Tokyo Gendaiが目指すのは「革命ではなく進化」──マグナス・レンフリューが語るフェアの意義

7月4日のVIPプレビューを皮切りに、第2回Tokyo Gendaiが開催される。昨年の記念すべき第1回では、世界各国から73のギャラリーが参加し、世界34カ国から来日したトップクラスのコレクター、美術館館長、キュレーター、アート関係者を含む2万907人が来場した。同フェアの共同創設者であるマグナス・レンフリューに、今年のTokyo Gendaiへの期待を聞いた。

Tokyo Gendaiの共同創設者、マグナス・レンフリュー。Photo: Courtesy of Tokyo Gendai

──いよいよ2Tokyo Gendaiが開催されますが、まず、現在の世界のアートマーケットをどうご覧になっているのか教えてください。

世界的な状況としては、現在のオークションや主要なアートフェアの結果を見ても分かる通り、確かに市場は以前よりも軟調と言えます。しかし私は、むしろ楽観的ではない状況であるからこそ、購入のチャンスにもなると考えています。実際に、今、トップクラスのコレクターほど購入に前向きです。無駄なノイズに振り回されることなく、コレクションに向き合えるタイミングだからです。ですから、より長期的な視野でコレクションしたいと考えている人々と有意義な会話ができる良い機会であると私は捉えているんです。逆に、一過性の流行を追いかけたり、投機的な目的でアート作品を買う人たちにとっては良いタイミングではないかもしれません。

──では、そうした世界的な潮流の中で、今の日本マーケットをどう捉えていますか?

まず、昨年の第1回Tokyo Gendaiは、長期的な挑戦のための強固な土台を築けたと自負しています。私たちはこれまでも常に、長期的なアプローチをとってきました。その意味で、日本市場には大きなチャンスがあることが昨年、実感できました。日本、あるいは東京には、豊かな文化遺産があります。それに加え、今日の日本特有の文化が常に生まれています。そうした状況を論理的に考察すると、本来であれば、すでに活況にあってもおかしくない市場であり、あるべき姿に追いついていないんです。その背景には、10%のGST(商品サービス税)を前払いしなければならないという税制上の理由から、これまでは日本で大規模な国際アートフェアを開催するメリットがなかった、ということがあります。しかし我々は昨年のフェア開催にあたり保税ステータスを獲得することができたことで、その大きな障壁を乗り越えることができた。そうして国際基準のアートフェアが開催できたことで、人々にコレクションの第一歩を踏み出す自信を与えることができたと思います。

──自信を与える、とは?

アートコレクションというのは、そもそも個人的で自由なもの。しかし中には、何を買うべきか自信がないという人もいます。一方、国際的なアートフェアは、ときに威圧的で特権的な印象を与えますし、歴史的に見ても、アートはこうした障壁を取り除くことがあまり得意ではありませんでした。しかしTokyo Gendaiでは、そうした威圧的な雰囲気を作らないよう、アート初心者であっても心地よく楽しめる空気を醸成することを目指しています。そして、次世代のアートコレクターを育てることも私たちの役割の一つと考えています。Tokyo Gendaiのような国際基準のクオリティが担保されたフェアであれば、不安を抱えた人でも選択を大きく誤ることはないので、安心してアート作品を購入することが出来ます。

──アートフェアにおける「国際基準のクオリティ」をどのように測るのでしょう?

確かに、質を測る基準というのは簡単に設定できるものではありませんが、一つには、最高のギャラリーが参加するフェアであることが必須です。最高のギャラリーが、最高のアーティストを紹介するからです。

では、最高のギャラリーとは何か。それは、単にモノとして作品を売るのではなく、あるいは可能な限り短期間で最も多く稼ぐのではなく、アーティストの活動を支え励まし、彼らの長期的な利益・キャリアを念頭に置いて、一歩ずつ築いていくようなギャラリーです。また、展示プログラムに一貫性があるかどうかもギャラリーの質を左右する要因だと思います。

次に、最高のアーティストの定義ですが、アーティストを評価する際に私たちが大切にしているのは、4つのH──Head(頭)」、「Heart(心)」、「Hand(手)」、「History(歴史)」──です。

まず「Head」ですが、素晴らしい芸術には、必ず優れたコンセプトがあります。優れたコンセプトを考案するには、頭脳が必要です。美しい作品が必ずしも素晴らしいアートではありません。次に「Heart」とは、心から湧き出てきた純粋なアイデアのことであり、そうしたアイデアを真摯に追求すること。市場受けがいいもの、つまり「ほかの誰かを喜ばせるため」につくられたものに「Heart」は宿りません。そして「Hand」ですが、素晴らしい芸術を実現するためには、技術的な能力も重要です。技術的な能力を超えた作品を作りたいと考えるアーティストもいるかもしれませんが、その能力を一度も獲得したことがない人は、それを超えることも否定することもできません。最後に「History」ですが、歴史を知ることは制作のあらゆる決断に役立ちます。優れた芸術とは、ただそのアーティストが個人的に影響を受けたものというだけでなく、それがつくられた時代を反映していることが多いのです。

──昨年のTokyo Gendaiでは、作品を出品しているアーティストも多く訪れていたのが印象的でした。かれら「最高のアーティスト」たちは、フェアをどのように評価していますか?

