今週末に見たいアートイベントTOP5: ゲームのプレイヤーが展示空間を創出「BIEN展」、バウハウス美術教師の実験的授業に迫る「ジョセフ・アルバースの授業」
関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!
1. 野又 穫「Continuum 想像の語彙」(東京オペラシティ アートギャラリー)
イギリスの大手ギャラリーが才能に注目。野又穫が描き続ける「建造物」の変容
いつの時代か、どの場所か。絵画のなかに人影はなく、ただ不思議な建造物が佇んでいる。鑑賞者はその独特な気配が漂う世界に入り込み、自由に想像の羽を広げる。作者は、1955年生まれの野又穫。東京藝術大学卒業後も広告代理店でアートディレクターをしながら絵を描き続け、その後独立。やがてイギリスの大手ギャラリー、ホワイト・キューブの目に留まって、世界を舞台とする画家になった。
今展で初期から現在までの作品を通して見ると、作風が変遷していく様子が分かる。建造物は大型化して自然と一体になり、そのうち船の帆や風車などを備えた工業的なものに。東日本大震災で自然の力によって破壊される建物を見て、絵筆を握れなかった時期もある。そしてたどり着いた最新作は……。
野又穫展の鑑賞者は、4階コリドールで同時開催中の小林紗織「音と記憶の絵画」にも入場可能。音楽を聴いたときに頭に浮かんだ美しい形や色のイメージを五線譜上に描き出した「スコア・ドローイング」と名付けられた作品群が展示されている。
野又 穫「Continuum 想像の語彙」
会期:7月6日(木)~ 9月24日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(東京都新宿区西新宿3-20-2)
時間:11:00 ~ 19:00 (入場は30分前まで)
2. 冨安 由真「影にのぞむ」(原爆の図丸木美術館)
吊り下げられた手と影、被爆3世の美術家が向き合った原爆
現実と非現実の狭間をモチーフに、没入型のインスタレーションや絵画などを制作してきた冨安由真。1983年広島県生まれで、祖父母が原爆の爆心地から1.5㎞地点で被爆した、被爆3世でもある。中学生のときに訪れ、「原爆の図」に衝撃を受けたという丸木美術館での展示機会を得て、“いつか向き合いたいと胸に秘めていた”という原爆のテーマに正面から挑んだ。
展示は、生存する被爆者15人の協力のもと、実際に型取りした手のオブジェを天井から吊るしたインスタレーション。祖母から聞いた被爆体験で、皮膚が剥がれ落ちた腕を「幽霊の手」のように前に掲げて歩く人々の姿が強烈に印象に残っているのだという。また原爆の熱線で人間の影が焼き付いた「人影の石」や、被爆者が目撃した人魂の話から、影が協調されるような光の演出を加えた。作品は意図的にシンプルにそぎ落とし、鑑賞者が自己に向き合える空間を意識した。美術の力によって言葉での記録とは異なる表現を志したが、型取りの際に聞いた証言を残す必要性も感じ、会場でテキストを配布している。8月5日(土)の14時から、作家によるギャラリートークも。
冨安 由真「影にのぞむ」
会期:7月8日(土)~ 9月24日(日)
会場:原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市下唐子1401)
時間:9:00 ~ 17:00
3. ケリス・ウィン・エヴァンス「L>espace)(…」(エスパス ルイ・ヴィトン東京)
世界的アーティスト、ケリス・ウィン・エヴァンスの5作品が来日
ドクメンタやヴェネチア・ビエンナーレといった国際美術展に参加し、作品がニューヨーク近代美術館(MoMA)やテート・モダンなどに収蔵される、世界的なアーティストのケリス・ウィン・エヴァンス。文学作品などから引用したテキストを作品化した、コンセプチュアルなインスタレーションで知られ、ネオン管、音、写真、ガラスほか多用な素材を使って鑑賞者の知覚を刺激してきた。今回は、2007年からルイ・ヴィトン財団が収集した5作品を、東京の地で公開する。
