降板騒動のオーストラリア館、2026年ヴェネチア・ビエンナーレ代表作家の復帰が決定
レバノン出身のアーティスト、ハーレド・サブサビとキュレーターのマイケル・ダゴスティーノが2026年のヴェネチア・ビエンナーレ、オーストラリア館代表に復帰することが明らかになった。美術関係者からの強い批判と、同館主催団体のガバナンスに問題が発覚したことを受け、主催団体が2人の降板を撤回した。

レバノン出身のアーティスト、ハーレド・サブサビとキュレーターのマイケル・ダゴスティーノが、2026年のヴェネチア・ビエンナーレ、オーストラリア館の代表作家に復帰することが明らかになった。2人は今年2月初旬、オーストラリア館の主催団体であるクリエイティブ・オーストラリアによって同国の代表から降板させられたが、アート・ニュースペーパーが報じたところによれば、政治的動機による検閲行為との批評家による非難と独立調査の結果を受け、降板を撤回したという。
降板騒動の発端は、オーストラリアの有力紙、オーストラリアン紙がサブサビの2007年のビデオインスタレーション《You》を批判し、サブサビを代表作家に据えることは「人種差別への創造的アプローチ」であると非難したこと。《You》では、2006年のイスラエルによるレバノン侵攻が停戦を迎えた後に演説をするヒズボラの指導者、ハッサン・ナスララに焦点が当てられていた。
作中にはナスララの顔から光線が放射される場面があり、《You》を所蔵するオーストラリア現代美術館は、これを「神聖な光明を示唆するもの」と説明し、文脈によってメディアが人物を神格化したり、悪魔化する現象の考察を促すものだとしている。
オーストラリアン紙に掲載されたコラムはさらに、サブサビとダゴスティーノが「イスラエルのボイコットを助長している」と指摘。2022年にサブサビがイスラエル政府の後援を理由にシドニー・フェスティバルから撤退したことを引き合いに、両者が「国の評判を左右するもの」として不適格だと主張した。
記事が公開された数日後、クリエイティブ・オーストラリアの理事会は全会一致で両者の起用を取りやめた。その理由として「長期間にわたる分裂的な議論」が生じる可能性を挙げ、人々からの信頼を保つために必要な措置だと説明した。2人の降板は大々的に発表されず、サブサビの過去作や論争について触れることはなかった。
この発表には反発の声が瞬く間に上がった。クリエイティブ・オーストラリアのシニア・スタッフであるミカラ・タイやタミナ・マスキニヤールは抗議の意を示して辞任したほか、オーストラリア館のコミッショナーをかつて務めたパトロンのサイモン・モルダントもオーストラリア館への支援打ち切りを発表し、国際大使の職も辞任している。その後モルダントは、この騒動を「オーストラリアと芸術にとって非常に暗い日」と評した。
このほかにも、アーティストや芸術機関はサブサビを擁護する声を上げ、オーストラリア館の代表候補に選ばれていた5人も彼の復帰を求める公開書簡を発表した。
騒動が起きた当時、ヴェネチア・ビエンナーレ2007で金獅子賞を受賞したパレスチナ人アーティスト、エミリー・ジャーシルは、「クリエイティブ・オーストラリアは恥を知るべき」とInstagramに投稿したほか、イラン系オーストラリア人アーティストのホダ・アフシャールは同団体の判断を「ファシズム的」と非難している。また、クリエイティブ・オーストラリアから資金援助を受けているギャラリー、ウェスト・スペースも、同国の文化的地位への「長期的な悪影響」を懸念する声明を発表していた。
そんななか、サブサビとダゴスティーノも反発を続けており、2月には次のような共同声明を発表した。
「芸術家が生きている時代を反映している芸術作品は、検閲されるべきではない。このような発表がなされたとしても、オーストラリアの芸術界は暗くなることも、沈黙することもないと私たちは信じている」
このような反発が相次いだにもかかわらず、クリエイティブ・オーストラリアは方針を変えることなく、2026年のオーストラリア館には何も展示しないという案まで浮上していた。ところが、5月に理事長のロバート・モーガンが辞任し、先住民の劇作家、ウェスリー・イーノックが理事長代行に任命されたのち、7月2日に外部調査によって選考プロセス上の問題が発覚。サブサビとダゴスティーノが正式に復帰を要請され、両者はこれを受け入れた。
代表復帰に際して2人は「個人的かつ集団的な困難に直面した後に達した一種の解決策」と声明を発表し、アートコミュニティの「揺るぎない支援」によって復帰が実現したとして感謝の意を示した。
サブサビとダゴスティーノがオーストラリア館でどんな展示を行うのか、まだ明らかになっていない。だが、パビリオンから発信されるメッセージが中立的なものではないことは確かだ。(翻訳:編集部)
from ARTnews