モデル・長谷川ミラが、コレクターの竹内真と対談。「心のレンズ」展が伝えるアートの力、文化の価値

2024年2月25日まで、IT業界で活躍する起業家でコレクターの竹内真のプライベートコレクションを展示するTAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」展が、WHAT MUSEUM(主催・企画)で開催されている。この展示を、イギリスの名門美大卒、SDGsについての深い洞察でも知られるモデル、長谷川ミラが、竹内とともに巡りながら、アートがもたらす作用や魅力について対話した。

竹内真(左)と長谷川ミラ(右)。背景にある作品は、ヴィルヘルム・サスナル《Untitled》(2022年)。Wilhelm Sasnal, Untitled, 2022, oil on canvas, 228.6 x 302.3 cm © Wilhelm Sasnal, courtesy Sadie Coles HQ, London

現在、天王洲のWHAT MUSEUM(主催・企画)で開催されているTAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」展は、転職サイトの「ビズリーチ」や、人材活用プラットフォーム「HRMOS(ハーモス)」などを運営するビジョナル株式会社のCTOで起業家、そしてアートコレクターでもある竹内真のプライベートコレクションから33点の現代アート作品と、同じく竹内が蒐集しているル・コルビュジエやピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンなどがデザインした家具33点を合わせて包括的に紹介するものだ。

会場でまず来場者たちを出迎えるのは、竹内がアートコレクションをはじめるきっかけとなった記念すべきピカソ作品。竹内は、自宅の購入を機に「アートでも飾ろうかな」と思い立ち、ピカソが晩年に制作した版画作品を2017年末に「なにもわからないまま」オークションで落札した。しかし、未額装の状態で届いた作品をどうしていいかわからず、「新宿にある画材店の世界堂に持ち込んで、額装してもらった」のだと笑って振り返る。

ピエール・ジャンヌレがデザインしたフローティングバックチェアのインスタレーション

会場にはほかにも、 そんな初々しいエピソードを経てアートにのめり込んでいった竹内が初めてプライマリーギャラリーで購入したという大久保紗也の《nothing(man)》(2018年)や、「まさか手に入れられるとは思っていなかった」と語るオークションで落札したゲルハルト・リヒターの《14.2.88》(1988年)、スターリング・ルビーTURBINE.RED RIDING HOOD.》(2023年)やヴィルヘルム・サスナル《Untitled》(2022年)といった現在コレクションの中核をなす存在となった大型の抽象画など、有名無名にかかわらず竹内のその時々の心を動かした国内外のアーティストたちの作品が、前述の家具とともにリラックスした雰囲気の中、展示されている。それらを概観するだけでは、もしかすると一貫した文脈やストーリー、あるいは強いメッセージを見出すことは難しいかもしれない。しかし、だからこそ面白い。なぜならこれらの作品を通じて、竹内が約5年というコレクション歴の中で、アートとどんなふうに対峙し、理解を深めながら、コレクターとして、ビジネスパーソンとして、あるいは一人の人間として変化したり前進したり、あるいは苦しんだりそれを乗り越えたりしてきたのかに想像を巡らせることができるからだ。

この記事では、「心のレンズ」展をそんな観点から鑑賞するための手がかりとなることを目指し、竹内に展示作品の中でもとくに自身にとって大きな意味を持つ5つの作品を案内してもらった。聞き手となるのは、イギリスの名門美術学校で学んだ経験を持ち、ジェンダーやセクシュアリティ、環境問題といった重要な社会課題に対し、政治や文化、あるいは若い生活者としての視点から発信を続けるモデルで「Z世代のオピニオンリーダー」、長谷川ミラ。アートを見るのは大好きだけれど、「コロナ禍でギャラリーや美術館から少し足が遠のいてしまった」と語る長谷川が、ざっくばらんな質問を通して、アートコレクター、竹内真の思考とアートの魅力に迫る。

作家の新しい挑戦や実験に立ち合える喜び

写真左から、加藤泉「Untitled」2019, 加藤泉「Untitled」2019, 加藤泉「PYRO」2020, © 2019 Izumi Kato, Courtesy of the Artist and Perrotin/ Photo: Keizo KIOKU

