今週末に見たいアートイベントTOP5: ビープルやルー・ヤンらが問うテクノロジーとヒューマニティ、スクリプカリウ落合安奈ら3人が見出す表現の原点

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

キム・アヨン 《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》 2022年 ビデオ 25分
マシン・ラブ: ビデオゲーム、AIと現代アート(森美術館)より、キム・アヨン 《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》 2022年 ビデオ 25分

1. エルヴィン・ボハチュ(タカ・イシイギャラリー 京橋)

Erwin Bohatsch,installation view at Taka Ishii Gallery Kyobashi, Jan 25 - Feb 22, 2025. Photo: Kenji Takahashi
Erwin Bohatsch,installation view at Taka Ishii Gallery Kyobashi, Jan 25 - Feb 22, 2025. Photo: Kenji Takahashi
Erwin Bohatsch,installation view at Taka Ishii Gallery Kyobashi, Jan 25 - Feb 22, 2025. Photo: Kenji Takahashi
Erwin Bohatsch,installation view at Taka Ishii Gallery Kyobashi, Jan 25 - Feb 22, 2025. Photo: Kenji Takahashi

オーストリアの抽象画を牽引してきた作家の日本初個展

オーストリアの美術、とりわけ抽象画の歴史を先導してきた作家として知られるエルヴィン・ボハチュの日本初個展。1971年から76年までウィーン美術アカデミーで絵画を学び、現在ウィーンとヴェネチアを拠点として活動するボハチュの作品は、具象と抽象、色彩と非色彩、線と表面との狭間を絶え間なく往来している。

本展では、近年の作品群から9点の絵画と13点の紙作品を紹介する。線、形体、色彩、物質性が際立つ近年の作品が例証するのは、純粋主義的なアプローチだ。湾曲した色面、精細な線、そして活発な軌跡が組み合わさることで、豊かな緊張と律動を帯びたコンポジションが生み出されている。また、土色や黒の領野に、緑、黄、青といった明るい色が効果的に用いられ、ポーリング(絵の具を垂らし込む)され、ナイフで薄く伸ばされた色彩は半透明な層を形成し、部分的に重なり合うことで新しい形体を創出している。複数の空間構造が広がるボハチュの作品は、鑑賞者に開放的で魅惑的な視覚経験を差し出すだろう。

エルヴィン・ボハチュ
会期:2025年1月25日(土)〜2月22日(土)
場所:タカ・イシイギャラリー 京橋(東京都中央区京橋1-7-1)
時間:11:00〜19:00
休館日:日月祝


2. 岩竹理恵+片岡純也×コレクション 重力と素材のための図鑑(神奈川県立近代美術館 鎌倉別館)

岩竹理恵《室内画36 野外彫刻のある室内》2024年 インク、紙 作家蔵 撮影:髙橋健治
片岡純也《P波またはS波の繰り返し運動》2023年 スプリングコイル、上皿天秤、モーター、他 作家蔵 撮影:髙橋健治
伝海田采女筆《歓喜天曼荼羅》14世紀頃 絹本着色 神奈川県立近代美術館(木下翔逅コレクション)

岩竹理恵と片岡純也が日本美術を探求

共に1982年生まれの岩竹理恵と片岡純也が2013年に組んだユニット、「岩竹理恵+片岡純也」。イメージの連想によって絵画の空間性を思索する岩竹の平面作品と、身の回りや自然の現象から着想を得た片岡のキネティック作品をインスタレーションとして構成することを通して、身体性や時間性を喚起する新たな視覚体験を促してきた。

本展では、同館のコレクションから曼荼羅(まんだら)、大津絵、鯰(なまず)絵、茶器などの日本美術を中心に作家と学芸員が作品を選定し、新たな光をあてる。対象を他のものになぞらえ、そこに実在しないものをあるように表現する「見立て」や、浮世絵の画中画などの「入れ子」構造など、日本美術に見られる造形的な特色と魅力を、遊び心のあるユニークな手法を通して探究する。また、鎌倉時代の《両界曼荼羅(胎蔵界・金剛界)》を約10年振りに公開するほか、現存作例の極めて少ない《歓喜天曼荼羅》、俵屋宗達《狗子図》など、同館の日本美術の名品を見る貴重な機会でもある。

岩竹理恵+片岡純也×コレクション 重力と素材のための図鑑
会期:2025年2月1日(土)~ 4月13日(日)
場所:神奈川県立近代美術館 鎌倉別館(神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1)
時間:9:30〜17:00(入場は30分前まで)
休館日:月曜(2月24日を除く)


3. ポーラ ミュージアム アネックス展 2025 ー軌跡を辿るー(ポーラ ミュージアム アネックス)

