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美術館の使命に反する──MoMA職員が書簡を通じ、イスラエルのガザ攻撃に対する上層部の「深い沈黙」を批判

2月11日、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の職員が公開書簡を投稿し、イスラエルによるパレスチナへの攻撃の停止とイスラエル・ハマス間の「無条件停戦」、そして同館の上層部に、この紛争に対して毅然とした態度を取るよう求めた。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)のエントランス。Photo: Getty Images

ニューヨーク近代美術館(MoMA)の職員が投稿した公開書簡では、イスラエルによる集団リンチ、大量虐殺、ガザ包囲の停止とイスラエル・ハマス間の「無条件停戦」を要求している。さらにこの職員は同館に対し、イスラエルの学術・文化ボイコットのためのパレスチナ・キャンペーン(PACBI)にコミットすること、あるいは最低でも、PACBIの原則と手法を学び、MoMAの活動の指針となる原則を策定、確立することを求めている。PACBIは、イスラエルの文化機関に対するBDS運動(ボイコット、投資撤収、制裁)を呼びかけるために、パレスチナ・ヨルダン川西岸の学者や知識人のグループが2004年に立ち上げたキャンペーンだ。

2月11日の投稿以来、公開書簡の賛同者は増え続けており、2月15日時点で、MoMAのフルタイム及びパートタイムのスタッフ、インターンやフェローなど、さまざまな立場で働く42人に加え、213人のアーティストや文化コミュニティのメンバーが署名している。

2023年10月7日にハマスによるイスラエル攻撃で約1200人が死亡、200人以上が人質となった。2月11日にガザ保健省が発表した情報によると、それに対するイスラエル軍の報復攻撃により死亡したパレスチナ人の数はこれまで2万8000人に上り、6万7000人が負傷した。

公開書簡は、「この5カ月間、世界はパレスチナにおけるイスラエル軍の壊滅的な暴力の激化や、この地域の人々の日常生活が想像を絶する形で崩壊していく様を目の当たりにしてきました。私たちは、現在進行中の危機をジェノサイドとして認識し、緊急に対処しなければならないと確信しています」と訴える。

同時に、ガザの人道危機に対するMoMA上層部の「深い沈黙」について言及し、紛争に対するMoMAの現在の姿勢は「世界中の人々を現代の芸術を結びつける」という美術館の使命に反すると批判。「ガザの貴重な芸術、文化、歴史が組織的に破壊され、盗まれ、消されるのを黙って見ているようでは、私たちの国際的な視野の信頼性と誠実さは不完全となり、損なわれてしまいます」と主張した。さらに、パレスチナには130 を超える史跡が登録されており、イスラエルによる爆撃が文化遺産に与えた損害の大きさを強調。実際に、2024年1月にスペインのNGO「ヘリテージ・フォー・ピース」が報告したところによると、 5カ月にわたる爆撃で、これらの遺跡のうち104カ所が損傷または破壊されたという。

イスラエルとハマスの争いが激化する中で、世界中の芸術・文化遺産関連機関は、世論を巻き込んで拡大するこの危機にどのように対処するか判断を問われている。

公開書簡が投稿される前日の2月10日、約800人の親パレスチナのデモ参加者がMoMAに押しかけ、同館の理事5人について「武器製造、ロビー活動、企業投資を通じてシオニストによる占領に直接資金を提供している」と非難する内容の特注印刷の模擬ミュージアムガイドを1000枚以上配って座り込みを決行。同館は一時閉館した。ブルックリン美術館の外でも同様の抗議行動が行われ、10人が逮捕、1人が裁判所から召喚状を受けた。

そして2月12日にユダヤ博物館で行われた、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を描くイスラエル人アーティスト、ゾヤ・チェルカスキー=ンナディによる講演は、ガザ地区での停戦を求める活動家によって何度も妨害された

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