竹内真(以後、竹内):これらは、1969年生まれの加藤泉さんという作家の作品です。加藤さんは、ぼくが実際にお会いした初めてのアーティスト。あるギャラリストから遊びにおいでよと誘っていただき、東京のペロタンを初めて訪れたんです。そこで加藤さんの作品を色々と見せてもらっていたら、なんと、ちょうど香港から帰国したばかりだという加藤さんが遊びにきて。当時から加藤さんは人気作家だったのですぐに作品をギャラリーから買うことはできなかったのですが、そこから、一緒に飲みに行くなど個人的な交流が始まりました。加藤さんに会うたびに「作品を買いたいのに買えない」と愚痴っていたら(笑)、ある日ご本人から、「この中だったらいいよ」と言っていただき、直接、譲っていただけることになったんです。

長谷川ミラ(以後、長谷川):作家から作品を購入できる機会は、あまり多くなさそうですね。

竹内:そうですね。しかも、アーティストとコレクターという関係よりも、友人として作品を譲っていただけたのは本当に嬉しかったです。ぼくにとって、すごく大切な作品です。

長谷川:ほかの2点は?

竹内:小さい立体作品は、原美術館での加藤さんの個展「加藤泉−LIKE A ROLLING SNOWBALL」で発表されていた作品。複数点あった中から、好きなのを先に選んでいいよ、とおっしゃっていただいたのですが、これが一番可愛いと思って。素材は石なのですが、小さな石でもとても長い時間を生きてきたものだから、すごく存在感があるんです。

プラモデルが合体したような立体作品は、ちょうど加藤さんがプラモデルを用いた作品を実験的につくり始めたばかりの頃の作品です。発表前のものでしたが、加藤さんの新しい挑戦、面白い実験に立ち合わせてもらった気がして嬉しかったですね。多くのアーティストは、評価が高まるとアシスタントをつけることが多いと思うんですが、加藤さんは、いまだに一人で作品を制作している。そういうところも尊敬します。

情緒的な美的感覚と工学の融合に共感

竹内:これは神楽岡久美さんの《Extended Finger No,02》(2022年)という作品です。彼女は1986年生まれの若い作家なのですが、身体を物理的に美しく変容させる装置を通じて「美しさ」について問いを投げかけているアーティストです。自分の身体をベースに作品制作をすることもあるそうです。

長谷川:作品を拝見するに、小柄な方なんですね。なぜこの作品に惹かれたんですか?

竹内:ぼくはずっとエンジニアとして働いてきたので、物理的な実体を持つモノができあがるまでのプロセスそのものに「美しさ」を感じる傾向があります。その上で、現代アートはコンテクストが重要なので、作品をじっくり見て理解していくプロセスがとても大切だし、それが興味深い。ぼくがコレクションしているアート作品はどちらかというと情緒的なものが多いんですが、神楽岡さんの作品は、そうした情緒的な美的感覚と工学が融合しているところがすごく面白いと思ったし、自分の感覚ともリンクしていると感じました。

長谷川:「美醜」というテーマを巡っては、今、社会の様々な場所で議論がなされていますよね。ボディポジティブもそうですし、ビューティーの世界では美容整形がその代表例。でも、そうした美容整形の世界では、通常、竹内さんのおっしゃる「プロセスの面白さ」を見ることはありません。その意味で、この作品には美容整形にも似た「美への欲求」とそれを実現する「プロセス」が共存している感じがして、すごく新鮮。私たち現代人の身体には、それこそ美容整形のように外からはわからないけれど、ある意味工学的な加工がなされていたりして、そういうことへの問いでもあるのかなと感じました。

竹内:確かに! そういう発想はなかったけど、面白い視点ですね。

神楽岡久美「Extended Finger No,02」2022 © 2023 KUMI KAGURAOKA. All rights reserved/ Photo: Keizo KIOKU

清水の舞台から飛び降りる思いで購入した作品

長谷川:抽象絵画を集めたセクションでは、比較的、最近の作品が多く紹介されていますね。

 竹内:はい。コレクションをはじめて数年後に抽象画の面白さを知り、以来、現代アートの中でも抽象画に惹かれています。ここに展示されているのは、2021年から2022年の作品がほとんど。ジャデ・ファドジュティミの作品に初めて出会ったのは、その少し前、ちょうど新型コロナウイルスのパンデミックが始まる直前に行われたグループ展でした。この作家のことは全く知らず、なんの前情報もないまま見たんですが、直感的にかっこいいなと思いました。よく見ると、筆遣いがとても力強くてシャープなんです。

