エッティンガーがいたが、昨年10月7日のハマスのイスラエル攻撃を受け、エッティンガーは「自国が直面している惨状」を理由に辞任した。その後、インド人の詩人、ランジット・ホスコテがパレスチナの権利を擁護する団体「Boycott, Divestment, Sanctions(BDS)」のインド部門が2019年に出した書簡に署名していたことをドイツの新聞が糾弾したことでホスコテも辞任。ほかの4人(シモン・ンジャミ、ゴン・ヤン、キャスリン・ロンバーグ、マリア・イネス・ロドリゲス)もそれに続いた。
ドイツ国内ではズイエヴォルとレイモンドの名は知られており、前者はケルンのルートヴィヒ美術館の館長、後者はフランクフルトにあるポルティクス美術館の館長を務めており、レイモンドは2024年初頭までシュテーデルシューレで教鞭も執っていた。また、ベルリンとテルアビブの2拠点で活動するエデルシュタインは、自身がテルアビブに創設した「Center for Contemporary Art」で長年ディレクターを務めていた。
フォールはフランスのアフリカ現代美術と文化を専門に扱う美術誌『Revue Noire』の編集長を過去に務めており、ガウェウォンはバンコクのジム・トンプソン・アート・センターでアーティスティックディレクターを、片岡は森美術館館長を現在務めている。
2022年に開催されたドクメンタ15は、反ユダヤ的、親パレスチナ的な表現を含む作品が発表されたとして一大論争へと発展した。それに加えて、昨年の選考委員が総辞職したことで、本芸術祭の存続を危ぶむ声さえあがっていた。
詳細な日程は明かされていないものの、運営陣は2027年開催のドクメンタ16は予定通り行われると断言している。とはいえ、どのような形で開催されるかに懸念を示す人々もいる。ドクメンタは、芸術監督による行動規範の作成を中止したが、監督委員会を拡大し、開催地のカッセル市とヘッセン州の代表権限が増える見通しだ。
また、専門家で構成される科学諮問委員会が新設された。次期芸術監督は諮問委員会に対し、「人間の尊厳をどう理解し、それをいかにしてこの芸術祭で実現するのか」を説明することが義務づけられる。
選考委員会のメンバーが刷新されたことについて、ドクメンタのマネージングディレクターを務めるアンドレアス・ホフマンは次のように語る。
「専門的かつ多角的な視点をもつ新たな委員会メンバーによって、芸術監督の選定に一歩前進できたと確信しています。これによって、世界中から素晴らしいアートが再びカッセルに集結し、来場者を迎え入れるための基盤が整うことでしょう」(翻訳:編集部)
from ARTnews