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ローリー・アンダーソンが芸大の教授職を辞退。過去のパレスチナ支援表明を大学側が問題視

ドイツ・フォルクヴァング芸術大学は、ニューヨークを拠点に活動するアーティストでミュージシャンのローリー・アンダーソンの客員教授就任を取り消すと発表。アンダーソンがパレスチナに連帯を示す書簡に署名したことが問題視された。

2023年4月23日、ブロードウェイのゴールデン・シアターで上演された舞台『Prima Facie』の初日舞台挨拶に訪れたローリー・アンダーソン。Photo: Bruce Glicas/Wireimage

ローリー・アンダーソンは、1970年代から、パフォーマー、作曲家、作家など、越境的な活動で知られる世界的アーティストだ。1981年に発表した楽曲「オー!スーパーマン」は、全英シングルチャートの2位を記録。日本では、2022年に愛知県で開催された国際芸術祭あいち2022に台湾のニューメディア・クリエイター、黄心健(ホアン・シンチエン)とともに作品を発表した

そのアンダーソンが、ドイツのエッセンにあるフォルクヴァング芸術大学の客員教授に就任することが明らかになったのは2024年1月初旬。しかしそれから1カ月も経たない1月26日、この決定の反故を伝えるプレスリリースが大学側から発表された。理由は、アンダーソンが2021年にパレスチナのアーティストたちによって書かれた、パレスチナ支援を求める「アパルトヘイトに反対する公開書簡」に署名していたことを同校とピナ・バウシュ財団が問題視したためだ。

この客員教授職は同校出身のダンサー、ピナ・バウシュにちなんで2022年にピナ・バウシュ財団の出資のもとに設けられた。アンダーソンは今年4月から1年間にわたり、マリーナ・アブラモヴィッチに続きこの「ピナ・バウシュ教授」を務める二人目のアーティストになるはずだった。

「アパルトヘイトに反対する公開書簡」にはアンダーソンを含む数千人が署名しており、ナン・ゴールディンやカーラ・ウォーカー、シモーヌ・リーなどのアーティストも名を連ねている。この書簡には、「この戦争をイスラエルとパレスチナという対等な2者間のものと決めつけるのは誤りであり、誤解を招く」と書かれており、こう続く。

「イスラエルは植民地支配国であり、パレスチナは植民地化されている。これは紛争ではなく、アパルトヘイトだ。ヨーロッパをはじめとする各国政府は最近、パレスチナ人の連帯に対して、公然と検閲政策を導入し、自己検閲の文化を育成しようとしている。イスラエル国家によるパレスチナ人に対する政策を正当に批判することを『反ユダヤ主義』と呼ぶのは冷笑的だ。反ユダヤ主義を含む人種差別、あらゆる形態の憎悪は凶悪であり、パレスチナの闘争においてもあってはならない。今こそ、こうした口封じの戦術に立ち向かい、それを克服する時だ」

この書簡は、イスラエル企業・製品のボイコットを求めるBDS運動(「ボイコット、投資の引き揚げ、制裁」運動)に言及していないにも関わらず、大学側はプレスリリースで「この書簡はイスラエルに対するボイコット要求に触れている」としている。ドイツでは現在、BDS運動が特に物議を醸しており、一部の政治家がBDS運動を違法化しようとする動きもある。

アンダーソンは今回の決定に対し、こう声明を出している。

「私にとって問題なのは、政治的意見が変わったかどうかではありません。本当の問題は、そもそもなぜこのような質問をされるのか? ということです。この状況を踏まえ、私はプロジェクトから手を引きます。大学ならびにピナ・バウシュ財団とこの件について徹底的に話し合い、これが最善の道であると決めました」

大学側はリリースの中で、この決定は「芸術の自由と表現の自由に関する現在の言説の文脈の中で下された」と述べている。10月7日に起こったイスラエルのハマス攻撃以来、ドイツ国内でもアートシーンが混乱し、親パレスチナの意見を表明する多くのアーティストが展覧会の中止や機会喪失の危機に直面している

今月初め、ベルリンは反ユダヤ主義と理解される行事や活動への助成を停止する条項を導入しようとしたが、 親パレスチナのアーティストへの資金提供を阻止するために使われるだろうという大規模な抗議が起こり、これを撤回している。(翻訳:編集部)

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