世界のアート界はイスラエル・パレスチナ紛争にどう向き合ってきたのか。連帯と分断の半年を振り返る
2023年10月7日に起きたハマスによるイスラエルへの攻撃から約半年。イスラエル・パレスチナ問題をめぐり、世界の芸術界は様々な対応を見せている。一連の動きをこの機会に振り返ってみたい。
パレスチナへの連帯を示すアーティストらが展示から作品を撤去。「自由な議論の場を持たない機関とは仕事しない」
作品が展示されていた場所に、撤去の理由を示すキャプションが設置された。Photo: Courtesy of Censorship at the Barbican
現在、世界では様々なアーティストやアート業界のプレイヤー、関係者たちが、パレスチナへの連帯を示す抗議行動をそれぞれの方法で行っている。ロンドン・バービカンセンターでは、開催中の企画展から三人の作家の作品が本人たちの要請により撤去された。この展示から作品が取り下げられるのは2度目だ。
ヴェネチア・ビエンナーレからイスラエル排除を求める公開書簡を、イタリア文化大臣が「恥ずべきもの」と非難
Photo: Stefano Mazzola/Getty Images
著名アーティストやキュレーターたちが、イスラエルのヴェネチア・ビエンナーレ不参加を要求するる公開書簡に署名した。これに対してイタリアの文化大臣は書簡を「恥ずべきもの」と非難し、ビエンナーレからイスラエルを除外しない考えを示した。
美術館の使命に反する──MoMA職員が書簡を通じ、イスラエルのガザ攻撃に対する上層部の「深い沈黙」を批判
ニューヨーク近代美術館(MoMA)のエントランス。Photo: Getty Images
2月11日、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の職員が公開書簡を投稿し、イスラエルによるパレスチナへの攻撃の停止とイスラエル・ハマス間の「無条件停戦」、そして同館の上層部に、この紛争に対して毅然とした態度を取るよう求めた。
「態度が異なる者は誰でも潰そうとしている」──アイ・ウェイウェイが西側諸国の検閲を批判
テレビ番組に出演し、今日の西側諸国の検閲の状況について意見を述べたアイ・ウェイウェイ。Photo: Hollie Adamas/Getty Images
アイ・ウェイウェイは、2月4日にイギリスのテレビ番組に出演。イスラエル・ハマス紛争にまつわる現在の西側諸国の検閲が、毛沢東政権下の中国で経験した政治的抑圧と比べて「時にはさらにひどい」と言及した。
ローリー・アンダーソンが芸大の教授職を辞退。過去のパレスチナ支援表明を大学側が問題視
2023年4月23日、ブロードウェイのゴールデン・シアターで上演された舞台『Prima Facie』の初日舞台挨拶に訪れたローリー・アンダーソン。Photo: Bruce Glicas/Wireimage
ドイツ・フォルクヴァング芸術大学は、ニューヨークを拠点に活動するアーティストでミュージシャンのローリー・アンダーソンの客員教授就任を取り消すと発表。アンダーソンがパレスチナに連帯を示す書簡に署名したことが問題視された。
「史上最初の人権宣言」を守れ! イラン政府が大英博物館に、イスラエルへの文化財貸与中止を要請
1879年、イラクのバビロンで発掘された「キュロス・シリンダー」。2013年、メトロポリタン美術館で展示された時の様子。Photo: AFP via Getty Images
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中、イラン政府関係者は、大英博物館が所蔵する2600年前の重要な遺物「キュロス・シリンダー」をイスラエルのエルサレムに貸与する計画を中止するよう求めている。
「沈黙は加担と同義」──テート・モダンで女性たちがハマスによる性暴力の解決を訴える
テート・モダンで抗議活動を行う活動家たち。Photo: Amanda Rose
1月26日、ロンドンのテート・モダンで無料開催されていたフェミニスト・アートのイベント「Late at Tate Modern」に多くの女性たちが集まり、10月7日に起きたイスラエルへの攻撃から続いているハマスによる性暴力疑惑を解決するための支援を訴えた。
