FBIがバスキアの絵画25点をオーランド美術館から押収。作品の真偽はいかに?
6月24日、FBI(米連邦捜査局)の捜査官がオーランド美術館で強制調査を行ったと、ニューヨーク・タイムズ紙とAP通信が報じた。FBIは、開催中のジャン=ミシェル・バスキア展から、贋作の疑いがある絵画25点を押収している。
捜索令状によると、FBIの美術犯罪チームは、2012年にロサンゼルスの倉庫でこれらの作品が発見されて以来、真贋に関する調査を続けていたという。オーランド美術館が「Heroes & Monsters: Jean-Michel Basquiat(ヒーローとモンスター:ジャン=ミシェル・バスキア)」展の開催に先立ち、この2月に作品を一般公開して以降、調べは厳しさを増していた。
同美術館の広報担当、エミリア・ブルマス=フライは、ニューヨーク・タイムズ紙へのメールで、捜査に引き続き協力するとし、次のように述べている。
「美術館がこれまで捜査の対象になってきたことも、また現在捜査の対象になっていることも、私たちにとっては信じがたいことです。私たちがこの事件に関わっているのは、純粋に目撃者としてなのです」
バスキアの展覧会はオーランドで6月30日に閉幕した後、イタリアへの巡回が決まっていた。その後も2023年6月までの開催が予定されていたが、ブルマス=フライによると、絵画の所有者は美術館との契約を延長しなかったという。
オーランド美術館によれば、鮮やかな絵が描かれた25点の作品は、バスキアがカリフォルニア州ベニスのラリー・ガゴシアンの自宅地下にあるスタジオに住みながら制作を行なっていた1982年後半のものだという。
作品の真偽を問う声は、オーランド美術館でバスキア展が始まった直後から上がっていた。2月にニューヨーク・タイムズ紙が報じたところによると、少なくとも1点の絵に使われているボール紙には、1994年(バスキアの死後6年にあたる)まで存在しなかったフェデックス社のロゴが使われていると専門家が指摘している。
ニューヨーク・タイムズ紙が確認した捜索令状の宣誓供述書は、共同謀議と電信詐欺罪の可能性があるとして発行されたもの。当局は、捜査の結果「絵画の以前の所有者とされる人物に関する虚偽の情報」が明らかになっただけでなく、「出所を偽って絵画を販売しようと目論み、銀行の記録によると本物ではない美術品への投資を勧誘した可能性がある」としている。
絵画の所有者によると、バスキアはガゴシアンには知らせずに、テレビ脚本家のサド・マムフォードに作品を5000ドルで直接売却したという。しかし、ガゴシアンはニューヨーク・タイムズ紙へのコメントで、そんな話はあり得ないと述べている。また、オーランド美術館によると、マムフォードは作品を倉庫に25年間放置していたが、倉庫の賃料が払えなくなったことから、2012年に競売にかけたという。
競売された作品は、美術品・古美術品ディーラーのウィリアム・フォースと、フォースへの出資者であるリー・マンギンが約1万5000ドルで購入した。また、25点の絵画のうち6点の権利は、ロサンゼルスのピアース・オドネル弁護士が購入している。
一方、FBIのエリザベス・リバス特別捜査官は宣誓供述書の中で、2014年にマムフォードが「バスキアの作品を購入したことはなく、バスキアの作品が自分の倉庫内にあることも知らなかった」と彼女に話したと述べている。また、マムフォードは18年に死去したが、17年には、バスキアと一度も会ったことがないとする供述書に署名していた。
絵画の所有者と、オーランド美術館のアーロン・デ・グロフト館長兼最高責任者は、複数の専門家の証言に基づいて、作品がバスキアのものであると主張してきた。本物であることが証明されれば、マムフォードのコレクションは合計1億ドルの価値があるとされる。
バスキア財団は2012年に鑑定委員会を解散した。アンディ・ウォーホルなど他のアーティストの財団も、訴訟費用が高額になることを理由に作品の鑑定を停止している。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月27日に掲載されました。元記事はこちら。