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  • 2022.12.16

アートな旅へ! 感性を刺激する注目のアートホテル6選

今、室内や館内で美術作品に触れられる「アートホテル」が全国各地で急増している。東京京都といった大都市圏から群馬香川まで──今訪れるべきアートホテルを、周辺の美術館やギャラリーとともにご紹介しよう。

node hotel

ひとくちに「アートホテル」といっても、館内に著名美術家の作品を展示するところもあれば、館内や室内の空間を現代美術アーティストとともにつくっているホテルなど、その種類はさまざま。いずれにしても、どこに宿泊するか考えるうえでは、ホテル“以外”にも注目すべきだろう。ホテル周辺エリアのカルチャーも合わせて享受してこそ、宿泊体験の価値は上がる。というわけで、ARTnews JAPANが厳選したアートホテルと周囲の美術施設を紹介しよう。

1. BnA_WALL(東京・日本橋)

YOSHIROTTEN「- Float -ROOM」の様子。Photo: Tomooki Kengaku

2021年に東京日本橋にオープンした「BnA_WALL」は、館内に作品を展示するのではなく空間そのものをアーティストとともにつくりあげたホテルだ(東京・秋葉原京都にも支店がある)。たとえば既存の家具や廃材をコラージュするアーティストユニットmagmaがつくった「HARDCORE GAME ROOM」では壁一面にオセロのゲームボードが配されベッド上にバスケットボールのフープが取り付けられるなど、23組のアーティストやアートディレクターが手掛けた全26室の客室には個性豊かな空間が広がっている。宿泊費の一部がその部屋をつくったアーティストへ還元されるのもBnA_WALLならではの仕組みといえるだろう。

magma「HARDCORE GAME ROOM」の風景。Photo: Tomooki Kengaku

アーティストの作品や感性に触れられるのは、なにも客室だけではない。カフェバーが設けられた1階ラウンジから地下にかけて描かれた巨大な壁画は定期的にアーティストらによって描きかえられており、さらに地下に広がるファクトリーはアート制作や展示、ワークショップのためのスペースとして活用されているという。

1階ラウンジ。Photo: Tomooki Kengaku

BnA_WALLの位置する日本橋は、さまざまな美術館へのアクセスがいい場所でもある。銀座線で京橋・銀座方面へ出ればアーティゾン美術館やポーラミュージアムアネックスがあり、東西線に乗れば竹橋の東京国立近代美術館へ行くことも木場の東京都現代美術館に行くことも可能だ。BnA_WALLは東京のアートトリップを考える上でも優れた拠点のひとつと言えるだろう。

Photo: Tomooki Kengaku

BnA_WALL
住所:東京都中央区日本橋大伝馬町1-1
Tel:03-5962-3958


2. DDD HOTEL(東京・馬喰町)

開放的でクリーン、かつ親しみのある雰囲気のDDD HOTELのロビー。

2019年にオープンした東京・馬喰町の「DDD HOTEL」は、デザイナーの二俣公一が30年以上続いたビジネスホテルをフルリノベーションしたもの。「コレクティブ・ホテル」と銘打たれているように、アートギャラリーやキッチンスペース、カフェ&バーなど文化施設が併設されており、多様なジャンルのカルチャーやクリエイティビティに触れられる空間が広がっている。

モダンなインテリアでまとめられた客室。

かつてホテルに併設されていた立体駐車場を活用することでつくられたギャラリーが「PARCEL」だ。プログラムディレクターをSIDECOREの高須咲恵、ギャラリーディレクターを佐藤拓が務め、森靖DIEGO小畑多丘など、幅広い分野で活躍するアーティストらの展示が行われている。

PARCELで行われたDIEGOの展覧会の展示風景。© DIEGO, courtesy of PARCEL / photo: Yutaro Tagawa

DDD HOTELの建つ馬喰町は、以前から多くのギャラリーが軒を連ねるエリアでもある。特に注目すべきは2022年にオープンしたアート複合施設「まるかビル」だ。このビルには「PARCEL」2つめの拠点となる「parcel」とデジタルアートやNFTアートに特化した「NEORT++」、都市文化におけるオルタナティブをアーティストとともに再考する「CON_」という毛色の異なる3つのギャラリーが入居しており、異なるコミュニティが交わる場所としても機能している。現代美術のシーンで今何が起きているのか知りたいなら、DDD HOTELに宿泊しながら周囲のギャラリーを巡るのもいいかもしれない。

