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アートバーゼル&UBSが最新レポートを発表。世界のアート取引額は9兆6000億円とパンデミック前を上回る水準に

アート・バーゼルUBSが最新レポート「Art Market 2024」を発表した。これによると、2023年の世界のアート取引額は650億ドル(約9兆6000億円)と、前年からは4%減少したものの、新型コロナウイルスのパンデミック前である2019年の数字を上回る結果となった。

2023年5月16日に行われたサザビーズのイブニングセールの様子。Photo: Julian Cassady Photography / Ali

規制緩和された中国が躍進。アジアの振興アートフェアも後押し

アート・バーゼルUBSによる「Art Market 2024」は、世界中のディーラー、オークションハウス、コレクター、アートフェア、美術・金融データベース、業界専門家、その他関係者から収集・分析したデータに基づいて 2023年のアート市場の動きを解説している。

2023年、欧米のオークションには莫大な遺産が出品されることもなく売り上げが低迷し、世界的にもアート市場は困難な状況に見えた。だが、Art Market 2024によると、2023年の世界のアート取引額は前年からわずか4%減の650億ドル(約9兆6000億円)と推定されている。そしてこの数字は、新型コロナウイルスのパンデミック前、2019年の予想である644億ドル(約9兆5000億円)を上回っている。

レポートを執筆した文化経済学者のクレア・マッキャンドルーは、金利の高騰、インフレ圧力、地政学的不安定などさまざまな要因が、特に1000万ドル(約14億8000万円)以上で販売されるトップエンドの売上鈍化につながったと推測する。

「パンデミック後の立ち直りがいかに目覚ましかったかを考えれば、状況が少しスローダウンするのは必然でした」マッキャンドルーはUS版ARTnewsにこう語った。「5000万ドルから1億ドル(約73億8000万円~148億円)以上の売上が加わっても大差はなく、大きな痛手です。しかし幸いなことに、これは2014年や2009年に経験した劇的な縮小ではありません。これはもっと普通で、時代の背景を反映した、より自然な落ち込みです」

数千万や億ドル単位の売上減少以外にも、2023年はビジネスを行うためのコストの上昇が大きな課題となったとマクアンドリューは説明する。また、コレクターの購買力を減少させたトップレベルの高金利化は、ディーラーの視点を売上高から収益性へ、拡大から持続性へと移すきっかけにもなったという。

地域別の動向を調査したところ、アメリカは前年比3%減となったものの、世界の売上高の42%を占め、美術市場をリードする地位を維持していることが分かった。 中国イギリスを抜いて世界第2位の市場となり、シェアは19%に達した。中国での売上高は前年9%増の122億ドル(1兆8000億円)と推定されるが、これは同国における新型コロナウィルス規制の緩和や、パンデミックで延期されたセールの在庫で溢れかえるオークション・シーンの活況、そしてアジア全域でのいくつかの新しいアートフェアの立ち上げによるものだ。

一方、3位に転落したイギリスの売上高は8%減の109億ドル(約1兆6000万円)、市場シェアは17%となった。同レポートによると、この低下は、歴史的にロンドンやニューヨークで行われてきたオークションのイブニングセールでの高額販売が激減したためと思われる。フランスは世界の売上高の7%を占め、4位を維持した。

アメリカは2022年に売上高302億ドル(現在の為替で約4兆4600万円)と歴史的なピークを迎えたが、2023年には10%減の272億ドル(同・約4兆円)にまで落ち込んだ。この縮小にもかかわらず、今回も首位をキープしたが、パンデミック前となる2019年の数値をわずかに下回っている。

コアなコレクター層の積極的な作品購入も

アート・バーゼルのチーフ・エグゼクティブであるノア・ホロウィッツは声明の中で、「前年比では減少したものの、2023年もコアなコレクター層は、これまで以上に作品の価値とクオリティを重視しつつ、積極的にアート市場に関わり、価格バランスの安定に貢献してくれた」と述べている。

昨年のオークションで最も注目された作品のひとつ、アグネス・マーティンの《Grey Stone II》(1961)を見れば、ホロウィッツのいうクオリティ重視の姿勢は明らかだ。また、2023年に102歳で亡くなったコレクター、エミリー・フィッシャー・ランドーの遺品オークションが同11月にサザビーズ・ニューヨークで開催されたが、コレクターの財布の紐が固くなっている中でも、適切な作品であれば驚異的な価格で取引される可能性があることを示していた。当然のことながら、パブリック・オークションの売上高は7%減の251億ドル(約3兆7000万円)で、高額作品が大幅に減少したが、中低価格作品の伸びで相殺された。

ホロウィッツは、「全体として、昨年のアート・ビジネスの特徴のひとつは何年にもわたって加速してきたハイエンド市場のトレンドの逆転だ」と語る。

昨年のアートディーラーの売上においても、オークション市場と同様、役割の逆転が見られた。ディーラーの売上の合計は361億ドル(約5兆3000万円)で昨年よりも3%減。小規模ディーラー(年間売上高50万ドル以下と定義)は平均売上高が11%増加したのに対し、年間売上高1000万ドル(約14億8000万円)以上の大規模ディーラーは7%減少しており、コレクターの行動変化を如実に反映している。

ディーラー収入の内訳を見ると、アートフェアでの収入が29%を占めた。2022年からは6%減少したが、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で最低値を記録した2021年より27%の増加となった。大規模ディーラーの半数は、2024年においてもフェアでの売上は伸びると楽観視してしているようだ。

オンラインでの売上は7%増の118億ドル(約1兆7000万円)で、美術品取引を促進するデジタル・プラットフォームがより重要になっていることを裏付けている。厳密には、売上高自体は2021年に記録した最高額である133億ドル(約2兆円)から減少しているが、2019年やそれ以前の年のほぼ2倍を保っており、報告書によれば、今年は特にディーラーが所有するチャネルやウェブサイトが牽引した。アート市場以外でのアート関連NFTの売上は減少している一方で、NFTへの関心は継続しており、売上はパンデミック前の水準を大幅に上回っている。

2024年を展望すると、36%のディーラーが売上の増加を予想しており、売上は減少すると見ているのは16%だけ。全体としては比較的楽観傾向ではあるものの、多くのディーラーが政治経済的な不確実性が市場に影響を与えるのは必至で、顧客との関係維持やアートフェアへの参加にかかるコストが最大の懸念事項であるなど、先行きは不安定だと述べている。

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