KAWSの代表的キャラクターが雑誌の表紙に。テーマは「キャンセル・カルチャー」
KAWS(カウズ)として知られる米国人作家、ブライアン・ドネリーのドローイングがニューヨーク・マガジン誌(2022年6月20日号)の表紙を飾った。そこには、ミッキーマウスに似たKAWSの代表作「Companion(コンパニオン)」が、近年問題になっている「キャンセル・カルチャー」からインスピレーションを得て描かれている。
キャンセル・カルチャーとは、特定の人物の発言や行動をSNSなどで過剰に非難する行為のことで、有名人がターゲットになることが多い。たとえば、3月に開催されたアートフェア東京2022の併設イベント「Future Artists Tokyo 2022」のキービジュアルを手がけたデザイナー、古塔つみにトレースを利用した盗用疑惑が浮上し、SNSで炎上。不買運動やキービジュアルの使用中止(キャンセル)に至った一件は、日本のキャンセル・カルチャーの一例と言えるだろう。
そんなキャンセル・カルチャーのリアルを探るというのが、KAWSを表紙に使ったニューヨーク・マガジン誌の特集だ。同誌はインスタグラムの投稿で、「アメリカの高校生の間では、悪いことをした責任を問う声が、いじめや濡れ衣、仲間外れといった行為にエスカレートしてしまうことがよくある」とコメントしている。
特集記事を執筆したジャーナリストのエリザベス・ワイルは、高校の女子トイレの壁に貼られた「要注意人物」リストに名前が載ったことで「キャンセル」された生徒とクラスメートの関係を取り上げた。記事の中でワイルは、暴力やハラスメントの加害者に責任を求める行動が、学年を重ねるにつれどう変化していったかに迫っている。
一方、表紙に描かれたキャラクターは、手で顔を覆い隠して、スケートボードの上に座りこんでいる。これは、KAWSが2021年に制作した《Separated(セパレーテッド)》と同じポーズだ。
KAWSは、「2児の父として、自分の子どもたちがどんな高校生活を過ごすのかを想像すると、複雑な人間関係を乗り切っていかなければいけないことや、そこにSNSやコロナ禍という現実が重なり合うことが心配なのはよく分かる」とニューヨーク・マガジン誌に語っている。
疲れや死をモチーフにしつつも親しみやすいデザインのカウズの彫刻や絵画作品は、商業的に大きな成功を収めている。それゆえに、彼はアート界で長い間物議を醸してきた。
2019年のArt in America(アート・イン・アメリカ)の記事で、ウィリアム・S・スミス(当時は同誌の編集者、現在は香港の現代美術館M+に所属)はこう評している。
「カウズはアーティストというよりも、むしろ優れたビジネスパーソンだ。綱渡り的ではあるが、ファッション、企業ブランディング、ファインアートを結びつけ、それぞれの領域で自らの作品の価値向上をやってのけた。プロモーションと利益のサイクルが商業的すぎるかどうかは、それぞれの度合いによるだろう」(翻訳:鈴木篤史)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月21日に掲載されました。元記事はこちら。