展示風景。
展示風景。
スクリプカリウ落合安奈 ひかりのうつわ 2023-2024 フィルム写真、5ch スライドプロジェクタープロジェクター 可変
鎌田友介 Japanese Houses 2023 木材、アクリル板、インクジェットプリント、障子紙、ガラス、蛍光灯、1930年代に韓国仁川に建設された日本家屋の部材、絵葉書、鉄、ワイヤー、シングルプロジェクション サイズ可変 「ホーム・スイート・ホーム」展示風景(国立国際美術館、2023)撮影:福永一夫
武田竜真 The Eye of a Needle 2021 木製クレート、発泡スチロール、ヴィデオプロジェクション サイズ可変

多様な文化を見つめる3作家の表現の原点

公益財団法人ポーラ美術振興財団による助成事業の1つである、若手作家を対象にした在外研修を修了した作家を紹介する展覧会。

二部構成となっており、第一部「軌跡を辿る」では、様々な文化的背景を持つ3人の作家が自身の内面や感情などを丁寧に掘り起こし、表現の原点を見出す。作家は、朝鮮半島や南米などで、かつてそこに暮らした日本人たちによって建造された「日本家屋」を研究する鎌田友介、ドイツのドレスデン美術大学でカールステン・ニコライの下で学び、同国を拠点に漆の特性と歴史に着目した作品を制作する武田竜真、日本とルーマニアにルーツを持ち、「土地と人の結びつき」というテーマで制作活動するスクリプカリウ落合安奈。第二部「マテリアルの可能性」(3月14日~4月13日)は入江早耶、安西剛、多田佳那子が出展する。

ポーラ ミュージアム アネックス展 2025ー軌跡を辿るー
会期:2月7日(金)~3月9日(日)
場所:ポーラ ミュージアム アネックス(東京都中央区銀座1-7-7 POLA銀座ビル3F)
時間:11:00~19:00(入場は30分前まで)
休館日:なし


4. マシン・ラブ: ビデオゲーム、AIと現代アート(森美術館)

ビープル《ヒューマン・ワン》
2021年
4面スクリーン(16K)、磨かれたアルミメタル、マホガニー材の枠、メディアサーバー、NFTの変化と同期した映像(永続)
220×114.8×114.8 cm
展示風景:「ビープル:ヒューマン・ワン」M+(香港)、 2022-2023年
撮影:ロク・チェン
ルー・ヤン(陸揚) 《独生独死—自我》 2022年 ビデオ 36分 音楽:liiii
藤倉麻子+大村高広 《記録の庭》 2022年⁻ 空き家、庭、ビデオ サイズ可変 ※参考図版
シュウ・ジャウェイ(許家維) 《シリコン・セレナーデ》(イメージ図) 2024年 ビデオ・インスタレーション
キム・アヨン 《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》 2022年 ビデオ 25分

仮想空間、AI、ゲームetc.人類とテクノロジーの関係を考える

仮想空間と現実世界が接続し、人工知能(AI)が飛躍的に発展する現在。同展では、計12組のアーティストによるゲームエンジン、仮想現実(VR)、さらには人間の創造性を超え得る生成AIなどのテクノロジーを採用した現代アート約50点を紹介する。

展示作品には、アバターやキャラクターなどジェンダーや人種という現実社会のアイデンティティからの解放や超現実的な風景の可視化といった特性が見られる。そして、これら新しい方法を採用しながら、アーティストの表現の根幹では普遍的な死生観や生命、倫理の問題、現代世界が抱える環境問題、歴史解釈、多様性といった課題が掘り下げられている。出展作家はビープルルー・ヤン、ケイト・クロフォード、ヴラダン・ヨレル、ディムート、藤倉麻子ら。

マシン・ラブ: ビデオゲーム、AIと現代アート
会期:2025年2月13日(木)〜6月8日(日)
場所:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F)
時間:10:00〜22:00(祝日を除く火曜は17:00まで)
休館日:なし


5. 高橋恭司・古川日出男「水霊」(LOKO GALLERY)

展示風景。

高橋恭司と古川日出男の魂の共鳴

写真家の高橋恭司(1960年東京生まれ)と小説家の古川日出男(1966年福島県生まれ)による異色のコラボレーション展。同展は高橋が100号の絵画2点を描いたことから始まったもので、古川はこの絵画を見た瞬間、タイトルの「水霊」という言葉が湧き出てきたという。

高橋の写真は、被写体をそのまま撮っているとは限らない。あるとき、高橋が栃木の井頭公園でなにげなく撮影した写真2点にはそれぞれ「水霊」が念写されていた。それを受けて古川は長い「水霊」の詩を書き、井戸の底で火を焚いて、詩を火に焚べ焚書とする一連のパフォーマンスを行った。その様子をボレックス・16ミリフィルムカメラのレンズをデジタルカメラに装着して撮影しており、本展ではその記録映像を上映する。

高橋恭司・古川日出男「水霊」
会期:2025年2月14日(金)〜3月8日(土)
場所:LOKO GALLERY(東京都渋谷区鴬谷町12-6)
時間:11:00〜18:00
休館日:日月祝

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