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カテランの「黄金の便器」窃盗事件の捜査が大詰めに。「行き過ぎた豊かさを暗示する」作品の奪還は?

イタリア人アーティスト、マウリツィオ・カテランが制作した「黄金の便器」が、イギリス・オックスフォードシャーにあるブレナム宮殿での展示中に盗まれてから約4年。警察の捜査に大きな進展があったとして、近いうちに起訴される見込みであることを英サン紙が伝えた。

マウリツィオ・カテラン作の黄金の便器《America》(2016)は、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で初めて公開された。Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

2019年9月の早朝5時前、7人の人物がウィンストン・チャーチルの生家であるブレナム宮殿に侵入し、実際に使用できる18金の便器を運び去った。これは、同宮殿で行われていたマウリツィオ・カテラン展の出品作の1つ《America》だったが、その日の展示が始まる前に消え失せてしまった。

作品は90キログラム近い重量があり、600万ドル(当時の為替レートで約6億5000万円)の価値があるとされる。設置されていたのはチャーチルが生まれた部屋のすぐ隣にあった板壁のトイレで、便器を外したためにこの小部屋も水浸しになる被害を受けた。

当時、この窃盗事件に関わった容疑で1人の男が逮捕され、その後6人が逮捕されたが、いずれもこれまで起訴されていない。しかし、サン紙によると、警察の捜査は大詰めを迎えており、検察当局による起訴が近いという。ただ、黄金の便器が戻ってくる可能性について当局は明言を避けている。

2021年、テムズ・バレーの警察・犯罪コミッショナーのマシュー・バーバーは、BBCの取材にこう語った。

「便器を取り戻すのは難しいだろう。(中略)それほど大量の金であるなら、誰かがすでに何らかの方法で処分している可能性が高いと思う。返還できることが望ましいが、個人的にはまだ同じ形のまま残っているとは思えない」

オスロ国立美術館から盗まれたムンクの《叫び》の奪還に貢献したロンドン警視庁のチャーリー・ヒルも当時同じ見方を示し、便器は小さく切断された後、溶かされて宝飾品に使われたのではないかと推測していた。

カテランの18金の便器は、2016年にグッゲンハイム美術館で初めて展示された。その後約1年間、来館者は「行き過ぎた豊かさを示す暗号」であるこの作品を見学し、「グッゲンハイムの男女共用トイレの個室というプライベートな空間で」利用することができた。

また、2018年に当時のドナルド・トランプ大統領が、ゴッホの《雪のある風景》をホワイトハウスで借り受けたいとグッゲンハイムに要請した際、同美術館はそれを拒否し、代わりに黄金の便器の貸し出しを提案する一幕があった。(翻訳:石井佳子)

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