クリミアの文化財がウクライナに返却へ。10年の係争がついに決着
クリミアの博物館からオランダに貸し出された貴重なスキタイの金細工を、ウクライナに返却するよう、オランダ最高裁が判決を下した。ロシアのクリミア侵攻後、訴訟でその返却先が争われていた。
2013年、アムステルダムにあるアラード・ピアソン考古博物館の展覧会「Crimea — Gold and Secrets of the Black Sea(クリミアー黒海の黄金と秘密)」に、クリミアの4つの博物館から約300点の考古学的文化財が貸し出された。しかし、この展覧会が2014年にドイツに巡回している間に、ロシアがクリミアへ侵攻。クリミアは一方的にロシアに併合された。アラード・ピアソン考古博物館は、貸し出された文化財をウクライナに返すか、ロシア支配下にあるクリミアに返すかを判断できず、倉庫に保管していた。
その後、文化財の返却先をめぐって10年近く係争が続いていたが、6月初旬、オランダの最高裁がウクライナへの返却を言い渡した。これが最終的な決定になると見られる。裁判所の声明では、「(今回の決定は)クリミアの博物館の権利侵害と、文化遺産保護というウクライナの国益との間の公正なバランスを示す」と述べられている。
最高裁の判決は、2016年にオランダの控訴審で下された判決を支持するものだ。クリミアの博物館(タウリダ中央博物館、ケルチ歴史文化保護区、バフチサライ歴史文化保護区、ヘルソネス・タウリダ国立保護区)は控訴審判決を不服とし、オランダ最高裁にこれを破棄するよう求めていた。
最高裁は判決を覆さず、どの法律を適用するかについて変更を行った。控訴審では遺産法が適用されたが、最高裁は「不可抗力」の事態を想定した規定を持つウクライナ博物館法を適用した。判決文には、「不可抗力的な状況や、博物館の作品の破壊、紛失、損傷の危険性がある場合、ウクライナの文化大臣は保管のための移送に関する決定を行う権限を有する」とある。最高裁もウクライナ側も、クリミアの博物館が現在ウクライナ以外の組織によって運営されているため、ウクライナの文化遺産が失われる可能性があると考えている。
判決文にはまた、こう記されている。「(ウクライナの)博物館法は、ウクライナ博物館基金の公的部分に属する博物館の所蔵品が『分離』されるのを防ぐことも目的としている。したがって、たとえ博物館の展示物が存在し続け、損傷がないとしても、それらがウクライナの影響力の範囲外となったことを、同法律が定める損失と見なさなければならない」
裁判所によると、この論拠はウクライナが設立した国立保護区にも、他の3つの博物館にも適用される。これらの博物館の所蔵品は全て、ウクライナ博物館基金に属するものだからだ。オランダは他のEU諸国同様、クリミア併合を認めていない。
アラード・ピアソン考古博物館は声明で、「最高裁の判決に従って必要な措置を取れることになった」としている。また、AP通信によると、訴訟と文化財保管に53万8000ドル(約7500万円)の費用がかかったことが同声明で明らかにされたという。(翻訳:石井佳子)
from ARTnews