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オークションでミレニアル・Z世代アーティストの出品数が激減。「若手依存」脱却の流れが加速?

ニューヨークで11月下旬から各オークションハウスが開催する秋のイブニング・セールの出品作品を見てみると、若手アーティストの作品が激減しているのがわかる。若手依存からの「リセット」が起きている背景を取材した。

エド・ルシェ《The Wrap-Up》(1993) Photo: Courtesy of Sotheby's

新型コロナウイルスのパンデミックによってギャラリーの運営や展示スケジュールに大幅な変更が加えられたことから、オークションハウスでは、20〜30代の若いアーティストが制作した新しい作品の出品数が2020年から急増した。フィリップス・ニューヨークで行われたイブニング・セールでは、特に若手アーティストのペインティングが多く出品されたほか、競合するサザビーズクリスティーズでも、より高額で取引される歴史に名を残してきたアーティストではなく、現代アーティストによる作品が多く取り扱われていた。

しかし、今年11月に行われる大手3社のイブニング・セールでは、総額16億ドル(約2470億円)の売上が見込まれているもののオークションに出品される若手および中堅アーティストの数は減少している。現代美術にカテゴライズされる出品作品は、より高齢かつ実績のある作家によるものが多いように見える。その結果、1980年代と1990年代に生まれたアーティストが売上面で占める割合はかなり低くなるだろう(個々の美術品の推定価格は、匿名の売り手とオークション前に交渉されている)。

若手アーティスト依存からの脱却

過去のオークション結果を見てみると、2023年11月にフィリップスが開催した現代美術のイブニング・セールでは、80〜90年代に生まれたアーティスト6名の作品が総額112万ドル(現在の為替で約1億7300万円)で落札された。買い手が付いたアーティストのなかには、ルーシー・ブルやアンベラ・ウェルマン、ジャデ・ファドゥジュティミらが含まれており、それぞれ12万〜60万ドル(同約1850万〜9270万円)の間で取引された。オークションハウスに支払われたバイヤーズプレミアムを含め、最終的に7000万ドル(同約109億円)の売上を記録したこのオークションにおいて、若手アーティストの売上額は2%を占めていた。また、新進アーティストの作品が多く取引されていた2022年には、若手作家の作品だけで710万ドル(約11億円)売り上げており、フィリップスのイブニング・セールが計上した1億4000万ドル(約216億円)のおよそ5%を占めていた。

一方、11月下旬に開催される秋のイブニング・セールの総売上額は6200万ドル(約95億7000万円)と予想されているが、そのうち若手アーティストの売上額は約50%減の54万ドル(約8300万円)、割合はたった1%になるとみられる。

US版ARTnewsがアートアドバイザー企業、Gurr JohnsのCEOを務めるハリー・スミスなどアドバイザーたちに取材したところでは、若手アーティストの作品を販売して多額の収益を生み出し収入を増やすアートマーケットとの依存関係を「一度リセットする必要がある」という指摘の声が何度か上がった。

11月下旬に予定されている3日間の現代美術のイブニング・セールで販売される予定の推定120点の作品のうち、90年代生まれのアーティストはわずか6人、80年代生まれにいたっては5人。今回出品される若手作家で最も若いのは、27歳の画家、リー・ヘイディとポール・タブリエで、この秋に唯一「デビュー」を飾るアーティストだ。「デビュー」とは、オークションに初めて出品するアーティストに与えられる呼称で、アーティストの作品の価値が初めて公に開示されるときに用いられる。

リーとタブリエはコレクターの間で人気が高まりつつある作家で、いずれもホラー映画に関心をもっており、ミリアム・カーンやフランシス・ベーコンといった作家を好んでいると過去のインタビューで語っていた。また、タブリエは、2024年の月から9月までパリのブルス・ドゥ・コメルスで開催されたグループ展「Le monde comme il va」にも参加していた。

また、11月7日からガゴシアンで展覧会を開催しているファドゥジュティミは、オークションに出品される際には「ウルトラ・コンテンポラリー」の枠組みに含まれる。このカテゴリーは、1974年以降に生まれた画家の作品を指し示すために作られた造語だ。過去4年間で、ファドゥジュティミの作品90点弱が販売され、なかには4万ドル(約620万円)から50万ドル(約7700万円)へと10倍以上も価値が上昇した作品もある。その理由の一つは、最近のニューヨーカー誌に掲載されたファドゥジュティミの記事に見出すことができるかもしれない。同記事では、彼女の制作ペースが非常に速いことが紹介されており、彼女が「一発屋」と呼ぶ絵画を数時間で仕上げることも多いと記されている。だが、4年にわたって価格が上昇してきた彼女の作品価値も、そろそろ頭打ちになるかもしれない。というのも、10月にクリスティーズで開催されたロンドンのイブニングセールでは、40万ドル(約6200万円)近い値がつけられた彼女の作品に買い手が付かなかったのだ。

安定を求めるコレクター

パンデミックが始まってから2年が経過した2022年、ロサンゼルスに拠点を置くギャラリスト、ベネット・ロバーツはUS版ARTnewsに対し、事業を拡大するオークションハウスは若手アーティストの作品を短期間で売却していると語った。コレクターが新しい作品を求めるようになったことから新鮮な作品への需要が高まったが、ギャラリーがコレクターの需要に合わせて作品を集めるには限界がある。ロバーツは当時、ウルトラ・コンテンポラリーというカテゴリーが生まれる5〜7年前は、新進アーティストの作品を直接購入できる機会はあまり多くなかったと説明しており、「できたばかりの作品がスタジオから届くことはめったにありませんでした」と振り返る。

とはいえ、現在は特定の若手アーティストだけに焦点が当てられることが少なくなりつつあるので、コレクターたち次に欲している作品を先読みすることは難しい。同時に、キャリアの浅いアーティストの作品がオークションで急速に値上がりするとギャラリーの運営に支障をきたすことが多いので、価格を安定させ、長期的にサポートすることが難しくなるとギャラリストは考えている。

UBSとアート・バーゼルが発表した最新レポートによると、2023年以降、コレクターが作品に費やす平均金額は前年から32%減の36万4000ドル(約5600万円)となっているというが、この下落を単に購入ペースが鈍化しただけと解釈する人もいる。

しかし、この報告書を受け、ニューヨークのアートアドバイザーであるメーガン・フォックス・ケリーは、彼女が担当する顧客の間では現在、権威ある作品から離れ、70万ドル(約1億800万円)以下の作品(つまりは今をときめくアーティストの価格帯)を好む傾向が強まっていると語る。「コレクターたちは、着実で安定した作品を購入するようになってきました」(翻訳:編集部)

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