《モナ・リザ》がお引っ越し!? 「世界で最も残念な傑作」の汚名返上施策をルーブル美術館が検討
パリのルーブル美術館で、来場者が必ず見たいと挙げるのがレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》(1503)だ。その人気ゆえに展示室の混雑など鑑賞環境の悪さが長年問題視されてきたが、それらの解消を狙って専用室が設置されることになりそうだ。
パリを頻繁に訪れる人はそうでもないかもしれないが、多くの人にとってルーブル美術館は、この美しい都市への旅の中でも最重要目的地の一つであることに異論はないだろう。その中でも、レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》(1503)は、セルフィーを撮る数秒のために長い列をなす人々がひきも切らない人気作品だ。
事実、美術館関係者によれば、ルーヴル美術館を訪れる年間900万人の80パーセントは、《モナ・リザ》が目当てだという。特に混雑する日には、25万人がこの作品を見るために列に並ぶことになる。おまけに《モナ・リザ》は、絵画の保存を確実にするために温度と湿度設定が厳重に管理され、防弾ガラスや反射防止ガラスによって保護されているので、観客が絵画に辿りつけたとしても遠くから眺めることしか出来ない。このような体験はしばしば観客にストレスを与え、失望させる。最近、割引クーポン情報サイトのCouponBirdsが行った調査では、《モナ・リザ》は「世界で最も残念な傑作」という結論に至った。
だが、この状況は改善されるかもしれない。4月23日にテレグラフ紙が報じたところによると、ルーブル美術館のロランス・デ・カー館長は、《モナ・リザ》を同館の地下に建設する専用の部屋に移すことを検討しているというのだ。
デ・カー館長はスタッフや管理人にこう言ったという。
「現在の展示室は観客をあまり歓迎しない状況です。この状況をより良くすることは、私たちの仕事です。《モナ・リザ》を別室に移せば、人々の失望はなくなるかもしれません」
同館の16世紀イタリア絵画の主任学芸員であるヴァンサン・ドリューヴァンもそれに賛同し、フランスのル・フィガロ紙にこう語った。
「(現在の)展示室は広い上に、《モナ・リザ》はセキュリティガラスの奥にあるので、一見するとまるで切手のようです。この問題について長い間考えてきましたが、今回は全員の意見が一致しました」
《モナ・リザ》は1911年に盗難に遭って作品の知名度が上がって以来、人気は衰えない。その中で、2019年にはギャラリーの壁をエッグシェルイエローからミッドナイトブルーに塗り替えたり、来館者の列の並び方を変えたりするなど、鑑賞体験を向上させる試みが行われてきた。
しかし、ドリューヴァンは、ソーシャルメディアとマスツーリズムの影響により、より大きな努力が必要だと語った。そして「今の時代、人々が何を話題にしているのか気にならない人はいないでしょう。《モナ・リザ》は明らかに 『必見』のひとつです」と付け加えた。
《モナ・リザ》のための新展示室設置は、現在進行中の「グラン・ルーヴル」改修の一環となる。この改修により来館者はガラスのピラミッドに新しく設けられた入り口を通り抜け、モナリザの展示室と企画展示のための地下の部屋に直接導かれることになる。
デ・カー館長は、「この絵が、私たちのコントロールの範疇を超えた世界的なアイコンであることを受け入れなければなりません。美術館のムードは今、熟しています」と意気込みを語る。
しかし、ル・フィガロ紙によれば、このプロジェクトは一筋縄ではいかないかもしれない。というのも、ルーヴル美術館の改装予算は5億ユーロ(約834億4500万円)と見積もられているが、フランスの債務と財政赤字の見通しが予想以上に悪化している中、エマニュエル・マクロン大統領は次の年間予算の国家支出を250億ユーロ(約4兆1700億円)削減しようとしているからだ。
一方で、《モナ・リザ》は環境活動家たちの標的にされ続けている。2024年1月には活動家たちがカボチャのスープを投げつけた。絵画に被害はなかったが、この事件についてラチダ・ダティ文化相はフランスの遺産に対する攻撃と非難している。(翻訳:編集部)
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