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「史上最初の人権宣言」を守れ! イラン政府が大英博物館に、イスラエルへの文化財貸与中止を要請

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中、イラン政府関係者は、大英博物館が所蔵する2600年前の重要な遺物「キュロス・シリンダー」をイスラエルのエルサレムに貸与する計画を中止するよう求めている。

1879年、イラクのバビロンで発掘された「キュロス・シリンダー」。2013年、メトロポリタン美術館で展示された時の様子。Photo: AFP via Getty Images

大英博物館に所蔵されている「キュロス・シリンダー」と呼ばれる遺物は、1879年に古代バビロニア領(現在のイラク)で発見された。円筒状の粘土の表面には、アケメネス朝ペルシアのキュロス大王が、奴隷だった人々の帰国を許可した勅令の記録が楔形文字で刻まれており、ペルシャ支配の最初の確立を示す重要な資料とされている。また、キュロス大王はイランの建国者と考えられており、イラン最後の国王であるモハンマド・レザー・シャー・パフラヴィーは、1971年と1972年にかけてキュロス大王を称えるペルシャ王政2500年の盛大な記念式典を開催し、キュロス・シリンダーがそのシンボルとなった。そして同国王が「史上最初の人権宣言」と呼んだこの遺物のレプリカが国際連合に贈られ、世界的に知られるようになった。

キュロス・シリンダーは2013年にニューヨークメトロポリタン美術館で開催された「The Cyrus Cylinder and Ancient Persia: Charting a New Empire(キュロス・シリンダーと古代ペルシャ:新たな帝国を描く)」で展示された。その前年、ニール・マクレガー前大英博物館館長は、エコノミスト誌のインタビューで、この遺物を、国家が「多様性を統治する」方法について検討した最初の文書の1つだと述べた。

2024年10月に予定されている展覧会のために、キュロス・シリンダーはエルサレムにあるイスラエル国立図書館へ移送される予定だったが、イランのハディ・ミルザエイ博物館総局長は、この件について懸念を表明した。テヘラン・タイムズ紙によると、ミルザエイは、外務省のアミール=ホセイン・ガーリブネジャド文化協力担当副総裁と、ユネスコ・イラン国内委員会のアリ=アクバル・モッタカン事務局長に個々に書簡を送付。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中で、歴史的に重要な遺物を移動させることに伴う潜在的な危険性を訴え、キュロス・シリンダーに対するイランの知的財産権を強調し、その移動を直ちに禁止するよう求めた。そして、武力紛争の際に文化財を保護するための多国間条約(1954年ハーグ条約)に則った法的措置を強く求めた。

キュロス・シリンダーの貸し出しにイラン政府関係者が介入したケースは、10年以上前にもあった。2010年、大英博物館がテヘランにあるイラン国立博物館に貸し出す際に、イラン政府関係者は、遺物が1879年に隣国イラクのバビロニアから発掘されたものであることから、テヘランが中東でより長い期間展示することを要求するのは正当であるとして、4カ月の期間限定契約を批判した。

大英博物館がアートニュースペーパーに明かした情報によると、キュロス・シリンダーは現在アメリカのイェール大学ピーボディ自然史博物館に6月30日まで貸し出されており、展示については「追って発表する」という。

US版ARTnewsは大英博物館の担当者にコメントを求めたが、すぐに回答は得られなかった。(翻訳:編集部)

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