実のところ、私たちがアーティストと直接接触する機会はそれほどありません。というのも、フェアという場所は、ある意味アーティストにとって自分の実践という本来の関心からかけ離れた舞台だからです。そのため、アーティストたちはマーケットから少し距離を置く傾向があります。そして、アーティストを市場から離しておくことは、ギャラリーの重要な役割のひとつでもあります。そうすることで、彼らは商業的な懸念に振り回されることなく、自分自身のビジョンを追求することができますから。

一方で、最近ではアートフェアは、単なる売買の場ではなく、アートに関連する様々な事象を発見できる機会であり、文化的エコロジーの重要な役割を果たしていることを、コレクターだけでなくアーティストたちも認識していると思います。また、若いアーティストにとってアートフェアは、国際的なアーティストの代表作を見たり、世界の気鋭アーティストによる最新の作品に触れることのできる素晴らしい教育的機会になると思います。

──先ほど、日本は「あるべき姿に追いついていない」という話がありましたが、日本のアートシーンに欠けているピースはありますか?

むしろ必要な要素は全て揃っていると思います。しかし、これまで各ピースが個々に存在していて、うまく繋がっていなかったと感じます。私たちが東京現代に大きな期待を抱いているのは、まさにこの点です。つまり、私たちが触媒となり、各ピースをつなげることができれば、アート・コミュニティの活気はさらに高まるでしょうし、東京のアートシーンの全体像が鮮明になり、国際的なアート界に自らをアピールしやすくもなります。

ことアートとなると、日本はこれまで極めて内省的で、ローカルな会話に終始してきたと感じます。Tokyo Gendaiのような国際アートフェアは、それを外に向けて開いていく場として貢献できる。アートについての活発な議論を促し、日本のコレクター潜在層や海外のコレクターをマーケットに呼び込む触媒になれると自負しています。私たちが目指すフェアとは、単なる取引の場ではなく、文化的な触媒でもあるのです。

──「開く」という意味では、世界的に、マーケットとアカデミアが双方に対してよりオープンになっていると感じます。

美術業界には歴史的に、アカデミアが市場に近づきすぎることへの大きな懸念がありましたが、ここ10年ほどの間に、両者は今までにないほど接近していると私も思います。例えば、ヴェネチア・ビエンナーレがコマーシャルギャラリーのサポートなしには実現できないように、いずれもアートという文化的生態系に欠かせない要素であり、両者の相互作用から得られるメリットは計り知れません。現実的にものごとを捉える必要がありますし、透明性ある相互作用が非常に重要だと思います。

それは、昨今よく語られるアートとファッションの距離が縮まっていることも同様です。ブランドがアートや文化のエコシステムの一部になれる可能性は大いにあると思いますし、今後数年間で、人々はますますそのことを認識するようになるはずです。

──今年のTokyo Gendaiで達成したいことは?

私たちが求めるのは革命ではなく進化なので、市場の拡大に合わせてフェアも着実に発展していかなければいけないと思います。ですから、早く大きくなる必要はありません。Tokyo Gendaiが参加ギャラリーにとって有意義な商業活動の場であれるよう、まずは持続可能な基盤を構築することが先決です。

そのため、我々は海外からもっと多くのコレクターを迎え入れると同時に、新しいコレクターやコレクター潜在層の来場を促す努力をしてきました。また、プライベート・メンバークラブや銀行のプライベート・ウェルス・マネジメント部門、ラグジュアリーブランドなど、同じようなターゲット層を持つ人々と連携して、初めてアートに触れるというような方にも積極的にアプローチしてきました。

もちろん、参加ギャラリーは結果を求めますから、たとえ私たちが長期的な成長を目指していたとしても、一方では短期間での成長を意識する必要もあるでしょう。しかし、すでに昨年の実績に対する参加ギャラリーからのフィードバックは非常にポジティブなものでした。

──今回の参加ギャラリーの総数は昨年と同じですが、うち24が新規参加。つまり、24ギャラリーが、今年は見送ったということになります。これをどう捉えますか?

ギャラリーは国際アートフェアに参加するための費用や高い金利、輸送費の高騰などを鑑みながら、クイックかつ現実的な決断に迫られています。今年は見送っても、来年また参加したいというギャラリーも出てくると思うので、心配していません。

いずれにしても、我々にとっては長期的な成長のための持続可能なモデルを構築することが重要です。そして今後、日本という市場が成長するにつれて、より多くの国際的なギャラリーを誘致することができるでしょう。私たちは急いでいません。

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