 長谷川:確かに、手前にあるラインはどちらかというと穏やかな雰囲気ですが、その奥にあるストロークはすごくエネルギッシュです。

ジャデ・ファドジュティミ「Undeparted thoughts」2022 ©Jadé Fadojutimi. Courtesy of Taka Ishii Gallery

竹内:そのグループ展で見た彼女の作品はすでに売約済だったので購入できませんでした。その後すぐにコロナ禍が始まったのですが、その最中に開催された2022年のヴェネチア・ビエンナーレへの出品を皮切りに、彼女はスターダムを駆け上がっていくんです。ヴェネチア・ビエンナーレはアート業界の男女格差に早くから対応していて、女性のアーティストを積極的にフィーチャーしているのですが、彼女も昨年開催された第59回に出品しました。同時に、コロナ禍で多くのコレクターが若手アーティストの支援に注力しはじめたこともあり、1993年生まれの彼女も、そんな流れの中でどんどん評価が高まっていきました。さらにオークションで彼女の作品に1億円近い価格がつくと、プライマリーとセカンダリー両方の市場で、瞬く間に価格も跳ね上がっていったんです。

長谷川:なるほど、まさに時代の影響を真正面から受けたアーティストと言えそうですね。

竹内:はい。そうした状況の中で、彼女の作品はもう買えないだろうなと思っていたら、ギャラリーの方から連絡をいただいて。家に飾れる大きさの作品を想像しながら早速見にいくと、こんな巨大な作品でした(笑)。いかんせんサイズが大きいですし、プライマリーであるとはいえ価格的にも非常に悩ましかったのですが、3週間くらい考えた末、清水の舞台から飛び降りる思いで購入することを決意しました。

長谷川:何が購入を決意する最後の一押しとなったのですか?

竹内:どうでしょう……。この価格帯の作品はそれまで買ったことがなかったので、本当に迷いましたが、これを逃したらもう手に入れられないかもしれない、と思ったんです。

長谷川:大きな作品ですが、ご自宅の壁に飾ってらっしゃるんですか?

竹内:実はまだ飾ったことがなくて。高さが2mほどある作品なので、自宅の壁にかけるのはギリギリ大丈夫かもしれませんが、マンションのエレベーターに載せられるかどうかはわかりません(笑)。日本の集合住宅は、たとえ各戸のサイズ的には問題なくても、エレベーターを含む共有部分が狭かったりするので、大きな作品を搬入する障壁になっていると思います。

長谷川:なるほど。あまり考えたことはなかったですが、確かに日本の住環境ではなかなか難しそうですね。

竹内:それは実際に日本の課題でもあるかもしれません。ぼく自身、自宅を手に入れたからアート作品を、と思ってコレクションをはじめたわけですが、飾れない作品も多くて。

長谷川:アーティストにとっても同じ問題がありそうですね。日本のアーティストが大型作品を作るとなると、それが入るサイズのスタジオを構える必要があるけれど、そんな空間は都心になかなかないし、とくに若いアーティストにとっては経済的にも難しいですよね。

「ありそうでない」不思議な感覚

セクンディノ・ヘルナンデス「Untitled」2022 Courtesy: Studio Secundino Hernández/ Photo: Keizo KIOKU

長谷川:こちらも大型の抽象画ですね。コレクションしたいと思われた理由は? 

竹内:これは1975年生まれのスペイン出身の作家、セクンディノ・ヘルナンデスの作品です。2022年のアート・バーゼル(スイス・バーゼル)で購入したのですが、アートをコレクションし始めて数年経つ頃には、アートフェアやギャラリーに足を運ぶ機会も増え、作品を見る目も養われていきました。それにともない、購入にもより慎重になっていたのですが、彼の作品はなんだか気になってしまって。作家名もギャラリー名も知らなかったので一度はスルーしたのですが、やはり欲しいと思い、購入を決めました。

ヘルナンデスは、徐々に評価が高まっている作家です。初めて見たとき、「ありそうでない」不思議な感覚を覚えました。ギャラリーの人に聞いてみると、彼はもともと、絵の具を高く盛った肉厚な作品を制作していたんですが、あるときから、それをあえて削ったり洗い落とすというアプローチを取り始めたそうなんです。この作品もそうで、絵の具を盛ったあとに、表面をすべて削り落としているんです。

長谷川:確かによく見ると、削り落とした跡や傷が入っているのがわかります。ちなみに竹内さんは、評価の確定していない作家の作品を購入するにあたり、迷ったり不安になったりしないのですか?

