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第3回ART SGはどうなる? メガギャラリーは出展見送り、地元ギャラリーの参加数は増加

1月17〜19日まで開催される第3回ART SG。回数を重ねるごとに減少する出展ギャラリー数、アジア圏におけるオークション販売額の減少など、幸先が悪いように思えるが、地元シンガポールや東南アジアに拠点を置くギャラリーの出展数は増えており、「南アジア市場に対する人々の信頼と好奇心」は健在だと創設者のマグナス・レンフリューは語る。

1月17〜19日までART SGがマリーナベイ・サンズで開催される。Photo: Roslan Rahman/AFP via Getty Images

2023年にローンチしたART SGが1月17〜19日に開催される。場所はこれまで通り、シンガポールを象徴するリゾートホテル、マリーナベイ・サンズだ。

3度目となるART SGだが、すでに複数の課題に直面している。その一つとして挙げられるのが、参加ギャラリー数の減少だ。初年には150、2024年には114のギャラリーが参加したが、今年は106とさらに数を減らしている。また、初回に名を連ねていたPaceペロタンデイヴィッド・ツヴィルナー、アルミネ・レフといった大手ギャラリーは、第二回から出展を見送っている。

また、専門家たちは2024年を通してアート市場の細分化が進んでいることを指摘してきた。11月のオークションでは100万ドル(約1億5600万円)を超える作品に買い手が付かず、現代アーティストの作品の価格が暴落した

プログラムの拡充を図るART SG

とはいえ、悪い知らせばかりが続いているわけではない。今回のART SGの中でシンガポールが拠点のギャラリーは21に増え、東南アジアからは計32のギャラリーが出展する。これは、この地域におけるアートシーンの活況を示す兆しと言えるだろう。ART SGとArt Assemblyの共同創設者であるマグナス・レンフリューはこう語る。

「前回参加していないギャラリーが再び出展してくれることをうれしく思いますし、東南アジア市場に対する人々の継続的な信頼と好奇心を示す証でもあると考えています。アート業界に対するシンガポールの貢献度は、ますます高まっているのではないでしょうか。東南アジアにおいてアートは盛んに取引さるようになりましたが、それをけん引しているのはシンガポールといっても過言ではないと思います」

その一例としてレンフリューは、Tang Contemporary Artが2024年に8つめのギャラリーをシンガポールにオープンしことを挙げている。

また、ART SGに合わせて1月17〜26日に開催されるシンガポール・アート・ウィークもプログラムを充実させ、国内に点在するさまざまなギャラリーや芸術機関に人々の目を向けるべく、さまざまなイベントを開催する予定だという。その皮切りとして、シンガポールに拠点を置く非営利財団「Tanoto Art Foundation」は1月15日にシンポジウムを開催した

ケープタウンに拠点を置くグッドマン・ギャラリーのオーナーを務めるリザ・エッサーズは、US版ARTnewsの取材に対し、ART SGに出展したことでシンガポールの熱心な顧客だけでなく、他の地域からのコレクターとも交流できるようになったと語り、こう続ける。

「ART SGをきっかけに、台湾との素晴らしいコネクションを得られましたし、メルボルンやシドニーの長年のコレクターと繋がることができました。オーストラリア国内の美術機関とも良好な関係を築いています」

エッサーズはまた、「アジアは特に現代アフリカ美術への強い需要があるため、依然として私たちにとって重要な市場です」と語り、アンドレアス・テオが率いる非営利機関、Institutumが開催した展覧会「Translations: Afro-Asian Poetics」を例に挙げた。ロンドンのチゼンヘール・ギャラリーのキュレーター兼ディレクターを務めるゾーイ・ホイットリーがキュレーションを担当したこの展覧会では、エッサーズのギャラリーに所属するエル・アナツイカプワニ・キワンガといったアーティストの作品が展示された。

