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在庫過多が買い手市場を後押し? 米金融機関が最新報告書で「コレクターに有利な状況」と発表

高インフレと金利上昇、そして世界的な地政学リスクは、アート市場にどういった影響を及ぼしているのだろうか。業界支援を継続的に行っている金融機関、バンク・オブ・アメリカが最新の報告書を発表した。

2022年以来オークションの売上額は伸び悩んでいるが、買い手市場は続くとバンク・オブ・アメリカが発表したレポートは主張する。Photo: Dia Dipasupil/Getty Images

バンク・オブ・アメリカがこのほど発表した「Art Market Update Fall 2024: Opportunity Knocks?(2024年秋のアート市場アップデート:チャンス到来?)」によると、オークションの最低落札価格の引き下げやギャラリーにおける割引、金利引き下げといった要因により、将来的にコレクターが作品を入手しやすくなるという。その結果、11月下旬にニューヨークで開催される秋のオークション、そして12月初旬に開催されるアート・バーゼル・マイアミ・ビーチには多くのコレクターが参加すると同レポートは予測している。

「オークションにおける入札者の競争が減速していることから、コレクターはここ数年よりも手頃な価格で作品を購入できる可能性がある。2024年前半のセカンダリー・マーケットにおける美術品の販売額が予想を下回ったことを受け、良好な購入条件が予想される。これまでの落札価格は予想落札価格の1%しか上回っておらず、過去7年で最も低い増加率となった」

多様性を求めるコレクター

こうしたなか、近年勢いを失いつつある分野ではあるが、新進アーティストの市場はコレクターが参入しやすくなっている。サザビーズの新進アーティストに特化したオークション「The Now」では、2022年にペインティング作品の記録的な競り合いをみせて以来、販売総額は55%減少している。

この報告書ではその一例として、コロンビア人アーティスト、マリア・ベリオのミクストメディア作品《La Cena》(2012年)を挙げている。同作品は2022年にサザビーズで150万ドル(現在の為替で約2億3200万円)で落札されたが、2024年にクリスティーズに再び出品された際には、予想価格が35万〜45万ドル(約5415万〜7000万円)まで落ち込んでいた。最終的には44万1000ドル(約6800万円)で買い手が付いたが、わずか2年で70%ほど価値が下落したことになる。

一方で報告書は、ラテンアメリカのアーティスト市場は、「世界中のコレクターが多様性に満ち、歴史的に重要な作品を求めるようになった」ことから「上昇傾向にある」としている。サザビーズは、歴史に名を残したアーティストから現代のラテンアメリカのアーティストの作品の販売額が、パンデミック以前と比較して50%以上増加し、2020〜2023年の間に2億5000万ドル(約386億円)上回ったと報告した。

高インフレと金利上昇、そして世界的な地政学上の不安を背景に、2023年から始まったアート市場の軌道修正は「2024年にも波及している」と同報告書は指摘しており、その理由を次のように分析している。

「買い手市場と見なされているなかで、出品される傑作の数が少なく、5月のオークションで目玉となるような作品が多く出品されなかったことも、入札者の信頼と熱意をそぐことになった可能性がある」

「ギャラリーは変化を迫られている」

US版ARTnewsの取材に応じたバンク・オブ・アメリカのアートサービス部門の責任者、ドリュー・ワトソンは、こうした状況によってコレクターは、ディーラーとの交渉において優位に立てると語る。

「2025年に向けて、アート市場には2つの傾向が浮上してくるでしょう。その一つが、2023年から始まった市場の軌道修正が今年まで持ち越されたことで、コレクターにとって好ましい購入環境が生まれていることが挙げられます。これはコレクターにとっていい知らせだと言えるでしょう。プライマリー・マーケットの調整が進められているなか、ギャラリーは抱えている在庫の価格設定を迫られているのです。これによってコレクターたちの交渉の余地が広がり、好ましい取引条件を確保できるようになっています」

また、ギャラリーは「新しい市場のなかで巻き起こっている現実に対応するか、売れ残りの在庫を積み上げるリスクを負うかの二択を迫られている」と報告書は述べており、ワトソンはこう続ける。

「コレクターたちはかつてないほど目が肥えてきています。ギャラリーは一級品を継続的に販売していますが、それ以外の作品については条件交渉の余地があることをコレクターたちは理解しているのです。キャンセル待ちリストに割って入ったり、再販制限をなくしたり、『1つ購入すると1つ無料』といった特典や割引など従来からある交渉方法を活用して、コレクターたちはより有利な取引条件を確保しているのです」

ワトソンはもう一つの傾向として、コレクターは総合的な資産戦略に美術品の所有を組み込むケースが増えていると説明した。「若い世代の間でも関心が高まることが予想されます。実際、バンク・オブ・アメリカ・プライベート・バンクは今年、コレクターの56%が美術品を資産管理戦略の一部として考えているという調査結果を発表しており、ミレニアル世代やZ世代といった若いコレクターの98%は同じような考えをもっているようです」

トランプ再選の影響は未知数

バンク・オブ・アメリカの報告書によると、芸術作品や収集品の価値は2026年までに2.8兆ドル(約433兆円)に達し、富裕層の個人ポートフォリオの10%以上を占めると推測されている。

また、過去2回の大統領選挙の年には秋の目玉作品の販売数が「大幅に減少」しており、ドナルド・トランプが再選したことを踏まえると、11月下旬に開催されるオークションへの出品数が減る可能性は「理解できる」という。

報告書は、「現在のアート市場は世相の影響を受けやすく脆弱。2024年上半期のオークション総額は、2020年のパンデミック以来、最低の数字をたたき出している」として、次のように述べている。

「コレクターの移動や支払い能力、美術品の取引に影響を及ぼす可能性がある財政および金融政策の方向性に関する不確実性は、事態をさらに複雑化させるだろう。オークションハウスは今年の秋の品揃えに自信をもっているようだが、選挙の結果(不確定または論争の可能性を含む)によって買い手の関心をそらしたり、ためらいを生じさせたりする可能性があるという意見もある。また、新政権の政策が明確になるまでは、経験豊富な買い手と売り手の取引意欲にも影響を及ぼす可能性もある」(翻訳:編集部)

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