竹内:僕自身、いまも時折感じるんですが、アートを買うことは決して簡単じゃないですよね。とくに、コレクションを始めたばかりの頃は、「あなたはどんな作品が好きなの?」って聞かれると、どこか自分が好きなものを他者にジャッジされているような感覚になることがあって。当時は自分の好きな傾向がまだわかっていませんでしたし、基準も定まっていなかったので、自分の感性に触れたものを買っていました。そうしてコレクションが増えていくにつれて見る目も養われ、所有している作品=自分の好みと、そうではないものを、より相対的かつ客観的に理解することができるようになりました。

長谷川:アートをコレクションするというのは、自分の感覚を信じたり、理解していく行為といえそうですね。今回の展示は、そうした自分の感覚とか内側をさらけ出す機会でもあると思うんですが、そこに抵抗はなかったんですか?

竹内真:ぼくは音楽を元々やっていてステージに立つことも多かったので、そういった感覚を覚えることはあまりなくて。自分で書いた歌詞を大声で歌って聞かせるって、かなり恥ずかしいことじゃないですか(笑)。作品を買いたいけど何を買っていいかわからない、という方は多いけれど、おそらくその背景には、「正解がわからない」という思いがあるような気がします。自分がいいと思った作品を買うわけなので、そもそも正解なんてないのですが、それが障壁になっていると感じることは少なくありません。

長谷川:自分が好きなものを表明することにまったく抵抗がないという感覚は、わたしたちZ世代と似ている気がします。例えばZ世代の人たちは、自分のInstagramのプロフィールに性格診断の結果を載せたり、パーソナルカラー診断を載せたり、もっと言えば自分が支持するムーブメントを記載したりする人も多い。私はK-POPオタクなんですけど、ライブ配信中にグッズのコレクションが映り込んでも恥ずかしいとはまったく思わない。自分で一所懸命お小遣いを貯めて買った大切なものだったり、コンサートを観に行くために学校をサボった思い出だったり、人それぞれのストーリーがある。竹内さんのお話をうかがっていると、どれもすごくパーソナルな記憶とつながっているので、すごく共感します。

青だけで戦っていることに感銘を受けた

写真左から、イヴ・クライン「Untitled Blue Monochrome (IKB 317)」1958, ゲルハルト・リヒター「14.2.88」1988 © Gerhard Richter

長谷川:このコーナーは、テーブルがあって小さな絵が飾られていて、竹内さんの書斎の再現なのかなと思いました。

竹内:イヴ・クラインやゲルハルト・リヒターは確かに書斎に飾っています。実はクラインの存在をきちんと知ったのは比較的最近なんです。青という一色だけで戦っているなんてすごい! と感銘を受けました。もちろんアートフェアなどでは何度も遭遇していましたが、価格もものすごく高い。何より、自分がコレクションするものではないなと横目に見るだけでした。

長谷川:自分がコレクションするものではない、というのは?

竹内:ぼくの中で、自分とは異なる時代を生きた巨匠の作品を買うのは、自分の役割ではないと思っている部分があるんです。今を生きている感覚とは少し違うような気がするし、上の世代の人たちによって評価が確定した、すなわちブランド化されたものを買うような感覚がある。それよりも、自分と同世代、あるいは若い世代の人たちを応援したいんです。

長谷川:なのになぜ、これらの作品を購入されたんですか?

竹内:リヒターは、昨年開催された国立近代美術館での回顧展を見てすごく気になってしまって。その後、オークションでたまたま購入できる機会に恵まれました。自分のコレクションに、ほかの作品とは少し異質なものが加わったわけです。そのすぐ後に、金沢21世紀美術館でイヴ・クラインの「時を超えるイヴ・クラインの想像力不確かさと非物質的なるもの」展を見て、ぼくにとって「異質な」リヒター作品の横に、クラインの青の作品があったらバランスもいいし、素敵だなと思いました。そこで懸命に探した結果、あるオークションハウス経由で譲ってくださる方が現れて、ついに購入することができました。自分にとっては、かなり高かったですけどね。

孤独を解消できる場を提供したい

長谷川:自分と同世代、あるいは若い世代を応援したいという思いの背景には、どういう思いがあるのでしょうか?

