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筆跡鑑定で謎に満ちた中世の画家の正体がついに判明! 「満月」が秘密を解く鍵に

正体不明とされていたビザンティン美術の代表的画家、マヌエル・パンセリノス。その本名が700年前の彩飾写本とギリシャ・アトス山に残る壁画の筆跡鑑定によって判明した。

ギリシャ北部アトス山にあるプロタトン聖堂の壁画《パトモス島の福音書記者聖ヨハネ》(1290-1310)。Photo: Courtesy Wikimedia Commons

世界遺産であるギリシャ北部アトス山の聖堂に壁画を残した中世の画家、マヌエル・パンセリノスとは誰なのか──その謎が解けたと12月5日付のAP通信が伝えている。

パンセリノスは、中世後期のイタリア人芸術家で西洋絵画の父と呼ばれるジョットと同時代の画家。ジョット同様、人物の表情や体の均整、遠近感を追求し、様式化された東方正教会の宗教作品に人間らしさを加えたことでビザンティン美術に大きな影響を与えた。

ビザンティン美術の多くは、現在のギリシャやセルビアなど、ビザンツ帝国や後のオスマン帝国を構成した地域にある正教会の聖堂などを飾っている。非常に様式化された細長い体の人物、抽象的な形、平坦な色彩、はっきりとした輪郭という特徴を持ち、金で装飾されていることが多い。

13世紀後半から14世紀初頭にかけてパンセリノスが描いたとされる絵画は、同時代のビザンツ帝国における最高レベルの作品と評価されている。また、パンセリノスを含むこの頃の画家たちは、古代ギリシャの形式や技法を復活させ、一種のルネサンスを起こしたことで知られる。しかし、その出自や経歴が謎に包まれていることから、研究者たちはギリシャ語で「満月」を意味するパンセリノスは雅号なのではないかと考え始めた。

今回の発見の中心となったのは、ギリシャの聖職者で言語学研究者でもあるコジマス・シモノペトリティスだ。その調査によって、パンセリノスはギリシャ北部の都市テッサロニキ出身のマケドニア派の画家、イオアニス・アストラパスではないかとされた。その後、筆跡鑑定の専門家であるクリスティーナ・ソティラコグルーが、写本に書かれたアストラパスのものとされる文字と、アトス山にある聖堂のパンセリノスによる壁画の文字との照合を行った。

先行研究によると、学者で芸術家のアストラパスは、14世紀初頭にギリシャ語の『マルシアン写本(Marcian Codex)GR516』を著し、天文学や音楽理論などさまざまなテーマについて執筆し、挿絵を描いた。その挿絵の中には満月が描かれたものもある。

ソティラコグルーがAP通信に語ったところによると、筆跡分析は「非常に難しかった」という。壁絵の文字が大文字で書かれているのに加え、当時の画家たちは伝統的な書式に合わせるため、自らの筆跡を出さないようにしていたからだ。対照的に、写本は「非常に小さな小文字で書かれている」。

しかし、画家が自らのサインをほとんど残さなかった時代のことであるため、他のパンセリノス作品の分析を続け、今回の発見を裏付けることが必要になりそうだ。(翻訳:石井佳子)

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