ドイツで強まるパレスチナ擁護への抑圧は「統制と口封じという恥ずべきメカニズム」。アーティストたちが展示ボイコットを訴え
ストライク・ジャーマニー(Strike Germany)が制作した画像。Photo: Courtesy Strike Germany
ドイツで「アーティストの政治的主張を規制しようとする」美術館、特に親パレスチナの姿勢を表明した作家を締め出そうとする文化機関での展覧会やイベントへの参加拒否を促す運動に、何百人ものアーティストが署名を行った。
ブライアン・イーノら文化人1000人以上が反対を表明。パレスチナ系のイベント中止は「文化芸術に対する最も憂慮すべき検閲と抑圧」
ブリストルのアートセンター、アルノルフィーニ。2013年撮影。Photo: by Matt Cardy/Getty Images
ブリストルの国際現代芸術センター、アルノルフィーニが、パレスチナ映画祭の一環で開催される予定だった3つのイベントを中止したことに対して、1000人以上の文化人が、同施設による「パレスチナ文化の検閲」を非難する公開書簡に署名した。
パレスチナの人々を「沈黙させ、弾劾している」──芸術家らが西側の美術館を非難
11月26日、ガザ地区の恒久停戦を求め、オランダ・アムステルダムのダム広場に集まったデモ参加者たち。Photo: Selman Aksunger/Anadolu via Getty Images
11月30日、イギリスの団体「アーティスト・フォー・パレスチナ」は公開書簡を発表し、10月7日のハマスの攻撃以来、イスラエルによる空爆の結果、数千人が死亡したガザ地区での恒久的停戦を要求した。
イスラエルの空爆で多数の文化遺産に被害。ガザ地区の歴史的な宗教施設や遺跡、博物館なども対象に
11月25日、ガザ地区南部のカン・ユニスで空爆により破壊された家屋の状況を調べる住民。イスラエルとハマスの間で24日から戦闘が休止され、避難していたパレスチナ人市民が一時的に戻ってきている。戦闘休止期間に人質の解放が進んでいるが、事態は予断を許さない。Photo: Ahmad Hasaballah/Getty Images
イスラエルによるガザ地区への度重なる空爆で、100を超える文化的建造物や史跡が損壊したことが分かった。スペイン・カタルーニャ州を拠点とするNGO、ヘリテージ・フォー・ピースが11月上旬に発表した仮報告書で明らかにした。
「今後も粘り強く訴えていく」──感謝祭のNYで文化施設を舞台に親パレスチナ活動家らが抗議活動を展開
ニューヨーク市で11月17日、親パレスチナ活動家らがイスラエルとハマス間の停戦を求めてニューヨーク公共図書館前で抗議活動を行った。Photo: Corbis via Getty Images
アメリカ・ニューヨークでは、ホイットニー美術館からアメリカ自然史博物館に至るマンハッタン全域の文化施設で、親パレスチナ活動家やデモ参加者たちによる抗議活動が行われた。
イスラエル・ハマス紛争をめぐりアート業界で「キャンセル」相次ぐ。ドイツの現代写真祭も中止に
2024年版「The Biennale für aktuelle Fotografie」の共同キュレーターであったタンジム・ワハブ(左)とシャヒドゥル・アラム(中央)、ムネム・ワシフ(右)。Photo: ©Lys Y. Seng
ドイツを拠点とする現代写真の祭典「The Biennale für aktuelle Fotografie」が、イスラエル・ハマス紛争の影響により中止となった。
ドクメンタ16が暗礁に。イスラエル・ハマス紛争に関連して選考委員が全員辞任
選考委員が全員辞任したドクメンタ16。写真は2022年に開催されたドクメンタ15の様子。Photo: Thomas Lohnes/ Getty Images
ドクメンタが、異例の事態に直面している。イスラエル・ハマス紛争に関連して、先日退任したイスラエルの芸術家・哲学者のブラッハ・L・エッティンガー及びインドの詩人・評論家のランジット・ホスコテに続き、残りの4人の選考委員たちも辞任を発表した。
アイ・ウェイウェイの個展が「事実上キャンセル」。イスラエル・ハマス紛争への発言を受け
人権活動にも積極的なアイ・ウェイウェイ。Photo Chris J Ratcliffe/Getty Images