会場でひときわ存在感を放つのは、明滅するシャンデリアだ。作曲家で建築家のヤニス・クセナキスが、指揮者のヘルマン・シェルヘンに宛てた手紙の文を、光のモールス信号に置き換えた。「思考は直線的ではない」というメッセージが、手紙とは違うかたちで可視化される。ほかに、室内の空気が送られることで音を発する、ガラス製のフルートの立体作品などを展示。
ケリス・ウィン・エヴァンス「L>espace)(…」
会期:7月20日(木)~ 2024年1月8日(月・祝)
会場:エスパス ルイ・ヴィトン東京(東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7F)
時間:12:00 ~ 20:00
4. BIEN「PlanetesQue: The Case of B」(PARCEL)
ゲーム・装置的な自作を再解釈して創る展示空間
木の虫食い跡のように、均一の太さのうねった線で描いたドローイングを代表作とする、1993年生まれのBIEN。表現は拡張し、近年ではインスタレーション的な作品も発表している。今展で展開する作品もその一つ。展示の中心となる新作「PlanetesQue」は、家が逆さになった形をした、車輪付きの箱だ。ゲーム・装置的な要素を持ち、中には説明書と複数のサイコロ、いくつかのオブジェクトが入っている。作品は、19世紀にニューヨークの新聞に掲載された、“月で生命や文明が発見された”という「グレート・ムーン捏造記事」からも着想を得た。
PlanetesQueは、プレイヤーが自分の選んだ場所でサイコロを振り、説明書に従ってオブジェクトや周辺のものを使うことで展示空間を創り上げていくというもの。だが説明書は幾通りにも解釈できるため、プレイヤーは必然的にその空間や外部の 環境を把握しなおしていくことに。鑑賞者も、配置されたオブジェクトから制作者の目線を探すことになる。今展では「PlanetesQue」の設計者であるBIEN自身がプレイヤーとなり、設定したルールを再解釈して展示空間を創作する。
BIEN「PlanetesQue: The Case of B」
会期:7月22日(土)~ 9月3日(日)
会場:PARCEL(東京都中央区日本橋馬喰町2-2-1 DDD hotel 1F)
時間:14:00 ~ 19:00
5. ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室(DIC川村記念美術館)
バウハウスの美術教師、芸術家たちを育てた実験的授業とは
ドイツ出身の画家でデザイナーであるジョセフ・アルバース(1888–1976)の、美術教師という側面にも光を当てる回顧展。色彩を探究したことで知られ、その実験的な独自の授業は戦後アメリカの重要な芸術家たちに大きな影響を与えた。学生として学び、後に基礎演習の教師を務めた造形学校バウハウスをはじめ、同校閉鎖後に渡米して勤務したブラックマウンテン・カレッジ、イェール大学での授業を紹介。バウハウス時代のガラス作品や家具と食器のデザイン、絵画の代表作のほか、彼の授業をとらえた写真や映像、生徒の作品など約100点を紹介する。
展示は時系列順にたどる4章構成。「1章 バウハウス―素材の経済性」では、アルバースが重要視した、素材の性質を把握して効率よく扱う方法の習得に焦点。「2章 ブラックマウンテン・カレッジ―芸術と生」では、植物の葉や石などの自然物を制作に取り入れた先進的な取り組みや、色面で構成した抽象画を紹介。「3章 イェール大学以後―色彩の探究」では、学生が試行錯誤した、色の錯覚を作り出す課題や、20年以上に渡って手掛けた絵画シリーズ《正方形讃歌》を特集。「4章 版画集〈フォーミュレーション:アーティキュレーション〉」では、晩年に画業をまとめた版画集から15作品を展示する。
会場には、実際に行われた授業の課題に挑戦できるワークショップスペースが設けられ、自分で手を動かして考えることを促したアルバースの精神が体感できる。
ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室
会期:7月29日(土)~ 11月5日(日)
会場:DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市坂戸631)
時間:9:30 ~ 17:00 (入場は30分前まで)