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ドイツで強まるパレスチナ擁護への抑圧は「統制と口封じという恥ずべきメカニズム」。アーティストたちが展示ボイコットを訴え

ドイツで「アーティストの政治的主張を規制しようとする」美術館、特に親パレスチナの姿勢を表明した作家を締め出そうとする文化機関での展覧会やイベントへの参加拒否を促す運動に、何百人ものアーティストが署名を行った。

ストライク・ジャーマニー(Strike Germany)が制作した画像。Photo: Courtesy Strike Germany

署名運動を主導している「ストライク・ジャーマニー(Strike Germany)」のウェブサイトによると、これは「表現の自由への抑圧、とりわけパレスチナとの連帯表現を抑圧するマッカーシズム的政策(*1)に走るドイツの美術館や文化機関を拒否するための呼びかけ」だ。


*1 1950年代のアメリカで、共和党の上院議員ジョセフ・マッカーシーが推進した共産主義とそれに関連する思想、言論、政治活動への抑圧・取り締まり運動。俗に「赤狩り」と言われる。

ドイツでは、パレスチナへの連帯を表明した作家が、美術館での展示やアートイベントへの参加機会を奪われるなど緊迫した状況に置かれていることへの批判が起きている。そんな中、1月初めにベルリン市が、イスラエルに批判的な者は市の財政支援対象から外すという新たな条項を導入しようとしたことで、緊張はさらに高まった。

ストライク・ジャーマニーの呼びかけに応じて署名を行った中には、ローレンス・アブ・ハムダン、シャーロット・プロジャー、タイ・シャニといったターナー賞受賞者や、ノーベル賞作家のアニー・エルノー、俳優のインディア・ムーア、学者のクリスティーナ・シャープのほか、アダム・ブルームバーグ、バスマ・アルシャリフ、フリーダ・トランゾ・イェーガー、ジュマナ・マナ、ヴァージルb/gテイラーなど、ベルリンを拠点に活動するアーティストたちが名を連ねる(署名はしないものの、ストライク・ジャーマニーの活動をSNSで拡散したケースもある)。

アーティストたちが公に抗議しているベルリン市の新たな財政支援条項は、国際ホロコースト記憶連盟(IHRA)の定義に依拠するものだ。同連盟は、イスラエルの存在を「人種差別主義者による企て」とするようなレッテル貼りは偏見に基づくものだとしている。一方、ストライク・ジャーマニーをはじめとする反対派は、反ユダヤ主義に関するエルサレム宣言(JDA)の定義を支持。この宣言では、イスラエルへの批判が反ユダヤ的かどうかを判断する際には「文脈を考慮する」ことを奨励している。

今週行われた抗議集会では、2023年のターナー賞受賞者でベルリンを拠点に活動するジェシー・ダーリングがスピーチを行い、JDAの定義を採用するよう提言。ダーリングは、インスタグラムにポストしたスピーチ原稿でこう訴えている。

「イスラエルがガザの子どもたちを爆撃する一方で、多民族化が進むベルリンの保育園・幼稚園では、青い目の美しい子どもたちのことを歌ったドイツの古い曲がいまだ歌われている。ベルリン市がやろうとしているのは、人種差別を当然のこととするような法案を成立させ、この街から、そして文化や言論の領域から他の人種を排除することだ。私たちは皆、『二度とあってはならない』と考える。しかし、二度と起こしてはならないこととは何だろうか。(ホロコーストの)加害者であったことのトラウマによって、統制と口封じという恥ずべきメカニズムがもたらされようとしている」(翻訳:石井佳子)

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