DDD Hotel外観。

DDD HOTEL
住所:東京都中央区日本橋馬喰町2-2-1
Tel:03-3668-0840


3. KAIKA Tokyo by THE SHARE HOTELS(東京・墨田本所)

Photo: Takumi Ota

清澄白河や蔵前をはじめ、近年、東京の東側は食やカルチャーの領域で盛り上がりを見せているが、アートホテルについても同じことが言えるのかもしれない。2020年に東京・墨田本所にオープンした「KAIKA Tokyo by THE SHARE HOTELS」は、現代美術作品の収蔵庫とホテルが融合した異色のアートホテルとして注目されている。収蔵庫をマネタイズする試みとしては、オランダ・ロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館が収蔵庫を「Depot Boijmans Van Beuningen」として一般公開したことが知られているが、ホテルが美術作品の収蔵庫を公開する例は非常に珍しいものと言える。

ミニマルだが優しい雰囲気の客室。Photo: Takumi Ota

ホテル内ではCLEAR GALLERY TOKYO、KOSAKU KANECHIKA、Yoshimi Arts、VOILLD、YUMIKO CHIBA ASSOCIATESなど計8つのギャラリーが収蔵する作品が“公開保管”されており、たとえば1階のカフェレストランで朝食やドリンクを楽しみながら作品を鑑賞できる。さらに同ホテルは「KAIKA TOKYO AWARD」と題したアワードを2年に1度開催し、入選作品をホテル内の共有スペースで2年間展示するなど、すでにアートマーケットで評価の定まった作家だけでなく新たな作家が活躍する場をつくろうとしている。

アート作品が飾られたラウンジ。Photo: Takumi Ota

周囲のエリアに目を向ければ、東向島のToken Art Centerでは村田啓小寺創太のように若手作家の展示が行われており、清澄白河ではChim↑Pom from Smappa!Groupらを扱う無人島プロダクションがスペースを構え、両国のGallery MoMoでは鴻池朋子川島小鳥などさまざまな作家が展示を行なっている。ほかのエリアと異なりひとつの場所にギャラリーや美術館が集中しているわけではないものの、隅田川以東にも注目すべきギャラリーは数多くあるはずだ。

ホテル外観。Photo: Takumi Ota

KAIKA Tokyo by THE SHARE HOTELS
住所:東京都墨田区本所2丁目16-5 
Tel:03-3625-2165


4. node hotel(京都・四条烏丸)

アートコレクターの住まいをコンセプトに設計されたロビー空間。

しばしばアートホテルは非日常的な体験を提供してくれるが、2019年、京都・四条烏丸にオープンした「node hotel」は、むしろ豊かな日常体験を提供してくれるホテルだろう。同ホテルの客室は「アートコレクターの住まい」なるコンセプトのもとつくられており、グレーを基調とする落ち着いた空間の中にさまざまなアーティストの作品が飾られている。

光の陰影が美しい客室には、国内外の著名アーティストの作品が贅沢に飾られている。

共用部や客室内に飾られている作品は、世界中のギャラリーやアートフェアでコレクションされてきたものだ。たとえば1階の共有部には、バリー・マッギー五木田智央大竹伸朗荒木経惟など国内外を問わず高く評価されているアーティストらの作品が定期的に入れ替わるかたちで展示されており、客室内の作品もゲルハルト・リヒター細江英公今津景カワイハルナなど大御所から若手アーティストに至るまで非常に幅広い。同ホテルに泊まることで、アーティストらの優れた作品とともに暮らすとはいかなることなのか体感できるはずだ。

天井からぶら下がる草木を用いたオブジェも迫力満点。

言わずもがな、京都は長い歴史をもつ博物館や寺院が数多く並ぶ街でもあるが、近年は建築家・青木淳がリニューアルを手掛け館長を務める京都市京セラ美術館のような新しい美術館や、アーティストが企画から出品まで行うアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」、日本と海外のギャラリーがコラボするアートフェア「ART COLLABORATION KYOTO」、歴史的な建造物を活用して行われる写真祭「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」といったアートイベントも盛り上がりを見せている。伝統から革新まで、今後も京都はさまざまな領域の美術やカルチャーの拠点となっていきそうだ。

ガラスが印象的なホテル外観。

node hotel
住所:京都市中京区四条西洞院上ル 蟷螂山町 461
Tel:075-221-8800


5. 白井屋ホテル(群馬・前橋)