意欲的に拡大を続けているART SGに触発された他のギャラリストたちも、楽観的な見通しをもって本アートフェアに再び参加している。香港のAlisan Fine Artsのダフネ・キング=ヤオは、初回からART SGに参加しており、「シンガポールには掘り起こすべきコレクターがまだ多数いると感じています」と語った。今回、Alisan Fine Artsが出品する作品はどれも手ごろな価格帯のものだといい、「私たちが取り扱っている作品は、販売価格が数百万ドルというようなものではありません。私たちは、手に取りやすいな価格帯の作品をそろえられていると自負しています」と話す。

購入者の反応を受けて、価格を低く設定することを検討している同業他社が存在していることを耳にしたキング=ヤオは、「どの作品を出品するか悩んでいる人は多いはずです」と言う。「他のギャラリーやディーラーは、扱う作品を慎重に選んでいると話していました」

アジアは成長市場なのか?

アート・バーゼルUBSが発表した世界のアートコレクターに対する調査レポート「Global Collecting in 2024」によると、シンガポールに拠点を置くコレクターの42%は収集歴6年未満と、どの地域よりも新規コレクターの割合が高いという。また、シンガポールからの回答者の97%が世界のアート市場に対して楽観的な見方を示し、調査対象となったコレクターの52%がより多くのアート作品を購入する予定であると回答した。また、シンガポールから輸出されたアート作品の割合は、2019年の1%から2023年には5%に増加している。

アジア全体に目を向けると、サザビーズが昨年7月に香港のビジネス街にサザビーズ・メゾンをオープンして間もなく、クリスティーズも香港支社を設けている。アート・バーゼルとUBSによる最新の調査レポートでも、この1年半において、中国がアート作品の購入額を牽引していることが強調されている

とはいえ、こうした楽観的な調査結果を関係者全員が鵜呑みにしているわけではない。ギャラリスト兼コレクターのリチャード・コーは次のように指摘する。

「アジアに金があると思い込んでいる欧米のアート関係者たちは、この地域で一儲けしようとしています。しかし、地元のアートシーンや作品の販売状況を見ると、それほど楽観視できないのが実状です。個人的には、これからアジア市場の状況は悪化していくのではないかと見ています」

コーは、その背景として香港と上海のオークションにおける昨年の動きを指摘し、数年前と比較して見積もり額が大幅に下がった結果、損失を被ったと語り、こう続ける。

「コレクターの立場から見ると、価格が現実的な水準に戻ってきたのは良いことだと言えます。数年前の価格水準は現実的とは言えず、1%の超富裕層ために開かれた“ゲーム”であり、アート市場には何も還元できていなかったのです」

アジア圏のベテラン収集家たちは再び作品を購入しはじめたが、自身のコレクションに加える作品を選り好みするようになったとコーは指摘する。一方で、コロナ禍に参入してきた投機家たちは市場から去り、若い世代のコレクターはいるものの作品収集に固執しているわけではないとして、こう語る。

「コレクターたちは目利きではありません。彼らは自分が気に入ったものを購入するだけであって、それがコレクターたちのライフスタイルでもあります。人々は資産の一部としてアートを購入しますが、アートは流動性のない最悪な資産の一つだと私は思います」

今年のART SGには、上海と北京にギャラリーを構える10のギャラリーに加え、香港に拠点を置く8つのギャラリーも参加する。1月20日に米大統領に返り咲くドナルド・トランプは、すでに中国への大幅な関税を提案しており、経済不安定化の懸念が広がっているが、多くの人々は、アジア圏の美術市場の健全性を示す初期の指針としてART SGに注目しているようだ。 とはいえ、アジア圏のフェアにおける美術品の売買は、欧米のアートフェアの慣習とは大きく異なる。ART SGだけでトランプ再任の影響を評価することは難しいだろう。

レンフリューは、「フェアの会期が終了してから数カ月の間に取引が成立している事例もあります。今年も会期中に商談を開始し、フェアが終了した後に取引を成立させようと考えているギャラリーはいくつかあるようです」という。(翻訳:編集部)

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