アイ・ウェイウェイがイスラエル・ハマス紛争に関してSNSに投稿した内容を受け、リッソン・ギャラリーがアイの個展開催予定を保留したと2023年11月14日付のアートニュースペーパー紙が伝えた。
「反ユダヤ主義的な書簡に署名」──イスラエル・ハマス紛争下、ドクメンタが選考委員の一人を糾弾
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イスラエル・ハマス紛争から約1カ月。世界有数の芸術祭であるドクメンタが11月10日、次期芸術監督の選考委員を務めるランジット・ホスコテを名指しで非難した。
「イスラエルとハマスの軍事衝突による影響は少ない」──大エジプト博物館が来春ついに開館へ
カイロ郊外にある大エジプト博物館のエントランスホールで、ラムセス2世の巨大な彫像の周囲を清掃中の作業員たち(2019年8月4日撮影)。Photo: Hassan Mohamed/picture alliance via Getty Images
20年の歳月と巨額の資金をかけて建設された大エジプト博物館(GEM)が、度重なる延期を経て今春開館する予定だ。「単一文明を扱う博物館では世界最大級」を謳うGEMは、考古学・歴史分野における世界有数の研究センターとしても期待を集める。
イスラエルへの資金援助に抗議。先住民アーティストが米ナショナル・ギャラリーの展示作品の撤去を要請
ニコラス・ガラニンとメリット・ジョンソンによる《Creation with her Children》(2017)。Photo: Courtesy the artists
アメリカ政府によるイスラエルへの資金援助計画に対する抗議を示すため、アーティストのニコラス・ガラニンとメリット・ジョンソンが、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリーに作品の撤去を求めた。
イスラエル・ハマス紛争に関し、アート界から「2通目」の公開書簡。軋轢を生んだ一通目に反発
カナダ・エドモントンのデモで停戦を訴える人々。Photo Artur Widak/NurPhoto via Getty Images
大物アートディーラーや著名アーティストたちが、ハマスによる10月7日のイスラエル襲撃に関する新たな公開書簡に署名を行った。背景には、それに先立つもう1通の公開書簡への反発があるようだ。
イスラエルとハマスの戦闘に対し、国際博物館会議が声明を発表。「重大な人道的影響に遺憾」
2023年10月25日、ガザ地区南部のカン・ユニスで、イスラエル軍の空襲により破壊された建物。Photo: Ahmad Hasaballah/Getty ImagesI
世界中の美術館・博物館に勧告と倫理基準を提供する非政府組織、国際博物館会議(ICOM)は、10月7日に起こったハマスによるイスラエルへの攻撃と、それに続くイスラエル側のガザ地区への報復に対する初の公式声明を発表した。
ハマスに拉致された200人のために、イスラエルの美術館で「安息日の食卓」が設置される
2023年10月20日、テルアビブ美術館の広場に設置された「安息日の晩餐会」の食卓。行方不明者の家族は、このテーブルを囲み、「カバラト・シャバット(安息日を迎える)」の特別礼拝に参加した。Photo:Getty Images
イスラエルにあるテルアビブ美術館の広場に、ユダヤ人とイスラエルの団体が安息日である10月20日に、ハマスに連れ去られた200人以上の人質に思いを巡らすための食卓を設置した。食卓には、行方不明者の人数分の食器が用意された。
イスラエルとハマスの戦争にナン・ゴールディンら文化人2000人以上がNO。「生命や芸術の居場所が無い非人間性を拒否する」
2023年10月19日、イスラエルのスデロットから見たガザ地区での砲撃後に立ち上る煙。Photo: Getty Images
パレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスと、イスラエルの戦闘が続いている。その中で、ナン・ゴールディン、ローレンス・アブ・ハムダン、ティルダ・スウィントン、バーバラ・クルーガー、カーラ・ウォーカーらは2000人以上のビジュアル・アーティスト、作家、俳優の一員として、ガザでの即時停戦を要求する公開書簡をネット上で発表した。