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LVMHによる買収の噂をガゴシアンが否定。背景に、縮まるファッションとアートの距離

メガギャラリーのガゴシアンが、ルイ・ヴィトンやディオール、ティファニーなどのラグジュアリーブランドを擁するフランスのコングロマリット、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)と買収に関する交渉中であるという噂を否定した。

LVMHの会長兼CEO、ベルナール・アルノー(左)と話すラリー・ガゴシアン(中央)。 Photo Pascal Le Segretain/Getty Images

この噂は、アートニュースペーパーのイタリア版とアートニュースが報じており、1980年にラリー・ガゴシアンがロサンゼルスに設立し、現在世界中に約16のスペースを持つガゴシアンへ、LVMHが投資を検討しているという内容だ。 また、複数の情報筋がアートニュースとWWDに、実際に取引の可能性があると語っている。 

しかし、10月25日、ガゴシアンの広報担当者はメールで、「噂はまったく事実ではなく、同社は売却の対象にはなっていない」と反論した。 

LVMHは、ガゴシアンを所有または投資することで、急速に拡大するアート市場への足がかりを得ることができる。 アートニュースとWWDはLVMHの担当者にコメントを求めたが、拒否された。 

この噂は、先週始まったアートバーゼルの新しいフェア「Paris+」の開催と共に広がった。開催地のパリにはLVMHの本社があり、ガゴシアンは2つの拠点を構えている。

現在77歳のラリー・ガゴシアンは、2019年のギャラリーの最高執行責任者にアンドリュー・ファブリカントを任命するなど、ここ数年、後継者計画を明らかにし始めている。その後、詳細は明かされず、ギャラリーの今後の方向性について様々な憶測を呼んでいた。 

2021年に発表された、ティファニーの広告キャンペーン「About Love」メインビジュアル(Mason Poole/Tiffany & Co.)

これまでファブリカントは、アートとファッションの統合を提唱してきた。「ベルナール・アルノーがティファニーを買収してバスキアの絵を買い、パテック・フィリップの限定時計を制作し、それがジェイ・Zの腕にはめられた。アートと商業、ファッションの相互作用は必然です。世間から注目されるキム・カーダシアンやアルノーによってこれらの問題が集約され、加速されている。それはお互いにとって有益なことです 」と、今年初めにWWDに語っている 

ガゴシアンは、ゲオルク・バセリッツ、シアスター・ゲイツ、マイケル・ハイザー、ダミアン・ハースト、村上隆、リチャード・セラなど、世界で最も注目されるアーティストたちを抱えている。それに加えて、ジャデ・ファドジュティミやアナ・ワヤントら熱狂的な人気を得ている若手アーティストも所属しており、売上高は年間10億ドルと言われている。 

LVMHは主にファッションの分野で知られているが、アートとのつながりもある。会長兼CEOでのベルナール・アルノーは、世界でも有数のアートコレクターで、ダミアン・ハースト、村上隆、リチャード・プリンスなど、様々なガゴシアンのアーティストの作品を購入していることで知られている。また、アルノーとその家族は、ラリー・ガゴシアンと親交がある。 

ガゴシアンの株式を取得することで、アルノーは商売敵に近づくことができる。グッチやサンローランを傘下に収めるケリングの創業者で、クリスティーズを買収したフランソワ・ピノーは、大アートコレクターでもあるのだ。 

LVMH のこれまでのアート関連との関わりで言うと、1999年にオークションハウス、フィリップス株式を取得し出資していたこともあるが、その4年後、フィリップスの財政が逼迫する中で株式を売却した。 

現在、LVMHは2014年にオープンしたパリの現代アートスペース「フォンダシオン・ルイ・ヴィトン」のスポンサーを務めている。これはアルノーの発案だが、スペースは非営利団体であり、厳密にはLVMHが運営しているわけではない。 

LVMHがガゴシアンに投資する可能性があるという噂は、アートギャラリーとファッション、ライフスタイルの境界がますます曖昧になってきていることを意味している。 

その一例として、ガゴシアンは、アーティストのポスターや書籍、アパレルなどを販売する「ガゴシアン・ショップ」を次々開店している。 ペースは最近、高級ブランド、オソロックと提携したティールームをソウルにオープンし、ハウザー&ワースの創設者であるイワン・ワースとマヌエラはロンドンの会員制クラブを運営している。(翻訳:編集部) 

*US版ARTnewsの元記事はこちら。   

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