• SOCIAL
  • NEWS
  • 2024.07.22

ボストンで過去最大のパブリックアート・プロジェクトが始動。前作で物議を醸したハンク・ウィリス・トーマスも参加

ボストン市は、過去最大規模の「記念碑」を中心としたパブリック・アートプログラムを発表した。その内容は、地域に貢献した黒人などスポットが当てられてこなかった人々に注目しており、これまでの記念碑像を大きく覆すものだ。

ハンク・ウィリス・トーマスとMASSDesign Groupによる銃暴力メモリアル・プロジェクト。© National Building Museum/ Elman Studio LLC

ボストン市はこのほど、30におよぶ「記念碑」を中心とした新しいパブリック・アートの構想を発表した。このイニシアチブは、メロン財団からの300万ドル(約4億7000万円)の助成金によって運営されているが、ボストンのパブリック・アートのプログラムに投じられた金額としては過去最高額となる。

同市は近年、歴史家や活動家たちから地域に貢献した黒人をもっと記念碑で称えるよう求められており、パブリック・アートの目的を再考するために多大なエネルギーを費やしてきた。その流れを汲んで始動したのが、今回のプログラム「Un-monument|Re-monument|De-monument」であり、記念碑を通じたアメリカの景観を変革し、地域の歴史がより完全かつ正確に表現されるようにすることを目的としている。

同プログラムでは、7組のアーティストが、市内に彫刻や、壁画、ニューメディア、AR(拡張現実)、演劇、社会的・地域的な実践を含む新しいパブリック・アート・インスタレーションを設置する。その一例を挙げると、ボストンのMC兼ダンス・リードのアーロン・マイヤーズとDJのエドワード・ギャランによって共同設立されたクリエイティブ集団、ア・トライク・コールド・ファンクは地元のグラフィティ・アーティストと協力し、地元コミュニティへの貢献者にオマージュを捧げる。

また、非白人の歴史にまつわるアート作品を提供する拡張現実(AR)アプリ、キンフォーク・モニュメント・プロジェクトは、まだ十分に評価されていない黒人の歴史的人物のバーチャルなモニュメントを制作予定。中国系アメリカ人の演劇プロデューサー、アリソン・ユーミン・クーと教育者、劇作家、ミュージシャンのジャロンジー・ハリスは、ボストンのチャイナタウンへオマージュを捧げる。

その中でも、最も著名なアーティストは、ハンク・ウィリス・トーマスだろう。トーマスは2019年からMASSDesign Groupとともに手掛けているシリーズ「The Gun Violence Memorial Project」を発表する。このシリーズは、アメリカにおける銃による一週間の平均犠牲者数である700のガラスのレンガで作られた4つの家が展示され、それぞれの家の中は、時間の経過とともに、銃による犠牲者の肉親から寄贈された追悼の品々で埋められていく。

この作品は、彼がボストンで手掛ける大規模なパブリック・アートとしては《The Embrace》に次ぐものとなる。《The Embrace》は、公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)と妻のコレッタ・スコット・キングを記念したもので、夫妻の顔は無く、腕だけで2人の愛情を表現している。ところが、この彫刻が発表されるやいなや、ある角度から見ると卑猥に見えるとの投稿がSNSで相次ぐ事態に。トーマスはUS版ARTnewsの取材に対し、「私の作品は、それを見る人との対話だと伝えたい。逆風がどんなに強かろうと、それは私にとっては対話のチャンスでもある。共同体の愛を示す作品が、これほど好意的に受け入れられているのに、動揺したり、失望したりするわけにはいかない」と話していた。

今回のパブリック・アートプログラムについて、ミシェル・ウー・ボストン市長は声明で次のように述べた。

「このパブリック・アート・プログラムへの投資は画期的なもので、住民のさまざまな文化、才能、歴史を際立たせる取り組みを支援するものです。アートを通してこの革新を目の当たりにできることを光栄に思います」

そのほか同プログラムには、マルコムXの姉、エラ・リトル・コリンズの記念碑や、ベトナム人のディアスポラ体験を反映したインタラクティブな記念碑を含む将来のプロジェクトのための研究助成金も含まれている。

プログラム参加作家である、映画監督でマルチメディア・アーティストのロベルト・マイティは、「これまで何世紀にもわたって石やブロンズ(による記念碑)は何が重要か、誰が重要かを示すために使われてきました。 ありがたいことに、この種の記念碑は近年、私たちが共有する物語から取り残されてきた人々の功績を称えるために建てられることが多くなってきています。今回取り入れられるARなどの新しいメディアは、アーティストや団体に、記念碑を制作するエキサイティングな方法を提供します」と話す。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい

  • ARTnews
  • SOCIAL
  • ボストンで過去最大のパブリックアート・プロジェクトが始動。前作で物議を醸したハンク・ウィリス・トーマスも参加