デラックスルームを彩る鬼頭健吾の作品。Photo: ©️Katsumasa Tanaka

2020年、約300年の歴史をもつ群馬・前橋の老舗旅館「白井屋旅館」が、アートホテル「白井屋ホテル」として生まれ変わった。ホテルは白井屋旅館が70年代にホテルに建て替えた建物をリノベーションしたヘリテージタワーと旧河川の土手をイメージして新築したグリーンタワーの2棟から構成されており、建築家・藤本壮介が全体のデザインや設計を手掛けている。

宮島達男の作品はグリーンタワーの上にあるため、鑑賞は宿泊客かフィンランドサウナの利用客に限定。Photo: ©Shinya Kigure

建築ひとつとっても大胆な吹き抜けやコンクリートの構造をむき出しにした空間など見どころはたくさんあるが、最も象徴的なのはヘリテージタワーのファサードに配されたローレンス・ウィナーの作品だろう。この作品はホテルのハウスキーパーのユニフォームにもプリントされており、ホテルが前橋駅付近の目抜き通りに面していることもあり、街の雰囲気を変えるほどの存在感を放っている。

ローレンス・ウィナーの作品が目を引くホテル外観。Photo: ©Shinya Kigure, Art by Lawrence Weiner

もちろん、館内でも多くのアーティストの作品に触れられる。ホテルのフロントには杉本博司がこのホテルのために選んだ「海景」シリーズ《ガリラヤ湖、ゴラン》が飾られ、1階のラウンジから4階まで続く吹き抜けに配されたレアンドロ・エルリッヒの《Lighting Pipes》は幻想的な光を放っているほか、ライアン・ガンダー白川昌生武田鉄平らの作品が館内には飾られている。さらにはジャスパー・モリソンミケーレ・デ・ルッキ、レアンドロ・エルリッヒ、藤本壮介がそれぞれ客室の内装を手掛けた4部屋のスペシャルルームも見逃せない。

時間帯によって異なる色に変わるレアンドロ・エルリッヒの《Lighting Pipes》が吹き抜けを彩る。Photo: ©Katsumasa Tanaka

本ホテルは、前橋市の地域活性化プロジェクトの一環として生まれたもの。東京や京都と比べればギャラリーや美術館こそ多くないものの、アーティストインレジデンスやワークショップなども積極的に行っているアート施設、アーツ前橋も徒歩圏内にある。今後、白井屋ホテルを中心として前橋のアートシーンはさらに盛り上がりを見せていくのかもしれない。

レセプションに飾られた杉本博司の作品が宿泊客を出迎える。Photo: ©Katsumasa Tanaka

白井屋ホテル
住所:群馬県前橋市本町2-2-15
Tel:027-231-4618


6. 直島旅館 ろ霞(香川・直島)

ミニマルにまとめられた客室。

2022年に香川直島にオープンした「直島旅館 ろ霞」は、全室スイートの露天風呂付き客室を備えたラグジュアリーなアートホテルだ。島内初の本格旅館となるこのアートホテルは直島の中心地から徒歩5分という好立地に位置しており、国内アーティストの発信拠点となることが企図されている。同施設のアートプロデュースは京都芸術大学教授・後藤繁雄が手掛けており、名和晃平のほか、品川亮、山本捷平横田大輔茂田真史など20〜30代の若手アーティストらが多く取り上げられているのが印象的だ。

客室に併設された露天風呂。

ろ霞は単に所蔵作品を展示するだけでなく、半年に一度、若手アーティストが宿泊棟の全11室に描き下ろした作品を展示販売する「Featuredアーティスト」という企画にも取り組んでいる。現在は第2弾として山田康平が描き下ろしの新作「COLORFIELD/LINES 」を展示しており、宿泊者優先の作品販売も行われているという。さらにはアーティスト・イン・レジデンスやギャラリーなどの新設も計画されており、日本の若手アーティストを世界へ発信する場として成長していきそうだ。

直島が現代美術の島であることはよく知られている。ジェームズ・タレルウォルター・デ・マリアの作品展示によって広く知られる「地中美術館」や、李禹煥と建築家・安藤忠雄のコラボレーションによる「李禹煥美術館」、杉本博司宮島達男らが参加する「家プロジェクト」など、島内の美術館やアートプロジェクトは枚挙にいとまがない。ろ霞のようなアートホテルの誕生を経て、現代美術の島として30年を迎えた直島が、国際的な現代美術の発信拠点としてどう進化していくのか期待したい。

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