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アート市場はどこへ向かう? オークション会社フィリップスがプライマリー・マーケットのプラットフォームを開設

老舗オークション会社、フィリップスは、存命のアーティストに制作を依頼した、数量限定のアート作品などを販売するためのデジタル・プラットフォーム、Dropshopを8月20日に立ち上げる。

フィリップスが立ち上げる新プラットフォームDropshopで販売される、Cj・ヘンドリーの立体作品をかぶったモデル。Photo: Couetesy Phillips

境界が曖昧になるプライマリーとセカンダリー

一般的にアーティストの作品は、ギャラリー、アートフェアなどのプライマリー・マーケット(一次市場)と、そこで購入された作品がオークションなどで転売されるセカンダリー・マーケット(二次市場)で流通してきた。しかし近年、作家が制作した作品をプライマリー・マーケットを経由せずに直接オークションに出品するケースが増えており、その境界は曖昧になっている。

Dropshopを通じて作品を発表する最初のアーティストは、オーストラリア生まれでブルックリンを拠点とする35歳のCj・ヘンドリーだ。Dropshopには、王冠をふくらませたようなブロンズ製の立体作品100点を出品する。この作品の価格はまだ公表されていない。

ヘンドリーはSNS上で大人気のアーティストで、インスタグラムのフォロワー数は68万2000人にのぼる。オンラインで作品を受注販売しており、自身も商業的な成功はインスタグラムのおかげだと語っている。彼女はかつてギャラリーで個展を開いたことがあるが、所属契約は結んでいない。

Dropshopは月替わりでアーティストの新作を発表することを目標にしており、Dropshopを通じて作品が購入され、後にフィリップスのオークションで転売された場合、再販ロイヤリティ手数料がアーティストに支払われるシステムになっている。このような作家に手厚い制度を設けるオークションハウスはまだなく、フィリップスはこのモデルを業界初のものにすることを目指している。

SNSの台頭によって変わるアート市場

Dropshopを率いるリテール・セールス・ディレクターのクリスティン・ミーレは、声明の中で、新しいプラットフォーム誕生の理由は、ここ数年の、アート市場の大きな変化に対応するものであるとしている。ミーレは、「コロナ禍が始まった2020年以降、コレクターは、ソーシャルメディアを通じて新進アーティストから直接作品を購入することが増えていて、作家は自らマネジメントする必要が出てきました。この現象がDropshopの創設に関係しているのは確かです」と語っている。

ミーレは以前、画家のケヒンデ・ワイリーが非営利団体に資金を提供するため、2020年に立ち上げた作品販売のプラットフォーム、ケヒンデ・ワイリーショップの代表を務めていた。

現在、競合のオークションハウスでは、Dropshopのようなモデルはほかにほとんどない。アーティストが直接作品をオークションに出品する場合、一般的に、売上金は非営利団体や文化施設のために使われるチャリティー目的だ。サザビーズは2022年9月、アーティストが直接作品を販売できる、チャリティに特化したプライマリー・マーケット・プラットフォームを立ち上げている。

同じ作品販売システムを持つ競合は、2010年と2015年にローンチされたExhibition AAvant Arteがある。

ミーレは「ここ数年の、アーティストをとりまく状況の変化の中で、従来のオークション・ハウスの機能をDropshopでどのように拡大できるか再考したい」と話す。

フィリップスの広報担当者は、今後誰がDropshopに参加するかは明言しなかったが、「優良」で「自立心のある」アーティストを求めているという。(翻訳:編集部)

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