ドクメンタ16が「大きく前進」。多様性を重視した新組織の発足で開催危機からの脱却なるか
ドイツで5年に1度開催される芸術祭、ドクメンタ。現在、2027年6月12日から9月19日に開催予定のドクメンタ16の準備が行われているが、2022年に起こった騒動への対策や、選考委員の総辞職などで順調には進んでいなかった。これらを踏まえて、ドクメンタはこのほど新方針を発表した。
2022年に開催されたドクメンタ15では、反ユダヤ主義的作品の展示で論争が起こった。インドネシアのアーティストコレクティブ、タリンパディの壁画作品にはユダヤ人を風刺した過激な描写があるとして撤去され、パレスチナのグループ、クエスチョン・オブ・ファンディングは親パレスチナ運動を支持しているとしてユダヤ人団体から批判を受けた。これらの騒動によりドクメンタ15の総監督を務めるザビーネ・ショルマンが辞任する事態になった。
これらの混乱から、監督委員会はドクメンタ15の修了後に専門家諮問委員会を発足。同委員会は、ドクメンタ16で芸術監督が行動規範を作成することを提言した。
それからドクメンタは次期芸術監督を任命するために、歴代の芸術監督が推薦した国際的なキュレーター6人による選考委員会を発足した。しかし2023年11月、あるイスラエル出身の委員は、10月7日に起こったハマスによるイスラエル襲撃事件を理由に、ある委員は「反ユダヤ主義的」と呼ばれる2019年の書簡に署名していたことにドクメンタ側から批判を受けるなどして、選考委員全員が一斉に辞任した。この事態にドクメンタは選考委員会をゼロから再結成することを約束した。
そして5月7日、ドクメンタはプレスリリースでドクメンタ16の新たな方針を発表した。それによると、選考委員会は、多様性ある選考を重視して、芸術、文化、科学の各分野に精通した6人からなる科学諮問委員会へと生まれ変わるという。
その他の注目点は、芸術監督に行動規範を作成させることの中止だ。その代わりに、ドクメンタと、ドクメンタのパートナーで展覧会の主要会場のひとつであるフリデリシアヌム美術館が行動規範を作成する。だが、芸術監督は任命後の早い時期に、自らの芸術コンセプトを発表するとともに、人間の尊厳の尊重についてどのような理解を持っているか、また、それが自らのキュレーションによる展覧会でどのように表現されるかを説明する場を設けなければならない。
カッセル市とヘッセン州が引き続きドクメンタの開催地となることも発表された。監督委員会の規模は縮小せず、さらに連邦政府から2名が加わるという。
ドクメンタのマネージングディレクターであるアンドレアス・ホフマンは新方針について、「ドクメンタ16に向けて大きく前進するための理想的な状況が整ったと確信しています。最初のステップは、国際選考委員会を速やかに立ち上げることです」と語った。(翻訳:編集部)
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