ゴミ箱行きを免れたボブ・ディランの歌詞草稿が7800万円で落札! 「天才の仕事ぶりを映す貴重な史料」
ボブ・ディランが1960年代に書いた歌詞草稿が1月18日、アメリカでオークションにかけられ、50万ドル(約7800万円)で落札された。
アメリカを代表するシンガー・ソングライター、ボブ・ディランが1960年代、まだ20代の頃に書いた歌詞草稿が1月18日、カリフォルニアのジュリアンズ・オークションに出品された。ニューヨークタイムズが伝えた。
歌詞草稿は1965年の世界的ヒット曲「ミスター・タンバリンマン」の初期段階のもので、黄色い便せん2枚にタイプライターで歌詞が打ち込まれており、そこにディランが手書きで打ち消し線や、新しい歌詞を書き込んでいる。
この草稿の持ち主は、ロック・ジャーナリズムの草分け的存在、アル・アロノヴィッツだった。彼は1964年にボブ・ディランをザ・ビートルズに紹介したことでも知られている。
ジュリアンズ・オークションの資料によると、アロノヴィッツは1973年11月のサンデーニュースに、この草稿が生まれた場面をこう述懐した。
「ボブ・ディランはニュージャージー州バークレーハイツにある私の家で、ある夜、ポータブルタイプライターの前に座って『ミスター・タンバリンマン』を書いた。彼の骨ばった長い爪の指が、カナリア色の『サタデー・イブニング・ポスト』のコピー用紙に言葉を打ち出していた。(中略)朝食バーには、書きかけの原稿が山のように捨てられていた。それをゴミ箱に捨てようと裏口から外に出したとき、ささやきかけるような感情が私を捕らえた。私は、くしゃくしゃに丸められた『ミスター・タンバリンマン』の草稿を取り出し、それを伸ばして、狂気じみた躍動する歌詞を読み、着地することのない飛躍に微笑み、それをファイルフォルダにしまった。今でもどこかにその紙がある」
アロノヴィッツが2005年に死去した時、仕事に関する資料が250箱も遺された。草稿は、アロノヴィッツ自身も生前に探したが見つからず、息子のマイルズが何年もかけて資料を整理した中でも見つけられなかった。だが最近、マイルズが妻と改めて資料を見直したところ、草稿を発見したという。
夫妻は、スケッチや写真など、1960年代のディランにまつわる資料とともに草稿をオークションに出品。50万ドル(約7800万円)という驚きの価格で落札された。
ディランの作品に関する授業を行うハーバード大学の古典文学教授、リチャード・トーマスによると、この草稿はかなり貴重なものだという。トーマスは、「本当に衝撃的です。この草稿は天才の仕事のやり方を明らかにしているのです」と語る。
夫婦はアロノヴィッツの遺産をまたオークションに出品する予定だが、資料をまとめて図書館や博物館に寄贈したいとも考えている。