「彼はもっと前に去るべきだった」──大英博物館の所蔵品2000点の盗難・紛失事件を受け、副館長が退任
大英博物館における大規模な所蔵品の盗難・紛失事件で、事実関係の調査に非協力的だった副館長が、第三者委員会の調査結果を受けて退任するとBBCニュースが報じた。
12月12日に通達された第三者委員会の勧告で、ジョナサン・ウィリアムズ副館長については一切触れられていなかった。この件に関し、窃盗の疑いがあると大英博物館上層部への通報を行った古美術商のイッタイ・グラデルは、BBCの取材に「彼はもっと前に博物館を去るべきだった」と答えている。
8月25日にウィリアムズは、第三者調査が終了するまでには副館長のポジションを「自ら降りる」ことを明らかにしたが、その3時間前にはハートヴィヒ・フィッシャー館長が電撃辞任している。フィッシャー館長は7月の発表で、退任時期は2024年だとしていた。
グラデルはまた、BBCにこう語った。
「副館長の地位から身を引くという茶番は最初から無意味だった。ウィリアムズがこの件で無能だったことは誰の目にも明らかで、解任が適切な対応だった」
英テレグラフ紙の報道によると、グラデルは1600ワードもの長いメールを2021年2月にウィリアムズに送っている。その内容は、eBayに出品されている古代の遺物の売り手が大英博物館のシニアキュレーターで、遺物は博物館の所蔵品である可能性が非常に高いと警告するものだった。
その後、7月12日になってようやくウィリアムズからグラデルに返信があった。その回答は、調査によって「懸念の対象になっている所蔵品については全て説明がついた」とし、安全管理体制の再確認でも「所蔵品は強固な管理体制の下で保護されている」というものだった。さらに同月末、ウィリアムズはグラデルの申し立ては「事実無根」だと発言している。
最終的にグラデルは、ジョージ・オズボーン理事長にも懸念を伝えたという。理事長は後に、大英博物館がこの申し立てを退けたのは間違いだったと表明した。
今年8月、30年間に2000点もの所蔵品が紛失、盗難、破損したと大英博物館が認めたことを受け、警察の捜査が入り、職員が解雇された(名前は伏せられている)。被害に遭ったのは、これまで展示されていなかった古代ギリシャ・ローマ時代のもので、「紀元前15世紀から19世紀の金の宝飾品や半貴石、ガラスなどの装飾品」といった小品だった。
同館はBBCに対し、ウィリアムズの退任日や、それが自発的なものなのか経営陣の決定によるものなのかを明らかにしていない。第三者委員会の調査が発表された12月12日に、ウィリアムズが退任するかどうかを尋ねられたオズボーン理事長は、「その種のことについて即断することはない」とBBCに答え、こう付け加えた。
「2021年にグラデル博士から警告を受けたとき、博物館が適切に対応しなかったのは明らかです。警告を無視していなければ、2年以上前にこの問題への対処を始められたのに、そうしなかったために大変深刻な事態を招いてしまいました」(翻訳:石井佳子)
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