英アーティストの平均年収は最低賃金労働者より47%も低い──最新調査が明かす実態
イギリスに拠点を置くアーティストを対象に収入面の調査結果をまとめた報告書がグラスゴー大学から発表された。これによると、アーティストの平均年収は約240万円で、同国の最低賃金で働く労働者のそれを下回る。障がいのあるアーティストに至っては、平均年収がわずか約76万円であることが判明した。
グラスゴー大学がこのほど発表した「UK Visual Artists’ Earnings and Contracts Report 2024(2024年ビジュアルアーティストの収入および契約件数報告書)」と題された報告書によって、イギリスに拠点を置くアーティストの経済的苦境とデモグラフィック上の違いによる賃金格差が浮き彫りとなった。
報告書によると、イギリス在住アーティストの平均年収が2010年に2万5000ドル(現在の為替で約380万円)だったのに対し、最新調査では1万5600ドル(約237万円)と40%も減少している。これは、同国の最低賃金労働者の中央値である2万9800ドル(約454万円)より47%低い。また、女性アーティストは男性よりも40%収入が少なく、障がいをもつアーティストの年収は5000ドル(約76万円)を下回っていることが明らかになった。
イギリスの非営利団体「デザイン&アーティスト著作権協会(DACs)」が主導して作られたこの報告書は、イギリスに住むアーティスト1200名を対象とした調査に基づくもの。DACsは、アーティストの権利を擁護、保護、管理し、ロイヤリティの最大化を支援する団体だ。
回答者のほぼ半数が、芸術活動が唯一の仕事であると答えたが、残りの半数は、アーティストとして得られる報酬が少ないため、他の仕事で収入を補わなければならないと答えた。しかし、複数の仕事を持つアーティストの平均年収は約2万2000ドル(約350万円)であり、イギリスの最低賃金を大幅に下回っている。こうした調査結果に対して、DACsのCEOを務めるクリスチャン・ジマーマンはこう語る。
「ビジュアルアーティストはイギリスの視覚芸術に不可欠な存在ですが、彼らのほとんどはフリーランスであり、視覚芸術はクリエイティブ産業の中で最も収入の低い分野の一つです。調査対象となったアーティストの80%以上が、収入源が不安定、または非常に不安定であると答えてます。今日、アーティストが直面している低賃金と不安定な雇用は、才能ある人材の業界離れを招くだけでなく、アーティストの創造性を制限しているのです。この報告書は、生成AIによる作品のスクレイピングや不安定な収入、制作スタジオの家賃の高騰など、変化する世界の課題に対処するためにも、ビジュアルアーティストへの支援と保護の拡大が急務であることを明らかにしています」
この報告書の結果は、DACSと26の芸術団体が6月にイギリス政府に対して行った「ビジュアル・アーツ宣言」という提言を裏付けるものとなっている。この宣言は、アーティストに対するより公平な報酬とより多くの支援を求めている。
主な短期提案には、集合的ライセンス収入を生み出すためのスマートファンドの設立とフリーランス委員の任命が含まれ、これらの政策は、超党派の国会議員グループである文化・メディア・スポーツ委員会が推奨したものだ。また、すべてのアーティストへの報酬と管理を確保し、障害を持つアーティストの経済的安定と安全を確保するための強固なAI規制も求めている。
グラスゴー大学のエイミー・トーマスとアーサー・エリンガーは報告書で、「ここ数か月の間、AIは芸術的労働の代替に関する懸念の最前線に立たされています」と述べている。
「しかし、私たちの調査では、アーティストの報酬に影響を及ぼす要因はほかにも数多く存在することが明らかになりました。この国では、コロナ禍とブレグジットが相まって、アーティストの稼ぎに不釣り合いな悪影響を及ぼしていることは間違いありません。また、性別や障がいの有無による大きな収入格差など、広範かつ体系的な不平等を示す証拠も見られます。今回の調査結果は、アート関係の職業に関する多様性の少なさと持続可能性の低さを示しているのです」(翻訳:編集部)
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