オークション直前の「待った!」。エル・グレコ作品の出品をルーマニア政府が阻止、「必ず取り戻す」
エル・グレコ(1541-1614)による絵画《聖セバスティアヌス》(1610-14)がクリスティーズのオークションにかけられる寸前で、ルーマニア政府が絵画の所有権を主張。出品は中止となった。
2月5日にクリスティーズ・ニューヨークで開催されるオークションに出品予定だったエル・グレコ《聖セバスティアヌス》(1610-14)が、その前日にルーマニア政府が同作の所有権を主張したため出品中止となった。エル・グレコの自筆作品が市場に出回ることは珍しく、予想落札額は700万ドルから900万ドル(約10億5800万円~13億6000万円)でオークションのトップロットを飾る予定だった。
《聖セバスティアヌス》はアートコレクターとして知られたルーマニア初代国王カロル1世の所有物であり、同国王が1914年に死去した際に、ルーマニア王室に遺贈された。国王は自身のコレクション全てを「ルーマニア王室の所有物として、永遠に、かつ完全に国内に留める」よう遺言したと伝えられている。だが1947年、同国の共産主義政府によって退位・亡命を余儀なくされたミハイ王に《聖セバスティアヌス》の所有権は譲渡され、ミハイ王は1976年にニューヨークのWildenstein & Coギャラリーに売却した。その後、著名なアートアドバイザリーグループであるジロー・ピサロ・セガロット(2011年に解散)が、2010年にこの絵画を個人顧客のために購入した。その個人顧客が今回の出品者にあたる。
地元メディアのルーマニア・インサイダーによると、2月初旬、ルーマニアのマルセル・チオラク首相と弁護士団は「この絵画はルーマニアの遺産の一部である」とクリスティーズに申し立てを行い、2月4日に出品が取り下げられた。《聖セバスティアヌス》には第三者保証が付いていたため、迅速な問題解決への圧力がさらに高まったと見られる。
だがクリスティーズは完全に売却を中止したわけではない。政府筋がProfit.roに語ったところによると、売却は今月末まで保留されるが、絵画は引き続きクリスティーズに保管されるという。ルーマニア政府はすでにパリ司法裁判所に訴訟書類を提出しており、その間に作品をめぐる法的措置を追求する計画だ。しかし、個人による購入からクリスティーズへの出品までの15年間の空白期間がルーマニア当局にどのようにして見過ごされたのか、また、時効が成立しているのかどうかは分かっていない。
この件について、クリスティーズの広報担当者はアートニュースペーパーの取材に対し、「この作品について(ルーマニア政府から)問い合わせがありました。 クリスティーズはこの問題を深刻に受け止めており、慎重を期して今回は出品を取り下げます。 後日、このユニークで壮大な作品を販売できることを楽しみにしています」と語った。
一方、ルーマニアのチオラク首相は声明を発表し、オークションの阻止を「ルーマニア国家の大成功」と賞賛した。 彼はまた、財務省、ルーマニアの弁護士団、そして「このステージでの勝利に関わったすべての人々の努力」を称え、「この出来事は、計り知れない価値を持つこの絵画を必ず取り戻すという確信を与えてくれました」と述べた。(翻訳:編集部)
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