夜に絵が動く!? 壁が黒く塗られた宴会場とフレスコ画をポンペイで発見
古代ローマ時代に宴会場として使われていた部屋と、その壁に描かれたフレスコ画がこのほど発見された。宴会場の壁は黒く塗られており、照明として使われていたオイルランプの煙を目立たなくさせる目的があったというが、照明と暗い部屋によって宴を楽しんだ人たちには絵画が動いて見えたのかもしれないと、専門家は推測している。
古代ローマ時代の都市、ポンペイの遺跡で、床に100万枚以上の白いタイルが敷き詰められた宴会場と、その壁に描かれたフレスコ画が見つかったと、ポンペイ考古学公園が4月11日に発表した。
黒く塗られた壁には、神話の登場人物やトロイア戦争で起きた出来事が描かれている。発見された絵のなかには、トロイアの王子パリスがスパルタの王妃ヘレネの前に立ちはだかっているフレスコ画がある。他にも、トロイアの巫女カッサンドラがアポローンの恋人となり、予言能力を授かった場面が描かれている。カッサンドラはのちにアポローンの愛を拒絶し、それに怒ったアポローンはカッサンドラの予言を誰も信じないよう呪いをかけた。
宴会場を訪れた客人たちは、夜になるとランプが灯された「黒い部屋」でもてなされた。
今回発見された宴会場について、ポンペイ考古学公園のディレクターを務めるガブリエル・ズクトリーゲルはこう語る。
「フレスコ画が発見された部屋は、オイルランプの煙が壁にかかってもわからないよう黒く塗られています。日没後に人々は食事をするために集まり、カンパーニャ産のおいしいワインを何杯か飲んでいたことでしょう。このため、ランプの揺らめく光によって、フレスコ画が動いて見えていたのかもしれません」
「宴会場に神話に登場した男女が描かれていたことで、過去や人生に関する会話が盛んに行われていましたが、それは単なるロマンチックなものにすぎませんでした。しかし、こうした絵が実際に表現しようとしていたのは、個人と運命の関係性です」と、ズクトリーゲルは続ける。
「カッサンドラには予言能力があるけれども、誰も信じてくれない。アポローンはトロイアとギリシャの戦争でトロイア側につきますが、神であるが故に勝利を保証することはできない。国が対立していることから、実現するはずのなかったヘレネーとパリスの恋愛関係は、戦争が始まる原因となったのか、それを始める口実だったのかは定かになっていません。とはいえ、ヘレネーとパリスは現代を生きる私たちを体現しているのです。私たちは、自分の私生活に焦点を当てるか、自分の行動が大きな歴史の流れにどう絡んでいるかを探ることができます。例えば、戦争や政治、環境について考えるだけでなく、私たちが社会のなかで生み出している雰囲気や、リアルタイム、あるいはSNS上でやりとりする他者とのコミュニケーションについて話し合うこともできるのです」
この部屋は、2023年から発掘作業が行われてきた第9地域の住宅・商業ブロック内にある大きな家の一室にすぎない。家の中には応接間と庭があり、隣にはパン屋が併設された聖堂と、洗濯場があったという。
過去に隣のパン屋からは、ヴェスヴィオ火山の噴火によって死亡した子どもと大人の骨が発掘された。二人は噴火によって倒壊した店に押しつぶされた奴隷だった可能性もあるようだ。
考古学者たちは、宴会場のある家とパン屋、そして洗濯場は同一人物によって所有されていたと推測する。瓦や石灰モルタルの壺、こてなどが残されていたことから、地域一帯が改修工事中だったと考えられるという。その建物の壁や石臼に、ポンペイの裕福な政治家であったアウルス・ルスティウス・ヴェルスの頭文字「ARV」が記されていたと専門家はBBCに語っており、建物の所有者は彼ではないかと主張している。(翻訳:編集部)
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