真贋に揺れるバスキア作品を展示した前館長の、出どころが怪しいコレクション
オブザーバー紙は7月22日、オーランド美術館(米国フロリダ州)のアーロン・デ・グロフト前館長が、出所が疑われる作品を収集していたことを報じた。
デ・グロフトはオーランド美術館に就任する前、2005〜18年まで館長を務めたマスカレル美術館(バージニア州、ウィリアム・アンド・メアリー大学に属す)のコレクションを倍に増やした。だが、オブザーバー紙の調査によると、「それまで注目されなかった16〜19世紀の絵画をオークションで安く買い、当時のヨーロッパを代表する芸術家として仕立て上げる」ことが多かったという。
「Heroes & Monsters: Jean-Michel Basquiat(ヒーローとモンスター:ジャン=ミシェル・バスキア)」展で、バスキア作とされる絵を展示していたオーランド美術館にFBIが踏み込み、贋作の疑いがある25点を押収したことは6月24日に報じられた。展示されたバスキア作品は公開直後からその真偽が問われていたが、これを受けて今年6月にデ・グロフトは館長を辞職。
FBIは、これらの絵画を数年前から調査していたことを明らかにした。ニューヨーク・タイムズ紙が入手したFBIの宣誓供述書によれば、「以前の所有者とされる人物に関する虚偽情報」が発見されたという。供述書ではさらに、オーランド美術館から研究費6万ドルを受けていたメリーランド大学美術学部教授のジョーダナ・ムーア・サーゲス宛に、デ・グロフトが送った脅迫メールについても言及。サーゲス教授はその後、バスキア作品を鑑定したことを否定している。
デ・グロフトはマスカレル美術館に勤務していた際、のちにセザンヌ作品であることを証明しようとした無名の絵画をオークションで落札することを指揮。また、ルネサンス期の画家ティツィアーノが描いたとされる作品の鑑定にも熱を注いだ。絵画の真正性を証明するために科学検査を依頼し、作品に関する重要な事実を得るため記録資料を調査し、主張の根拠にしようとした。だが、絵の具の年代は確認できたものの、それ以外の確証をつかむには至らなかった。
イタリア美術史研究者のチャールズ・ホープは、「この肖像画は、私を含め多くの人には、ティツィアーノにふさわしくない乏しい作品に見える」と、オブザーバー紙に語った。「美術史家が二流の絵の信憑性を高めるために、大げさな科学的手法を用いることへ疑問を呈します。常態化しているのは問題で、私の経験上、説得力のある結果を生むことはめったにない」
オーランド美術館では、今年1月に展示される予定だったジャクソン・ポロック作とされる絵画をテーマに、デ・グロフトが講演を行う予定だった。しかし、展示は中止に。この絵の以前の共同所有者は、押収されたバスキア作品を所有する人物と同じ、ピアース・オドネルだったのだ。ポロック作品の真贋は結論が出ていないとオブザーバー紙が報じる一方、オーランド美術館はまだ声明を出していない。
オブザーバー紙のインタビューで、デ・グロフトは「講演のたびに何百人もの人々から質問を受け、細かい部分まで聞かれましたね」と、自身の講演について言及したのみで、絵画に関しては何も答えなかった。(翻訳:編集部)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月22日に掲載されました。元記事はこちら。