ルーブル美術館の施設状況は「危機的」──館長が設備の窮状とモナリザ展示再考を政府に訴え
「ルーブル美術館は老朽化による漏水と過度の混雑で危機的状態にある」。同館のデカール館長がダチ文化相に宛てた文書でそう訴え、《モナリザ》の展示の見直しにも触れていたことが分かった。1月23日付の仏ル・パリジャン紙がその内容を報じている。
ルーブル美術館初の女性館長であるローランス・デカールは、ラシダ・ダチ文化相宛ての文書で、世界的に有名なルーブルの美術品が施設の老朽化で危機にさらされていると指摘。その状況を次のように説明している。
「美術館の各所で損傷が多発しており、中には非常に状態が悪いところもあります。防水性が失われている部分があるほか、温度調整の不備のために美術品の保存状態が悪化しています」
デカールは、中国系アメリカ人建築家I.M.ペイの設計で1989年にオープンしたガラスのピラミッドについても問題点を挙げている。ルーブル美術館の中では飛び抜けて新しい建築物だが、夏には内部が非常に暑くなる。昨年7月のパリ五輪開幕前にはマクロン仏大統領主催の公式晩餐会がこのピラミッドで行われたが、デカールによれば、暑い日には温室のようになり、騒音と熱気で「非常に不快」な状態になるという。
国立施設であるパリのルーブル美術館は、維持費を含む運営費のかなりの部分を国が負担している。やはり国立のポンピドゥー・センターが大規模改修で5年間の閉鎖期間に入るのに加え、フランス政府は財政危機にあるが、ルーブルの大改修も必要だとデカールは主張。しかし、彼女が必要と考える規模の改修は前例のない額の出費になる。
来館者による過密状態もまた大きな問題だ。世界で最も人気のある美術館のルーブルには、2024年に約870万人が訪れている。その人気が、1793年に美術館として開館した歴史的建造物に「物理的な負担」を与えているとデカールの文書は指摘。一方で休憩場所の不足も深刻だとしてこう付け加えている。
「飲食施設やトイレの数も不十分で、国際基準を大きく下回っている状況です。案内板などの表示も一新する必要があります」
さらには、ルーブル美術館の最重要作品である《モナリザ》の展示環境の問題もある。ルーブル美術館が実施した調査結果によると、来館者の約8割が《モナリザ》の展示室を訪れる。人数にして1日に2万人から3万人が、16世紀に描かれたこの肖像画を見ようと詰めかける計算になるが、これは想定されていた人数を大きく上回る。
デカールは昨年、《モナリザ》専用の展示室を設けることを提案したが、今回の文書でも展示について再考する必要性を強調。さらに、混雑緩和のためピラミッドに2つ目の入り口を設置する案についても言及されている。
2021年にルーブル美術館初の女性館長に就任して以来、デカールはルーブル美術館の運営改善が急務であると公に発言してきた。2023年には英ガーディアン紙に、「考えられる限りにおいて最も良い環境で来館者を受け入れることができないのはフラストレーションが溜まります」と語っている。(翻訳:石井佳子)
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