金欠だけどインスタで作品を売りたくない作家、Xで炎上したアーティストがとるべき行動をアドバイス【認めたくない真実:アート業界のお悩み相談室】
読者のアートにまつわるお悩みや質問に、ニューヨークの敏腕アートコンサルタント、Chen & Lampert(チェン&ランパート)の2人が答えるUS版の人気企画。今回はSNSでの作品販売と炎上問題に向き合うアーティストのお悩みを取り上げる。
質問1:売れない作品を保管する場所もお金もないが、SNSで売るのは気が進まない。どうすればいい?
スタジオとして借りていた部屋の賃貸契約が切れてしまったものの、家賃が高騰している今、再契約するのは経済的に不可能な状況です。自宅に半分空きスペースになっている部屋があるので、そこを仕事場にするつもりですが、今まで制作してきたたくさんの作品を保管する余裕はありません。妻はインスタグラムで作品を売ればいいと言うけれど、なりふり構わない感じがするし、チープな印象を人に与えたくないのです。保管場所を借りるお金がない以上、それ以外の唯一の選択肢は大半の作品を廃棄することなのですが、憂うつで仕方がありません。どうしたらいいものでしょうか。
あなたの憂うつの破壊力は相当なものでしょう。相談者の気持ちを傷つけないよう、無難な答えを探そうと頭を悩ませている私たちも、その二次被害者と言えるかもしれません。それくらい回答が難しい相談ですが、スタジオを失ったあなたは今、金欠のクリエイターが遅かれ早かれ直面することになる厳しい問い──「大切にしてくれる人がいない全てのアートはゴミなのか」──を突きつけられているのは確かです。愛情というのは得難いものですが、幸いなことに、親しい人、特に家族は罪悪感から作品をそう簡単には捨てないでしょう。でも、あなたが手放さなかった絵は、やがてあなたの愛する妻や、あなたの死を悲しんでくれる友人の頭痛の種になる可能性があります。そのことを考えなければいけません。
そして、自分の作品の最大のコレクターは自分自身であることを決して忘れてはなりません。あなたほど、あなたの作品の充実したコレクションを持っている人はいないのです。そうやって自分で市場を独占していることの問題点は、ほかの潜在的なコレクターがその美的、文化的、金銭的価値について検討できないことです。私たちはあなたの経歴を知りませんが、ひょっとしたら、あなたにはギャラリーがついているかもしれないし、過去に作品が売れたことがあるのかもしれません。だとすれば、作品をソーシャルメディア上で安売りしたくない気持ちは理解できます。でも、あまり作品が売れておらず、現在(あるいは過去に)ギャラリーで作品を発表していないのであれば、SNS販売でキャリアに傷がつくようなことはないでしょう。プライドは少し傷つくかもしれませんが、新しい機会が生まれる可能性だってあるし、少なくとも部屋はスッキリするはずです。
あるいは、もし、誰かから作品について褒められたことがあるなら、その人たちに譲ったらどうでしょうか。アート作品を保管する手間や負担と引き換えに、彼らは殺風景な部屋の壁や地下室を明るくできるというわけです。家族や友人、同僚、知人は、あなたにとって最も頼りになるパトロンであり、後援者だと考えてみてください。あなたの作品にお金を払ってくれるわけではないかもしれないけれど、保管場所やうつ症状を治すセラピー代に消えてしまうお金を節約することはできるでしょう。
質問2:SNSへのうっかり投稿で炎上。どう対処すべき?
ソーシャルメディアで炎上してしまい、アーティストとしてのキャリアに傷がつきかねない状況です。21歳の頃の写真を投稿することが流行っていて、大学時代の友人が送ってくれた写真──ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)を出す店のテラス席でサンドイッチを食べながら、「いいね!」という感じで親指を立てている──をX(旧ツイッター)にポストしたのですが、背景にイスラエル国旗があるのに気づかなかったのは失敗でした。おかしな方向で注目されてしまい、ものすごく厄介なことになっています。パレスチナの占領を擁護していると非難する人々がいる一方で、「親イスラエル的な」私を称賛する人たちもいます。実は2件ほどスタジオ訪問に来てくれる予定がありましたが、どちらも向こうからキャンセルされ、作品を出品するはずたったガザ支援のためのアートオークションからも参加を拒否されてしまいました。イスラエル料理の店で「いいね!」のジェスチャーをしている写真をアップしたことに他意はなく、まったくの偶然で、パレスチナで起きている人道危機に対する私の気持ちを代弁するものでもありません。どうすればこの面倒な状況から抜け出して、キャリアをもとの軌道に戻せるでしょうか。
あなたは、自分が大好きなタヒニ(練りゴマペースト)、ピクルス、サラダ、ひよこ豆などの具がたっぷり詰まったベジタリアンピタサンドを、熱々のラム肉のミートボールに変身させてしまったのですね。この2つの料理の共通点は何かというと、どちらもかぶり付くと汁が吹き出し、顔やシャツを汚してしまうこと。これと同様、本当に厄介なのが2024年における世の中での立ち回り方です。今はソーシャルメディアによって、大昔の過ちが掘り起こされることもあれば、食べ物についての神経を逆撫でする投稿やくそダサいミームをアップしたことで新たな問題が発生することもあります。これぞまさに、現代のネット社会の闇であり、咀嚼音付きの大食い動画や、ピサの斜塔の前のおどけた自撮り、オープンレター、深夜にアップされるセクシー画像など、手軽な楽しみや承認欲求を満たす手段を得た私たちが支払う代償とも言えるでしょう。政治信条に関係なく、食べ物の写真をアップしたり、善人ぶったコメントを書いたりするのはやめましょう。中立性を保ちたいという表向きの願望を、あなたの無意識が裏切ってしまう危険性があるからです。あなたの間抜けな投稿が一部のアート関係者をどれだけイライラさせているかということを念頭に置きつつ、本当に苦しんでいる世界の人々について思いを馳せてください。(翻訳:野澤朋代)
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