竹内:ぼくが音楽を辞めようと決めたのは27歳のときでした。職業としての音楽家への道は諦め、エンジニアになり、今はビジネスにすべてを注いでいますが、当時、音楽活動を辞めた先の生活にどんな人生が待っているのか想像もできなかった。そのまま突き進んできた感じがあるんです。その意味で、自分が選ばなかった人生をアーティスト越しに見させてもらっている、そんな感じかもしれません。

長谷川:アーティストの人生を通じて、自分の別の「あったかもしれない人生」を見る。面白いですね。

竹内:音楽を辞めた理由の一つに、音楽からは経済的なサポートを得られなかったことがあるので、今はコレクターとしてアーティストたちに自分が得られなかった機会を提供したいという思いもあるのかもしれません。だから余計に、自分が音楽を辞めた20代や自分と同じ世代で戦っているアーティストがいると、どうしても自分の人生と重ねてしまうんです。もちろん、すべてのアーティストの作品は購入できませんが、少なくとも、この作家の人生を見てみたい、と思えたら応援してみようという気持ちになります。もちろん、評価が確定されている作家の作品も素晴らしいですが。

長谷川:自分の人生とアーティストの人生を重ねるというのは、すごくロマンチックです!

竹内:アートを見たりコレクションしたりするのは、作品を通して作家という人間と関わっていることだと思うんです。ぼくの目には小さい悩みに思えても、作家にとっては死活問題だったりする。ぼくにとって、そういった感情を共有できる機会はアート以外にあまりない。アーティストという他者が何を考えてこの作品をつくったのか、作風が突然変化したのはなぜなのか……。そんなふうに、作品を通じてその人を知っていくというのは、忘れていた気持ちを思い出させてくれる新鮮な体験です。

長谷川:すごく人間的な行為なんですね。若い作家をサポートしたいという動機も、若者として心強く感じます。アートや音楽、ファッション、エンターテインメントなど、文化に継続的に投資したり注目したりすることは、国にとっても重要だと思うんです。でも、日本でもZ世代がもてはやされることがありますが、それは必ずしも若い人たちがつくり出す文化を支援するという意味ではない。言葉が一人歩きしている感覚があります。 

竹内:パトロナージュという意味では、日本には韓国のような財閥もありませんし、アーティストを支援する土壌ができあがっていないと感じることはあります。そこには税制の問題などもありますが、文化的な活動をするには、整った環境があるとは言えません。

長谷川:今回、竹内さんの人生を少しのぞかせて頂いたような感覚になりました。竹内さんはコレクターとして、将来的にどこを目指していらっしゃるんですか?

竹内:今の社会の中で孤独を感じている人は少なくないと思います。今回のように自分のコレクションを他者と共有することで、そうした孤独を解消できる場を提供できればいいなと考えています。作品を見ることで、自分以外にも同じ考えを持っている人がいるんだと知ることができれば、不安は少しでも軽くなる。自分の経験からも、そう思うんです。そういった機会を提供できるのであれば、規模は小さくともコレクションや展示を続けていきたいです。

長谷川:文化を育んでいくぞ、という使命感のようなものはありますか?

竹内:文化を本気で育むためには、政治の仕組みを変える必要がある。でも、今のように古い価値観を守ろうとする人たちが国のトップにいる限り、それはなかなか難しい。だからこそ、新しい価値観を社会に提示するような人たちを、ぼくは応援していきたいんだと思います。

TAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」展
会期:9月30日(土)~ 2024年2月25日(日)
会場:WHAT MUSEUM(東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫G号)
時間:11:00 ~ 18:00 (入場は1時間前まで)

Photos: Kaori Nishida Styling (Mila Hasegawa): Yumi Higashide Outfit for Mila: Stylist's own Hair&Make-up (Mila Hasegawa): Miri Sawaki  Text: Naoya Raita & Maya Nago Edit: Maya Nago

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