アートな旅へ! 感性を刺激する注目のアートホテル6選
今、室内や館内で美術作品に触れられる「アートホテル」が全国各地で急増している。東京や京都といった大都市圏から群馬、香川まで──今訪れるべきアートホテルを、周辺の美術館やギャラリーとともにご紹介しよう。

ひとくちに「アートホテル」といっても、館内に著名美術家の作品を展示するところもあれば、館内や室内の空間を現代美術アーティストとともにつくっているホテルなど、その種類はさまざま。いずれにしても、どこに宿泊するか考えるうえでは、ホテル“以外”にも注目すべきだろう。ホテル周辺エリアのカルチャーも合わせて享受してこそ、宿泊体験の価値は上がる。というわけで、ARTnews JAPANが厳選したアートホテルと周囲の美術施設を紹介しよう。
1. BnA_WALL(東京・日本橋)

2021年に東京・日本橋にオープンした「BnA_WALL」は、館内に作品を展示するのではなく空間そのものをアーティストとともにつくりあげたホテルだ(東京・秋葉原と京都にも支店がある)。たとえば既存の家具や廃材をコラージュするアーティストユニットmagmaがつくった「HARDCORE GAME ROOM」では壁一面にオセロのゲームボードが配されベッド上にバスケットボールのフープが取り付けられるなど、23組のアーティストやアートディレクターが手掛けた全26室の客室には個性豊かな空間が広がっている。宿泊費の一部がその部屋をつくったアーティストへ還元されるのもBnA_WALLならではの仕組みといえるだろう。

アーティストの作品や感性に触れられるのは、なにも客室だけではない。カフェバーが設けられた1階ラウンジから地下にかけて描かれた巨大な壁画は定期的にアーティストらによって描きかえられており、さらに地下に広がるファクトリーはアート制作や展示、ワークショップのためのスペースとして活用されているという。



2019年にオープンした東京・馬喰町の「DDD HOTEL」は、デザイナーの二俣公一が30年以上続いたビジネスホテルをフルリノベーションしたもの。「コレクティブ・ホテル」と銘打たれているように、アートギャラリーやキッチンスペース、カフェ&バーなど文化施設が併設されており、多様なジャンルのカルチャーやクリエイティビティに触れられる空間が広がっている。




清澄白河や蔵前をはじめ、近年、東京の東側は食やカルチャーの領域で盛り上がりを見せているが、アートホテルについても同じことが言えるのかもしれない。2020年に東京・墨田本所にオープンした「KAIKA Tokyo by THE SHARE HOTELS」は、現代美術作品の収蔵庫とホテルが融合した異色のアートホテルとして注目されている。収蔵庫をマネタイズする試みとしては、オランダ・ロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館が収蔵庫を「Depot Boijmans Van Beuningen」として一般公開したことが知られているが、ホテルが美術作品の収蔵庫を公開する例は非常に珍しいものと言える。

ホテル内ではCLEAR GALLERY TOKYO、KOSAKU KANECHIKA、Yoshimi Arts、VOILLD、YUMIKO CHIBA ASSOCIATESなど計8つのギャラリーが収蔵する作品が“公開保管”されており、たとえば1階のカフェレストランで朝食やドリンクを楽しみながら作品を鑑賞できる。さらに同ホテルは「KAIKA TOKYO AWARD」と題したアワードを2年に1度開催し、入選作品をホテル内の共有スペースで2年間展示するなど、すでにアートマーケットで評価の定まった作家だけでなく新たな作家が活躍する場をつくろうとしている。

周囲のエリアに目を向ければ、東向島のToken Art Centerでは村田啓や小寺創太のように若手作家の展示が行われており、清澄白河ではChim↑Pom from Smappa!Groupらを扱う無人島プロダクションがスペースを構え、両国のGallery MoMoでは鴻池朋子や川島小鳥などさまざまな作家が展示を行なっている。ほかのエリアと異なりひとつの場所にギャラリーや美術館が集中しているわけではないものの、隅田川以東にも注目すべきギャラリーは数多くあるはずだ。




言わずもがな、京都は長い歴史をもつ博物館や寺院が数多く並ぶ街でもあるが、近年は建築家・青木淳がリニューアルを手掛け館長を務める京都市京セラ美術館のような新しい美術館や、アーティストが企画から出品まで行うアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」、日本と海外のギャラリーがコラボするアートフェア「ART COLLABORATION KYOTO」、歴史的な建造物を活用して行われる写真祭「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」といったアートイベントも盛り上がりを見せている。伝統から革新まで、今後も京都はさまざまな領域の美術やカルチャーの拠点となっていきそうだ。


2020年、約300年の歴史をもつ群馬・前橋の老舗旅館「白井屋旅館」が、アートホテル「白井屋ホテル」として生まれ変わった。ホテルは白井屋旅館が70年代にホテルに建て替えた建物をリノベーションしたヘリテージタワーと旧河川の土手をイメージして新築したグリーンタワーの2棟から構成されており、建築家・藤本壮介が全体のデザインや設計を手掛けている。

建築ひとつとっても大胆な吹き抜けやコンクリートの構造をむき出しにした空間など見どころはたくさんあるが、最も象徴的なのはヘリテージタワーのファサードに配されたローレンス・ウィナーの作品だろう。この作品はホテルのハウスキーパーのユニフォームにもプリントされており、ホテルが前橋駅付近の目抜き通りに面していることもあり、街の雰囲気を変えるほどの存在感を放っている。

もちろん、館内でも多くのアーティストの作品に触れられる。ホテルのフロントには杉本博司がこのホテルのために選んだ「海景」シリーズ《ガリラヤ湖、ゴラン》が飾られ、1階のラウンジから4階まで続く吹き抜けに配されたレアンドロ・エルリッヒの《Lighting Pipes》は幻想的な光を放っているほか、ライアン・ガンダーや白川昌生、武田鉄平らの作品が館内には飾られている。さらにはジャスパー・モリソンとミケーレ・デ・ルッキ、レアンドロ・エルリッヒ、藤本壮介がそれぞれ客室の内装を手掛けた4部屋のスペシャルルームも見逃せない。

本ホテルは、前橋市の地域活性化プロジェクトの一環として生まれたもの。東京や京都と比べればギャラリーや美術館こそ多くないものの、アーティストインレジデンスやワークショップなども積極的に行っているアート施設、アーツ前橋も徒歩圏内にある。今後、白井屋ホテルを中心として前橋のアートシーンはさらに盛り上がりを見せていくのかもしれない。



ろ霞は単に所蔵作品を展示するだけでなく、半年に一度、若手アーティストが宿泊棟の全11室に描き下ろした作品を展示販売する「Featuredアーティスト」という企画にも取り組んでいる。現在は第2弾として山田康平が描き下ろしの新作「COLORFIELD/LINES 」を展示しており、宿泊者優先の作品販売も行われているという。さらにはアーティスト・イン・レジデンスやギャラリーなどの新設も計画されており、日本の若手アーティストを世界へ発信する場として成長していきそうだ。


直島旅館 ろ霞
住所:香川県香川郡直島町1234
TEL:087-899-2356
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