ニコ・ウィリアムズがビーズを用いて探求する、先住民と消費社会との不協和音【New Talent 2025】
US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、アメリカの新進作家を紹介する人気企画。2025年版で選ばれた20人のアーティストから、カナダ先住民に伝わるビーズ細工を進化させ、消費社会と先住民の置かれた環境、それらが交錯する社会状況をテーマに制作を続けるニコ・ウィリアムズを紹介する。

ビーズ細工を用いた彫刻で知られるニコ・ウィリアムズは、カナダ・ティオティアケ(現在のモントリオール)の先住民、アアムジウナンの一員だ。身の回りのありとあらゆるものに美を見い出す彼は、ビンゴカードやサイコロ、規制テープ、プラスチックフェンスなどをガラスビーズで制作。本人が「ソフト・スカルプチャー」と呼ぶ作品は、まるでビロードのような光沢を放っている。
ウィリアムズにとって、日常品を作品として創造し直すことは、天然ガスのパイプライン敷設で先住民の聖地を侵し、そこから活動家を引き離そうとする現状に見られる物質主義とその役割を批判する1つの方法でもある。また、ネイティブ・アメリカンが運営するカジノ施設で小銭を稼ぐような「先住民のおばちゃん」から、多種多様な文化保護活動に至るまで、「モノ」がどんなつながりを育むかを探求した作品もある。
ウィリアムズは、ビンゴカードやイケアの買い物バッグなどをビーズで作り、子ども時代に行くことができなかった美術館に展示する行為に内在するユーモアと、社会経済的な力に向けた辛辣な批判との間のバランスをうまく取っている。彼の言葉を借りれば、「窓ガラスが揺れるくらい先住民に笑ってほしい」と思っているのだという。
先住民の長老たちを通してビーズ細工に触れてはいたものの、16歳で居留地を出るまで、ウィリアムズが細工を習うことはなかった。しかし、他の先住民アーティストと同様、都会では自分が属する民族の文化に触れる機会がないことに気づき、ユーチューブの動画を参考に、独学で作り方を学ぶ。その後、アルゴンキン族のアーティスト、ナディア・マイアに弟子入りし、授業料代わりに車の修理を手伝ってビーズ細工の教えを受けたという。
モントリオールのコンコルディア大学で修士課程にあった2021年、コンテンポラリー・ジオメトリック・ビーズワークの研究チームから誘いを受けたウィリアムズは、技術を重視した幾何学的な作品に取り組み始める。やがて、マサチューセッツ工科大学(MIT)でワークショップの指導を行うようになったが、この体験について彼は、MITをMET(メトロポリタン美術館)と誤解していたことを振り返り、「ビーズのブートキャンプ」のようだったと笑いながら教えてくれた。MITでの仕事については「(幾何学な作品の)数学的な面についてはチンプンカンプンなので、自分は見よう見まねでやるだけです」とも話している。
ウィリアムズによるビーズワークへの実験的なアプローチは、連続性の原理に根ざしている。
「私たちは結び目を作らずにビーズ細工をします。ビーズが象徴するのはコミュニティであり、もし結び目を作れば、それは共同体の中にコブを生み出し、連続性を阻害することになるのです」
そう説明するウィリアムズが初期に技術を磨いた作品は、コンビニエンスストアのレジ袋を模した《Starlite Variety(スターライト・バラエティ)》(2021)や、クラフト社製のインスタント食品「マック&チーズ」のパッケージを思わせる図柄を黄色と青のビーズで革に縫い付けた《KD》(2021)などの小ぶりな作品だった。

当初は消費主義をテーマに日用品を作品にしていたウィリアムズだが、ある単純なミスから大型作品を作り始めることになる。オレンジ色のビーズを24房注文するつもりが、24キロ注文してしまったのだ。そこから生まれたのが、オレンジのビューグルビーズでできた格子状のネットを3本の金属柱と組み合わせた《Barrier(フェンス)》(2023)と、蛍光色の規制テープを模した長さ22メートルのビーズの帯を天井から吊るした作品《Biskaabiiyang|Returning to Ourselves(ビスカービヤーン|自分たちのあり方に戻る)》(2023)だ。
この2つの大型作品は、カナダのパイプライン運営会社、エンブリッジのノーザン・ゲートウェイ・パイプラインをめぐる水源地環境の保護闘争を思わせる。それは、イヌイットやメティス(先住民と入植した白人との混血子孫)の人々を中心とした運動だった。アメリカ人なら、やはり先住民のオセティ・サコウィンが主導した、2016年のダコタ・アクセス・パイプラインへの抗議活動を思い出すかもしれない。
2024年、これらの作品を対象に、ソビー・アート・アワードと賞金10万ドル(約1450万円)がウィリアムズに授与された。現在は、モントリオールのPHI財団で本格的な個展「Bingo」が開催中で(9月14日まで)、先住民の土地主権、経済的困難、商取引をテーマとする30点あまりの作品が展示されている。ウィリアムズは、先住民居住区における厳しい現実と消費文化の超現実的とも言える恩恵との間に生まれる不協和音を追求し、日用品を題材とした作品で両者の交錯を表現し続けている。(翻訳:清水玲奈)
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