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ヴェネチアの展覧会で作家3人が突然降板。背景にプーチン盟友が創設したロシア天然ガス大手の影

11月22日、ヴェネチアにオープンした新スペースのこけら落とし展で、同スペースの運営にロシアオリガルヒが関与していることを理由に参加アーティスト3人が突如降板した。

ロシアのオリガルヒ、レオニード・ミケルソン。Photo: Anadolu Agency via Getty Images

11月22日、ヴェネチアに非営利団体「スコーラ・ピッコラ・ザッテーレ」の新スペースがオープンし、こけら落とし展「One Year Score: Primo Movimento(1年間のスコア:第1楽章)」が始まった(2025年3月30日まで)。だが先日、同展に参加する3人のアーティスト、レト・プルファー、マリアム・ホセイニ、アンナ・ヴィットが降板を表明した。

その理由は、同スペースをロシアオリガルヒ、レオニード・ミケルソンの娘であるビクトリア・ミケルソンが設立したことにある。レオニードはロシアの天然ガス生産企業ノヴァテクの創設者・会長で、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの盟友だ。ロシアの独立系天然ガス会社であるノヴァテクは、航空爆弾やミサイル弾頭など各種弾薬の製造で知られるスヴェルドロフ防衛施設にガスを提供していることから、アメリカと欧州は制裁リストに加えている。また、レオニードは液化石油(LPG)ガス大手Siburの主要株主でもある。独立系ロシアメディアのProjectによると、Siburはウクライナに侵攻するロシア軍のシステムで使用される資材を供給しているという。

ロシアのコメルサント紙によると、レオニードは2018年に、ガス・パイプライン建設会社ノヴァLLCと物流会社オプティマの2社をヴィクトリアに譲渡した。オプティマは2009年にモスクワを拠点とする非営利芸術団体V-A-C財団を設立。モスクワに5万4348平方メートルの敷地面積を持つ現代美術館GES-2 House of Cultureを所有している。

「スコーラ・ピッコラ・ザッテーレ」のこけら落とし展で複数のアーティストが降板した件について、US版ARTnewsがヴィクトリアに取材したところ、「スクオーラ・ピッコラ・ザッテーレは個人的な資金のみで運営しています」と主張。だが同団体の建物は、かつてビクトリアが戦略開発と研究部門の責任者を務めたV-A-C財団がヴェネチア拠点として使用していたもので、2022年5月に閉鎖された。また、これとほぼ同じ時期にV-A-C財団の芸術監督だったフランチェスコ・マナコルダがロシアのウクライナ侵攻に抗議して辞任したことが大きなニュースとなった。当時マナコルダはロシアのタス通信に対して、「残念ながら、現在の情勢は私を取り巻く状況を大きく変えてしまいました。そのため、私は誇りを持って献身的に仕事を続けることはできないという結論に至りました。この決断は、大きな苦悩と後悔の末に下したものです」と語っている

US版ARTnewsは今回降板した3人のアーティストにコメントを求めたが、辞退された。展覧会で展示を続ける3人、アグニエスカ・マスタレルツ、ルドビカ・カルボッタ、トマソ・デ・ルカも取材に応じていない。(翻訳:編集部)

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