CHANEL Next Prizeにホー・ツーニェンら10人が選出
CHANEL Culture Fund(シャネル文化基金)が文化芸術の各分野で国際的に活躍するクリエイターを表彰し、支援する「CHANEL Next Prize」。その第2回に、ホー・ツーニェンを含む10人が選ばれた。
シャネルの創設者ガブリエル・シャネルは、サルバドール・ダリ、パブロ・ピカソ、マリー・ローランサンなどのアーティストや、詩人のジャン・コクトー、映画監督のルキノ・ヴィスコンティら文化人を自身の邸宅に招いて友情を深め、熱心に芸術家へのパトロナージュを行っていた。
シャネルでは、そのレガシーを受け継いで1世紀にわたって文化支援を行ってきたが、文化促進をさらに加速させるようなアイデアを称えることを目的に、2021年にCHANEL Culture Fund(シャネル文化基金)を設立。多様なジャンルで国際的に活躍する現代アーティストを選出して支援する、2年に1度のプライズ「CHANEL Next Prize」を開始した。
「まさに、新しいもの、次に起こることに焦点を当てた賞です」
US版ARTnewsにそう語ったのは、シャネル グローバル アート&カルチャー部門の責任者であるヤナ・ピールだ。
「ガブリエル・シャネルは未来の一部になりたかったのです。私は、アーティストに時間とスペースとリソースを与えるという、ガブリエルの意思を引き継いだシャネルの大胆さと好奇心が大好きです」
同プライズは、映画からビジュアル・アートまで、さまざまな分野を代表する世界中のアート&カルチャー・リーダーからなる諮問委員会が匿名でアーティストを推薦し、審査員たちが最終的な受賞者が選出する。2024年は、俳優のティルダ・スウィントン、アーティストのツァオ・フェイ (曹斐)、キュレーターのレガシー・ラッセル、ハンス・ウルリッヒ・オブリストらが審査員を務めた。
受賞者の出身国は、イギリス、アメリカ、アイルランド、ブラジル、シンガポール、グルジアの4大陸6カ国にまたがり、ジャンルは、ビジュアル・アート、映画、ダンス、ビデオゲームなど多岐にわたる。
受賞者の1人でシンガポールを拠点に活動する1976年生まれのアーティスト、ホー・ツーニェンは、神話や歴史を再編成することで、現実や歴史形成のあり方を問うアニメーションや映像、パフォーマンス、インスタレーションを制作している。ツーニェンは第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2011年)のシンガポール代表となったほか、豊田市美術館(2021年)、山口情報芸術センター[YCAM](2021年)、ハンブルク美術館(ドイツ、2018年)、ビルバオのグッゲンハイム美術館(スペイン、2015年)、森美術館(2012年)などで個展を開催しており、4月6日からは、東京都現代美術館で個展「ホー・ツーニェン エージェントのA 」(7月7日まで)が始まる。
ブラジル・ブラジリア生まれのダルトン・パウラは、忘れ去られたブラジル人を絵の具や写真を用いて描いたポートレートを通じて、植民地時代から現代に至るまで、アフリカンディアスポラであるブラジル系黒人の身体に関する表象を探求している。ブラジルのアフリカンディアスポラが信仰するカンドンブレ宗教の礼拝所「テレイロ 」や、「キロンボ」と呼ばれる脱走した奴隷が集まり定住した内陸部の集落の歴史についても深く掘り下げて研究している。
サンディエゴで活動するアメリカ先住民、Payómkawish族の映画監督・ビジュアルアーティストのフォックス・マキシーは、大地や水の安全性や衛生状態、生存、喜び、忍耐についての深く個人的な考察に根ざした作品で知られる。その作風は、ホラーとドキュメンタリーのジャンルを押し広げるものであり、10年以上かけて収集した膨大なオーディオビジュアル素材を編集した初の長編映画『Gush』は、2023年サンダンス映画祭でプレミア上映された。
そのほかの受賞者は、トリア・アスタキシェヴィリ(アーティスト)、カンテミール・バラゴフ(アーティスト、映画監督)、ウーナ・ドハーティ(振付家)、サム・エング(ゲームクリエイター) 、フォックス・マキシー(映画監督、アーティスト)、ムーア・マザー(詩人、ミュージシャン)、アンナ・ソルヴァルドスドッティル(作曲家)、ダヴォーン・ティネス(歌手、クリエイター)。
受賞者には賞金として10万ユーロ(約1633万円)が贈られるほか、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートなど、シャネルがパートナーシップを結ぶ世界トップレベルの文化機関による2年間のメンターシップ、および、ネットワーキング プログラムの機会が与えられる。
前出のヤナ・ピールは、今回の10人の受賞者についてこう期待を込める。
「彼らは変革をもたらすアーティストかつ先駆者であり、アートやオペラ、映画やゲームデザインに至るさまざまな文化領域にわたり、既存の慣習や価値観に対して新たなアプローチで挑んでいます。アーティスト達の今後のクリエイティブな挑戦を見守ることは、私たちにとってもスリリングな経験になるでしょう」
from ARTnews