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イスラエル・ハマス紛争に関し、アート界から「2通目」の公開書簡。軋轢を生んだ一通目に反発

大物アートディーラーや著名アーティストたちが、ハマスによる10月7日のイスラエル襲撃に関する新たな公開書簡に署名を行った。背景には、それに先立つもう1通の公開書簡への反発があるようだ。

カナダ・エドモントンのデモで停戦を訴える人々。Photo Artur Widak/NurPhoto via Getty Images

1通目の公開書簡は「知識不足」

10月24日、「A Unified Call from the Art World: Advocating for Humanity(団結したアート界からの呼びかけ:人間性の擁護を)」というタイトルの公開書簡が、Googleドキュメントで発表された

この書簡は、「ハマスの凶悪な行動によって悲惨な影響を受けたイスラエルパレスチナ双方の罪のないすべての民間人に対する共感と団結を促す」ことを提唱している。なお、これに先立ち10月19日にアートフォーラム誌のウェブ版とアートプラットフォームのe-fluxに掲載された公開書簡と区別するため、24日の書簡を「ユニティ(団結)・レター」と呼ぶ。

ユニティ・レターは、「世界のアートコミュニティは、それぞれ独自な声と視点を持つ何百万もの多様な糸で編まれています」という文章で始まる。そのうえで、武装組織ハマスが10月7日にイスラエルで1400人を殺害し、200人以上の人質を取ったことを指摘し、この日を「ホロコースト以来、最も多くのユダヤ人が殺害された日」だとしている。ただ、「ハマスの凶悪な行動によって悲劇に見舞われた、イスラエルとパレスチナ双方の罪のない民間人」と書いてはいるものの、7日の攻撃を受けてイスラエル国防軍がガザ地区を空爆し、6500人以上が死亡(編注:パレスチナ保健省による10月25日時点の報告に基づく)したことには触れていない。

ユニティ・レターは、前述のアートフォーラム誌のウェブ版とアートプラットフォームのe-fluxで公開された「アート界全体の意見を代表していないアーティストらが署名した、知識不足を露呈する書簡」への返答だとされている。こちらの書簡はガザ地区での停戦を訴え、「どんな属性であるかに関わらず、すべての民間人に対する暴力を拒否する」と主張しているが、ハマスによる襲撃についての具体的な言及はない。アートフォーラム誌の発行者であるダニエル・マコーネルとケイト・コザは、この書簡が「上層部やチームへの事前の共有なしに公開された」こと、そして、「アートフォーラムの価値基準および編集プロセスと一致しない」として、2017年から編集長を務めていたデイヴィッド・ヴェラスコを解雇している(ただし現時点では、この書簡が誰によって作成されたものなのかは明らかになっていない)。ヴェラスコはその後、タイムズ紙の取材に対し、「常に言論の自由とアーティストの声を擁護してきた雑誌が外部の圧力に屈したことに残念に思っています」とコメントしている。

本記事の公開(日本時間の10月30日17:00)時点で、ユニティ・レターに署名しているのは約5800人。その中には、ニューヨークでギャラリーを共同経営するポーラ・クーパーとスティーブ・ヘンリー、ペース・ギャラリーマーク・グリムシャーCEO、アートフォーラム誌が掲載した公開書簡に対して独自の声明を出したアートディーラーのドミニク・レヴィ、ブレット・ゴーヴィ、アマリア・ダヤン、ダヤンの夫でニューヨークのギャラリー、ヴィーナス・オーバー・マンハッタンの創設者アダム・リンデマン、クリスティーズの戦後・現代アート部門の責任者アナ・マリア・セリス、ギャラリー・ナーマド・コンテンポラリーのジョセフ・ナーマド、コレクターのグレン・ファーマンらがいる。

また、アーティストのアレックス・イスラエル、ヒラリー・ペシス、ジョナス・ウッド、アートディーラーのデイヴィッド・コルダンスキー、ディーラーのエマニュエル・ペロタン、ペール・スカルシュテット、アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチゲオルク・バセリッツ、ジョン・カリン、ジョージ・コンド、ウルス・フィッシャー、リチャード・プリンス、ジェニー・サヴィル、インカ・ショニバレCBE、そしてクリスティーズの戦後・現代アート担当のサラ・フリードランダー、ニューヨークのアートフェア「インディペンデント」の創設者エリザベス・ディーらも名を連ねている。

ユニティ・レターはこう結ばれている。

「私たちが団結し、共に声を上げることで、平和、理解、人間の尊厳という理念が擁護されるよう願っています」

アートフォーラム誌掲載の公開書簡に加えられた変更

アートフォーラム誌の書簡からは、公開以降に一部の署名が削除され、署名者リストが並べ替えられた。また、当初は言及されていなかったハマスによる攻撃に関する文が追記され、アートフォーラム誌のインスタグラムアカウントからは公開書簡の告知投稿が削除された。

アートフォーラム誌に掲載された書簡は、「アートコミュニティは多様で、国境や国籍、個別の信仰や宗教の枠組みを超越しています」という一文で始まり、「私たちアーティスト、作家、キュレーター、映画制作者、出版関係者、そして芸術関連機関や団体の運営を担う職員は、その活動の場所が安全であるだけでなく、人道的な空間であることを保証される必要があります」と主張。さらに、こう続けている。

「パレスチナ解放を支援するとともに、すべての民間人に対する殺傷行為の停止、即時停戦、ガザに支援を届けるための人道回廊の確保を要求し、各国政府には重大な人権侵害と戦争犯罪への加担を止めるよう求めます」

これに加えてアートフォーラム誌は、e-fluxやオンラインメディアのHyperallergicなど、同じ書簡を掲載した他メディアにはない次の文言を、ユニティ・レターが発表される前日に追加した。

「8000人の署名者全員に再確認してもらうことはできませんが、書簡の作成者である私たち、そしてこの数日の間に支援を表明してくれた多くの署名者は、『属性に関係なく、すべての民間人に対する暴力』を拒否し、10月7日にイスラエルで1400人の命が奪われたハマスによる恐ろしい虐殺に対する憤りを共有していると改めて述べたいと思います。私たちはすべての民間人の犠牲者を悼んでいます。また、すべての人質の迅速な解放を望み、即時停戦を要求し続けます」

10月19日の公開以降、アートフォーラム誌の公開書簡から署名を削除した中には、アーティストのリクリット・ティラヴァニ、ジョーン・ジョナス、オスカー・ムリーリョ、トマス・サラセーノ、ピーター・ドイグ、セス・プライス、そしてMoMA PS1のキュレーター、ルバ・カトリブがいる。

この間、写真家のナン・ゴールディンアートネットニュースのインタビューで、アートフォーラム誌の公開書簡は「双方の犠牲について言及すべきだった」と述べ、アーティストのカタリーナ・グロッセは、この文書に署名したことを「過ち」だったとした。(翻訳:野澤朋代)

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