ジャスト・ストップ・オイルのメンバーに実刑判決。ゴッホの額を破損させた罪で
環境活動団体ジャスト・ストップ・オイルの活動家2名が2022年6月末、抗議行動の際にロンドンのコートールド美術研究所に所蔵されているフィンセント・ファン・ゴッホ《花盛りの桃の木》の額縁を破損させたとして、英国の裁判所に刑事告発された。
この事件は今年、環境活動家が美術館で抗議行動を始めた最初期の頃に起こった。活動家のエミリー・ブロックルバンク(24歳)とルイス・マッケニー(22歳)は、ゴッホ《花盛りの桃の木》の額縁に自らの手を糊付けしたが、駆けつけた警察が溶剤を使って2人を額縁から引きはがした。
美術館の発表では、この抗議行動による絵画そのものの損傷は免れたが、18世紀につくられた額縁には処置が必要で、裁判では「額縁には致命的な損傷がある」とされ、損害額は約2,300ドルになるという。
『ガーディアン』紙によると、ブロックバンクは21日間の判決を受けたが、6カ月の執行猶予が付いた。さらに電気機器での監視のもと、6週間の外出禁止令を受ける可能性も。マッケニーは3週間の禁固刑に処された。
抗議を行った当時、マッケニーは声明でこう述べている。「私たちの社会が崩壊に向かうのを、文化施設が傍観するのは不道徳です。ギャラリーは閉鎖すべきだ。芸術機関のディレクターは、政府に対して、全ての新しい石油・ガスプロジェクトを直ちに停止するよう求めるべきです。私たちは抵抗するか、加担するかのどちらかです」
前出の『ガーディアン』紙によると、ブロックバンクは裁判の中で、「抗議をする場合、ただ主張するだけでは注目を得られない。手を糊付けすることで、メディアが取り上げたくなるストーリーをつくろうと思った」 と話した。
実際、環境活動団体であるジャスト・ストップ・オイルとエクステンション・リベリオンのメンバーたちは、これまでも、ペンキを建物に吹き付けたり、石油会社や官庁の前で看板を掲げたり、ロンドンで道路に寝転んで交通を止めたりするなど、イギリス各地でさまざまな抗議行動を展開してきた。しかし、これらの行動は、美術館での行動に比べるとメディアや世間からほとんど注目されていない。
いずれにしても、活動家の抗議行動には、逮捕されたり刑に処されるリスクがつきまとう。例えば、エクステンション・リベリオンがエクソンモービルの広報業務を行うHKロンドンの事務所の建物にペンキを吹き付けたときは、デモを行ったメンバー15名が逮捕された。また、鉄道建設によってブルーベルの森が破壊されることに対し、木を占拠して抗議した際には、268日間の禁固刑を言い渡されている。
2022年10月に国連が発表した「1.5度以下の温暖化に歯止めはかからない」という厳しい報告書によって、環境活動家たちの行動は過激化している。彼らは、目標達成のためには、直ちに40%の排出量削減が必要と考えており、市民が非暴力的な手段で大規模な行動を起こすことで、急進的な変化を促そうとしている。
『ニューヨーク・タイムズ』紙は、こうした抗議運動の増加に伴い、抗議運動に対する厳罰化に拍車がかかる可能性を指摘。事実、イギリスの高速道路で妨害行為をした場合、無制限の罰金と6カ月以下の懲役が科されることがある。(翻訳:編集部)
from ARTnews